ホストくん編より(21~22巻)
ホストになる若者は、多くが男の中でも下の部類に入る者たちだ。
彼らの芝居がかったゴージャス感の演出は、コンプレックスの裏返しだ。
地元でくすぶっていた青年は、人生を挽回しようとホストになる。
ホストになる若者
男たちの『金が欲しい』『女にモテたい』という欲求が、そのまま具現化したのがホスト職だ。
ホストに複雑な家庭環境の者が多いのは、堅実にステップアップする生き方のモデルがなくて、イチかバチかの世界に抵抗がないためだ。
イチかバチかは漢字で『一か罰か』と書くこともあり、賭けで良い目の『一』が出るか、ハズレて『罰』が当たるかという意味だ。
ホストになる者は誰もが都合よく、自分には『罰』の目が出ないと思っている。関連:パチンコ屋に急ぐ
そんな地に足がついていない若者に、ホストクラブの経営者が吹き込む。
「お前らは自分を、
男を試しに田舎から出てきた勇気ある挑戦者だ!!」
彼らは勇気があるのではなく、逆に勇気がないから一般企業での競争から逃げてきたのだ。
そんなコンプレックスがあるから挑戦者と称えてくれる経営者を信奉し、No1を目指せという思想に染まっていく。
こうして若者は歌舞伎町の消耗品に仕立てられていく。
ホストは意外とブスが多い
ホストはモテる男がなるのではなく、モテたい男がなる職業だ。
だからホストを昼間に見ると、ブスな男が多い。
地元でモテなかった男が、ホストにジョブチェンジしただけでパラーメーターは上がらない。
ブスは歌舞伎町でもブスのままだ。
整形しても男の場合はゴツくなってる部分を押し込む板金みたいになるので、仕上がりがお化け屋敷にある機械式のドラキュラになる。
上手くいっても顔のバリエーションが少ないし、均整がとれているのは一時のことだ。
関連:整形した紗理奈の10年後
頭もあまりよくない
寮で営業メールを打っているホスト。
「なァ!?
『会いたい』だっけ?
『合いたい』だっけ?
漢字マジよく分かんね。」
彼はメールがひらがなばかりだとバカっぽくて嫌だと言うが、素がバカだからしかたがない。
バカな人ほど最短ルートを進もうとするが、社会人は人生を迷いながら進む中で、様々な経験を拾って中年になっても揺るがない経済力がつくものだ。
おそらく彼は偏差値が低い高校から高収入を得ようと考えた結果、ホストの職しか思いつかなかったのだろう。
そんな彼らの親も同じくらいのレベルだから、子供に進路のアドバイスが出来ない。
こういう親はホストになる子に対し、『本人のしたいようにさせる』などと言ったりする。
これは理解があるのではなく、長く生きても子供に人生を教えるほど学びを得ていないからだ。
親もイチかバチかの人生で貧しいから、子供をバックアップする財力もない。関連:弱者の世界は子供に厳しい
かわいそうに見えて、こういう人たちは破綻する前日までは楽しい人生を過ごしている。
メディアで紹介されるホストの年収はトップレベルの者の額で、実際は時給換算でコンビニバイト以下の者が多い。
指名客がとれないホストは基本給がもらえず、結局は所持金を減らすだけで何のスキルもつかずに辞めていく。
関連:ダメ人間の宇津井優一
ホストクラブの客
質の悪いクラブでは、新人ホストは事あるごとに罵倒される。
ホストクラブは疑似恋愛の場だから、客は担当(指名)ホストの彼女ヅラをしている。
そこにヘルプでつく新人にとっては、先輩の彼女だ。
腹が立つのは担当ホストが新人に怒鳴ると、それに乗っかって女も説教をすることだ。
「あ―― グラスに水滴ついてるよォ
基本できてないよォ~~!!」
オラオラ系の男にくっつく女は、こんな風に男の背中からヒョッコリ顔を出して、ひとこと言う者が多い。
これは女の方が共感性が高いