事件の人間学[特別編]から統一教会と文鮮明に関する箇所を抜粋し、加筆して公開します。
Y・T(安倍元総理を銃撃した男)の人格形成に間接的な影響を与えた人物として、統一教会の開祖である文鮮明もあげられます。
それと同時に、なぜカルトが一定の人に受け入れられるのかも考察していきます。
統一教会の正式名称は世界基督(キリスト)教統一神霊協会で、キリスト教の分派としてスタートしました。
しかし文鮮明がイエス・キリストに代わって救世主を名乗ったことで、従来のキリスト教団体からはキリスト教と認められなくなりました。
現在は世界平和統一家庭連合に名を改め、統一教会時代の霊感商法や過度な献金を廃止して、健全な教団運営に勤めようとしています。
事件の人間学で用いている「人を見抜く方法」では何ごともニュートラルに見るので、統一教会を解散させるべきという観点では解説していません。
用語の説明
ここではエゴグラムという人格診断の用語を用いて、人物の解説をしています。
暗記しなくても本文は読めるようになっていますが、一応5つの用語を列記します。
CP(厳格な父性):責任感・向上心・規律・自他に厳しい・指導的・正義感
NP(優しい母性):優しさ・共感力・面倒見のよさ
A(大人の論理性):論理性・情報収集・分析・計算高さ・客観的・利己的
FC(自由な子供性):好奇心・行動力・創造性・感情的・わがまま
AC(場に合わせる子供):協調性・顔色を伺う・自信がない・ひねくれる
1920年に生まれる
文鮮明は日本統治時代の朝鮮北部で生まれて、日本語教育を受けて育ちました。
彼の家系は代々儒教を信仰していて、統一教会に見られる祖先崇拝や男尊女卑の思想は、儒教の影響を受けていると思われます。
儒教は祖先崇拝の他に政(まつりごと)に関することまで扱っており、政治に接近した統一教会の姿勢と重なります。
文鮮明が15歳の時、身内に不幸が続いたうえに姉と兄が精神に異常をきたし、普段の彼らからは想像できないような暴れ方をしました。
精神医学が未発達の当時、こういった現象は悪魔憑き(日本ではキツネ憑きと呼ばれる)のように思えたでしょう。
立て続けに家族に降りかかる不幸に対して儒教的なアプローチでは解決できなかったため、一家でキリスト教に改宗しました。
このあたりのエピソードは文鮮明の伝記の発表時期によって異なり、後に姉と兄のことは言及されず、弟妹が亡くなったことでキリスト教に改宗したとなっています。
こういった情報の変化は、初期に発表されたものの方が信ぴょう性が高いので、姉と兄の異変に関することは無視できない情報です。
キリストからの啓示
文鮮明がキリスト教の復活祭の日に祈りを捧げていると、突然イエス・キリストの啓示(メッセージ)を受けました。
文鮮明いわく、キリストは自身が果たしきれなかった人類救済の使命を文鮮明に託してきたそうです。
文鮮明は何度か「できません」と断っていましたが、キリストの「あなたしかいない」という言葉を受けて、自分がキリストの代わりになることを決意しました。
文鮮明が選ばれた根拠は不明ですが、神の啓示を受けた人の逸話ではこのように唐突に始まるパターンが多いです。
文鮮明は有力な政治家や財閥の子息ではなく、強力なコネを持っていたわけではありません。
そんな文鮮明が後にさまざまな国に進出し、年間で数百億円・数千億円という資金を動かし、世界各国の要人に会うまでになりました。
普通の人間であれば組織が拡大するにつれて慢心したり、差配しきれない人やお金に怖気づいたりするものですが、キリストの後押しを受けた文鮮明には迷いが見られません。
そういったことから、文鮮明は本当にキリストから啓示を受けたものと思われます。少なくとも彼の中では。
幻覚・幻聴
ここでは文鮮明が経験した啓示を幻覚・幻聴と仮定し、精神医学的な見地から考察をしていきます。
幻覚・幻聴を引き起こす精神疾患はいくつかありますが、文鮮明の姉や兄に悪魔憑きのような症状が見られたことから、統合失調症の可能性が考えられます。
統合失調症という呼び名だと漠然とした印象でわかりにくいですが、かつて使われていた精神分裂病という呼び名であれば、どういったものかイメージしやすいのではないでしょうか。
統合失調症は前後不覚になって暴れたりする症状ばかりではなく、そこにいない人物の声が聞こえたり、自分が有名人や特殊能力を持った人間だと思い込んだりします。
こういった妄想は突拍子がなくて、たとえば自分は卑弥呼の生まれ変わりで、天気を操ることができると思い込んでいる者もいます。
あるいは宇宙人のコミュニケーション方法など知らないはずなのに、テレパシーでUFOを呼ぶことが出来ると思い込んでいたりと、根拠がまったくないことでも現実のものとして受け入れてしまいます。
これは文鮮明がキリストの「あなたしかいない」という根拠のない啓示を、現実として受け入れた逸話に通じます。
皆さんは統合失調症の感覚を理解不能だと思うかもしれませんが、睡眠中の夢で統合失調に近い体験をしているはずです。
夢の中では例えばいきなり自分が教師になっていたとしても、何の疑問も抱かずに受け入れて、教壇に立って授業を始めたりしているのではないでしょうか。
あるいは人を殺して警察に追われる夢では、犯行を行った場面がなくても自分は殺人犯だと思い込み、罪悪感や後悔の念までありありと感じたりします。
夢から覚めそうになった時にはじめて、なぜ逃亡しているのかと矛盾した設定に気が付きます。これが統合失調症の世界です。
文鮮明のキリストからの啓示が幻覚・幻聴であったとしても、それが悪いというわけではありません。
統合失調症はどの時代・国でも人口の1%くらいの確率であらわれ、彼らは精霊の言葉を聞いたり天候を占う神の使いとして存在していました。
常に絶対の自信を持って確信めいたことを言う彼らは、飢饉や戦災などで将来の見通しが立たない時代に、人々の精神的な支柱になってました。
進学と就職
文鮮明は1941年に、早稲田大学に併設されていた電気関係の専門学校に進学しています。高校も電気関係の学科だったので、一本筋が通っているような学歴を辿っています。
当時の進学率からすれば専門学校は高学歴の部類で、特に朝鮮半島北部から東京へは海外留学に近く、彼のCP(向上心)・FC(行動力)と、一定のA(論理)を評価します。
卒業後は鹿島建設のソウル支社に電気技師として就職したので、高校から続く彼の一本道の経歴はCP(厳格な父性)とA(論理性)を評価します。
真偽は不確かながら文鮮明は学生時代に抗日運動に参加したとして、ソウルに戻ってから官憲に拷問を受けたと言っています。
真偽が不確かな理由は、一時期は文鮮明の学歴が早稲田大学卒となっていて、故意のウソであればFC(気まぐれ・自由奔放)によるもので、他にも盛った話をする可能性があるからです。
それに韓国において抗日運動に参加したという話は、戦後に親日派と見なされないために盛って話される傾向があるので、そのまま鵜呑みにはしにくいです。
特に東京の学校に進学し、日本企業に就職した文鮮明は親日的と見なされやすいので、それを打ち消す必要がありました。
逆に完全にウソと断言できないのは、CP(意志)とFC(感情的・行動力)が高めの文鮮明であれば、本当に抗日活動をしたこともありえるからです。
終戦後
終戦により勤め先を失った文鮮明は、キリスト教の修道院(宗教的な共同生活を送る場)で助手のようなポジションで活動を始めます。
この経歴の流れを断ち切るような転向の理由ですが、社会情勢の激変と職を失った不安感によるものと推察します。
かつて彼の親族に不幸が続いた時と同じように、不安感によって神秘主義に偏りやすい性質が浮上したものと思われます。
文鮮明が不安感に苛まれながら必死で救いとなる道を模索したがゆえに、Y・Tの母親のように不安感が多い人を魅了する教義が生み出せたのでしょう。
初期の宗教活動
修道院で助手をしていた文鮮明は師にあたる人物に、自分がキリストから後継者に指名されたことを伝えましたが認められなかったため袂を分かち、妻子を置いて朝鮮北部で独自に布教活動を行いました。
当時は朝鮮戦争の勃発前でしたが、すでに北部は共産主義政権の統治下であったため、宗教活動をする文鮮明は目を付けられて何度か逮捕されて拷問を受けました。
スパイ容疑のほか社会秩序紊乱罪でも逮捕されており、これは夫と子供がいる女性と肉体関係を結んだ罪です。
朝鮮戦争後に韓国で統一教会を設立した後にも、文鮮明は社会秩序紊乱罪に似た事件を起こしています。
黎明期の統一教会では文鮮明が女性信者と肉体関係を結ぶ血分けという儀式が行われていたと、行動を共にしていた男性信者や当時の妻が述べています。
後に統一教会がアメリカで問題視された際に作成されたフレイザー報告書では、文鮮明が聖書を性的に解釈して行為を行い、数々の逮捕歴があると述べられています。
男性の生理的な欲求として妻との間に子供ができたら別の女性との性行為を望むものですが、一夫一婦制の現代では不貞行為にあたります。
そこで彼は妻以外との性的行為を正当化するために、聖書のアダムとエバ(男と女)に関する部分を独自に解釈して血分の儀式とすることで、本人の中で整合性(罪悪感を抱かずにすむ)をとっていたのだと思います。
性的な行為に関して教団側は文鮮明の逮捕歴を認めつつも、起訴には至っていないと釈明しています。
血分けの儀式には男性信者も参加して男女複数で交わることがありましたが、教団の規模が拡大するにつれてイメージ的にそぐわなくなり、合同結婚式へと変化したと言われています。
若い頃の文鮮明は精悍な顔つきで背も高く、弁舌も巧みで男性的な魅力があり、多くの女性との間に子供を作っています。
女性信者の中には資産家の子女もいて、それが初期の教団の資金力の強化に繋がりました。
文鮮明の宗教家としての評価は分かれますが、人間のオスとしてはかなり成功した部類と言えます。
英雄色を好むという言葉があるように、CP(大志を抱く・支配的)が高い人物は様々な女性と交わり、子供を多く作る傾向があります。
韓国国内では異端
文鮮明がキリストの代わりに真の父を名乗ったことで、統一教会は韓国の他のキリスト教会から異端視されました。
ミッション系の女子大学で教授や複数の生徒を統一教会に入信させていたことがわかると、文鮮明が逮捕されるなど統一教会への風当たりは強かったです。
しかし反共産主義のスローガンを掲げて当時の韓国の軍事政権に食い込み、政府からの保護を受けることに成功しています。
統一教会は資金力だけでなく信者という人的資源もあり、宗教活動を軸に経済活動や政治活動を行っており、韓国政府の意向でアメリカ議会に工作を仕掛けたりしていました。
同時期の日本でも共産主義活動の封じ込めに苦慮していた頃で、反共産主義を掲げた統一教会はそれほど警戒されずに日本に進出できて、1964年には日本で宗教法人の認可を受けています。
そして文鮮明の教えを研究するサークルが様々な大学で作られ、日本の学生が入信していきました。
大学というのは社会に出ていく準備をする場であり、自由な子供時代の終わりに漠然とした不安を抱く学生も出てきます。
そんな学生にとって動乱を乗り越えた文鮮明のような人物の思想は、頼りがいのあるものに思えたでしょう。
日本語を話せる文鮮明は講演の際、まるで講談師のように情感を込めて喋るので耳に入ってきやすく、そういった表現の面でも優れていました。
文鮮明はとっつきにくい宗教家ではなく、居酒屋の座敷にいる気さくなおじさんという感じで親近感を持たれやすい人物でした。
日本進出
日本に進出した統一教会は1964年に宗教法人の認可を受けると、教団本部を安倍元総理の祖父である岸信介の邸宅の隣に移動しました。
安定した教団運営のために韓国で政権と緊密な関係を築いた文鮮明は、日本でも同様の戦略をとりました。
左翼学生に目の敵にされて責め続けられた岸信介は、自身を肯定してくれる教団に集まる若者に好感を抱きました。
日本は政教分離の原則があって岸信介を統一教会に直接取り込むことはできないので、文鮮明は国際勝共連合(共産主義に勝利する)という政治団体を作り、その団体を通じて岸信介との関係を深めました。
文鮮明は日本を怨讐の国と呼び反日思想を持っているように見えて、彼の経歴や実際の行動を見ると親日的という二面性があります。
これも憎い日本に慈悲の心を持って接していると考えれば、文鮮明の中では整合性がとれているのでしょう。
統一教会の教え
文鮮明の思想が色濃く反映されている統一教会の教えでは、日本はエバ(女)国家ということになっています。
この話は第二次大戦に遡り、悪魔の側の枢軸国ではドイツがアダム(男)国家で日本がエバ(女)、そして天使長がイタリアということになっています。
ちなみに連合国は神の側で、アダムがアメリカでエバがイギリス、天使長がフランスです。
キリスト教では天使長は後に堕落して悪魔になるのですが、文鮮明はこれと大戦中に相手方に寝返ったイタリア・フランスを重ね合わせていて、中二病的な世界観ながら辻褄は合っています。
戦後の日本は引き続きエバ(女)国家とされましたが、なぜか韓国がアメリカを押しのけて神の側のアダム(男)国家になっています。
そして男性は女性に尽くすべきという男尊女卑の思想のもと、悪魔でエバ国家の日本は、韓国に尽くしてこそ生まれ変われるとされています。
この思想に基づいて教団の管理職のような立場の信者が一般信者から熱心にお金を集め、結果的にY・Tの家庭のように破産に追い込まれる人々が出ました。
日本は資金面のみならず、合同結婚式において献身的な妻を韓国に供給する役割もありました。
日本人が合同結婚式に参加するにはもろもろ込みで百万円以上かかりますが、韓国人の男性信者は無料で、信者でなくても安価で参加が可能です。
合同結婚式では教祖が選んだ相手を嫌がることは罪なこととされており、成婚率が極めて高い結婚相談所のようなものです。
低学歴・低収入で嫁が来ない韓国人男性にとって、合同結婚式は高等教育を受けて献身的な日本人女性と、安価で結婚できる場となりました。
合同結婚式によって生まれた時から背負っている原罪から解放されるという教えなので、傍から見ると不幸な結婚に見えても、結婚した当人はバキバキの目で「幸せです」と言ったりします。
離婚して日本に帰国した女性もいますが、信仰の結びつきで貧しくても確固とした夫婦生活を続ける日本人女性が、今も韓国に数千人いるのも事実です。
同時期のカルト宗教
統一教会の霊感商法が問題視された頃に、オウム真理教が地下鉄サリン事件を起こしたため、相対的に統一教会への批判が弱まりました。
ここでは新興宗教の教祖への理解を深めるために、オウム真理教の麻原彰晃について簡単に考察していきます。
麻原の祖父はCP(厳格な父性)が必要な代表的な職業である警察官の職に就き、日本統治下の朝鮮に渡って署長にまでなった人物です。
戦前の男性は平均的にCP(厳格な父性)が高めでしたが、警察官や町長などは特にCP(威圧的・自他に厳しい)の高さが求められる職業でした。
朝鮮で生まれた麻原の父親は終戦とともに日本に引き揚げますが、祖父の財産の多くは朝鮮から持ち出せずに放棄したと思われます。
麻原の父親は熊本で畳職人を始めますが洋風建築も増えてきたために需要が減り、当時としてもかなり貧窮した家庭になってしまいました。
そんな家庭に麻原は9人兄弟の7番目として生まれます。彼は生まれつき片目が見えず、他の兄弟にも全盲や弱視の者がおり、水俣病(水銀汚染公害)の疑いがありましたが認定はされていません。
彼の片目は見えていましたが視力が弱っていく可能性があったのと、経済的な理由で小学校の途中で寄宿制の盲学校へ転校となりました。
この転校は本人にとっては不本意で、親に捨てられたかのような被害感情を抱きました。
そういったうっぷんもあってか盲学校での麻原は、「盲人の国では片目の人間が王になる」ということわざのように暴君になって、他の生徒を支配して金を巻き上げたりしました。
盲学校の中では強者であった麻原ですが、なまじ王のような気分を味わっていた分だけ、一般社会では弱者という現実はこたえたと思います。
恐らく見える方の目も弱視が始まっていたと思われ、不安な気持ちも高まっていたでしょう。その気持ちは徐々に精神を蝕み、少しずつ彼に異常な行動があらわれていきます。
麻原は視力の問題で医師の夢を諦めると、今度は政治家になることを志して、手始めに盲学校の生徒会長に立候補します。
彼は日頃の他生徒への横暴を省みずに、自分には人望があると思い込んでいました。
麻原は余裕で当選すると思っていた生徒会長の選挙に落ちると、教師が妨害したのだと被害妄想にとりつかれました。こういった誇大妄想・被害妄想は統合失調症の始まりを予感させます。
彼が経験した貧困や盲学校への不本意な転校や、大志を抱いても叶わない現実、社会的弱者と思い知らされる出来事の数々は、精神疾患を発症しても不思議ではないストレス量です。
人の精神力では抱えきれないストレスに対処するために、脳は妄想を見せて苦痛を和らげようとします。本人は苦痛に満ちた現実から逃れるために、心地よい妄想の世界に入り浸るようになっていきました。
二十歳の麻原は総理になるために登竜門となる東大を目指しますが、数回の受験で挫折して鍼灸師に方針転換するものの、そこで金銭的なトラブルを起こしてしまいます。
トラブルや挫折の度に妄想性が強まる麻原は、次第に神秘的な力に傾倒するようになり、仏教系の新興宗教に入りました。
その後に薬事法違反で逮捕されると、麻原は何もかもがうまくいかない人生からの救いを求めて、ますます宗教にのめり込んでいきました。
しかし入信した新興宗教では満たされず、彼は自分でヨガや気などを組み合わせた独自の会を設立し、それが宗教法人化してオウム真理教になりました。
オウム真理教ではヨガの世界観に彼の統合失調症的なオカルト思想が結びつき、座禅を組んだまま浮かび上がる空中浮遊などが行われていました。
普通の人が彼らの空中浮遊を見ても、あぐらを組んで身体能力でピョンピョン飛び跳ねてるようにしか見えません。
しかし精神が弱っていて不思議な力を求める人は、麻原が空中に浮かんでいる写真を見て本物だと信じ込み、オウム真理教に興味を持ちました。
オウム真理教が一定数の信者を集められたのは、苦しい半生を送った麻原が自らを救済するために生みだした教義があったからです。
麻原は統合失調症的な傾向が見られましたが、それが発揮されるのはヨガや気などの分野に限られ、日常では普通の人間に見えました。
麻原はまるで必要な時だけ狂気(オカルト)の扉を開ける、鍵を持っているかのようでした。
程度の差こそあれ誰の脳にもオカルトを信じる部分があるのは、現代人の祖先が用心深さで生き残った種だからです。
夜の森でガサガサと音がしたら肉食獣の存在を疑うように、原因不明の不幸が続いたら人智を超えた敵を警戒します。
このようにオカルトの存在を感じようとする習性があるので、古くから世界中で魔法使いや幽霊の話が存在します。
狂気と正常の狭間でオカルトの鍵を手に入れた麻原は、他人の脳に存在するオカルトの扉を開けられたので、相手の奥深くまで入って思想を植え付けることができました。
精神的に疲れて不思議な力にすがりたい人はオカルトを信じたいため、不思議な力を持っている(と妄信している)麻原に付き従ってしまいました。
このようにカルトの洗脳の仕組みは一方的なものではなく、洗脳される側にオカルトにすがる気持ちがあって成り立つものです。
麻原と信者の関係
オウム真理教では麻原が王様で信者が奴隷のように思われがちですが、貪欲なくらい救いを求める信者たちが強大な力を教祖に求め、麻原がそれに応えようとして過激になっていったという側面もあります。
麻原には自分が受け入れがたい現実があると妄想に逃避するパターンが見られますが、オウム真理教が拡大していくにつれ社会との軋轢が生まれ、糾弾されるにしたがって麻原の妄想性は更に強くなっていきました。
彼の妄想は信者にも伝播し、教団施設の上空を飛ぶ航空機を見てガスを散布されていると思い込んだり、集団で社会に対する被害妄想を膨らませていきました。
社会に攻撃されていると感じていた教団は武装化を進め、1995年に地下鉄で毒ガスを撒く地下鉄サリン事件を起こしました。
オウム真理教の信者は1999年に世界が滅亡するというノストラダムスの大予言を信じていて、そういったタイムリミットもオウムが先鋭化した一因でした。
麻原本人も統合失調症的な症状がエスカレートしてき、刑務所に収監されてからは正気に戻ることはありませんでした。
麻原彰晃と文鮮明の類似点
文鮮明が女性信者と交わる血分けの儀式に似たもので、麻原彰晃も若い女性信者と性行為の儀式を行っていました。
麻原は他の信者の性行為を制限していましたが、自らは徳が高いので一夫多妻制のように複数の愛人を持つことが可能としていました。
宗教的な解釈を使って性行為を高尚なことのように扱っていますが、太古の昔からあるボス猿が多くのメスを囲う本能に過ぎず、麻原も文鮮明も男だったということです。
一方で麻原と文鮮明には大きな違いがあります。
オウムが信者の家族や弁護士を殺害していったのに対し、統一教会は規模が大きくなるにつれてコンプライアンス(法令遵守)を意識するようになりました。
それに麻原が自ら政党を立ち上げて政界への進出を試みたのと違い、文鮮明は政治家たちの地位を脅かすことなく、取り入って庇護を受けることに終始しました。
こういった身の振り方の上手さから、文鮮明は韓国の歴代大統領が暗殺・投獄される中で、晩年まで安定した地位を保ちました。
文鮮明と北朝鮮
文鮮明は反共産主義を掲げて北朝鮮を悪魔の国と呼んでいましたが、主に日本の信者から集めた数千億円を金日成に渡して、会談にこぎつけました。
儒教では弟は兄に服従するという価値観がありますが、会談で文鮮明は金日成のことを兄と呼んで取り入りました。
これは彼が反日的な思想を持ちながら親日的な姿勢をとった二面性に通じますが、ともあれ北朝鮮とのパイプを作ったことによって韓国や日本で統一教会の重要性は高まり、政治的な保護を受けやすくなりました。
信者たちの中には悪魔と呼んでいた北朝鮮への接近に疑問を抱く者もいましたが、他の多くの信者は文鮮明が金日成を慈悲の心で手名付けたなど、合理化して解釈しました。
信者は自分の信仰が揺らげば再び精神的に不安定な日々に戻ってしまうので、統一教会に矛盾点が見られてもことごとく美化して都合よく解釈します。
このあたりはお金の不安を抱えた人が怪しい投資話に対し、疑わしい部分があっても楽になりたい一心で都合の良い解釈をして、出資をしてしまうのに似ています。
人は自分にとって都合の良い話なら、矛盾点があっても進んで信じてしまいます。
晩年の文鮮明
CP(厳格な父性・頑固)が高い人物が老人になると、往々にして頑固さが転じて偏屈になり、周囲から反感を買うことが多くなります。
男尊女卑の夫が歳をとって頭や体が弱ってくると、妻が強い立場になって報復する姿は一般の夫婦でも見られます。
文鮮明の最後の妻の韓鶴子は23歳年下で、衰えが見え始めた文鮮明に代わって統一教会内で台頭し始めました。
文鮮明はそんな態度が気に食わなかったのか、晩年の講演で信者たちの真の母であるはずの韓鶴子を否定しました。
この頃の文鮮明には認知症のような症状が見られ、近親者に猜疑心を抱いてひどい言葉を投げつけたりするのもその一つです。
しかし実質的に統一教会を取り仕切るようになっていた韓鶴子の地位は揺るがず、文鮮明はほどなくして亡くなりました。
文鮮明の死後
文鮮明が亡くなると統一教会の神話は改編されて、物語の主役が韓鶴子に書き換えられました。
元々は文鮮明が妻にしたから韓鶴子が真の母になれたという話が、文鮮明の死後は主従関係が入れ代わり、原罪なしで生まれた韓鶴子のおかげで文鮮明が真の父になれたという話に変わりました。
韓鶴子は実子たちとの間で後継者争いになりましたが、これを制して息子たちを追放し、正式に統一教会の教祖と関連団体の総裁になりました。
文鮮明のCP(指導的・覇権)の性質で作られた統一教会は、韓鶴子が教祖になってから世界平和統一家庭連合の名前に変わりました。
この改名は霊感商法のイメージを払拭するためと言われていますが、家庭と入れたところは韓鶴子と側近の女性幹部の感性が入ったことが伺われます。
韓鶴子は14人の子を生みますが、特別なはずのその子らは半数が離婚をしていて、他にも仲たがいなどで彼女のもとに残った子は僅かでした。
権力者に取り入ることが得意だった文鮮明と違い、総裁になってからの韓鶴子は強硬な態度が目立つようになり、誰にも屈しない女帝のようになっていきました。
安倍元総理銃撃事件の後でも韓鶴子の強気は変わらず、行政から教会に対して質問権が行使されると、ますます態度を頑なにしていきました。
質問権とは解散命令請求を決定する一歩手前の調査で、文鮮明であれば泣いて許しを請う三文(安い)芝居を打ったかもしれませんが、韓鶴子は幹部たちを集めて「岸田(当時首相)を呼びつけて教育を受けさせなさい!」とゲキを飛ばしています。
献金に関しても「日本は戦犯国だから賠償しなければならない」と正当化しており、これらの発言が影響したのか統一教会に対する解散命令請求が決定されました。
統一教会を肯定的に見てみる
『人を見抜く方法』では人や組織を見る際に、否定と肯定の両方の観点で情報の幅を広げるようにしています。
統一教会では過度な献金や霊感商法がクローズアップされて法外なお金を取られる印象がありますが、持っている人からお金を引き出す仕組みがあっただけで、お金がない人からむしり取るわけではありません。
実際にY・Tの母親は破産した後でも、心のよりどころになる統一教会の信仰を続けられています。
多額の費用がかかる宗教の運営では様々な資金調達が試みられ、かつてはカトリック教会も現世の罪が赦されるという免罪符を売っていたり、日本でも高利貸を営む寺社が存在した時代もあります。
統一教会の霊感商法は商業主義と結びついて行き過ぎの面がありますが、仏教でも納める額によって戒名のランクが変わるシステムがあります。
日本(エバ=女性)は韓国(アダム=男性)に尽くさなければならないという文鮮明の教えのもとに、法外な献金によって家庭が崩壊する人々が出ましたが、統一教会がコンプライアンス(法令順守)を強化してからは献金トラブルの件数は減少しています。
本書ではここまでオカルトについて否定的に扱ってきましたが、先祖解怨式など霊的な儀式がある統一教会の思想を理解するために、霊が存在する可能性を考えてみます。
脳は神経細胞の枝同士がつながって情報のやりとりをしますが、その枝は完全にくっついているわけではなく、僅かなすき間を挟んで接しています。
そのすき間で一方の神経細胞の枝が情報伝達物質を飛ばし、もう一方の枝が受容体で受け取ることで情報が伝わります。
この情報伝達物質が殺害される間際など強い感情の揺れが発生した時に、断末魔の叫びのように脳の外に出たとします。
外に出た情報伝達物質が残り香のように留まり続け、そこに受容体が発達している霊能者と呼ばれる人が訪れることで、漂う情報伝達物質を拾って霊として見るということは考えられないでしょうか?
このようにありえないことでも全否定せず、1%の可能性を残しておくことで思考の幅が広がります。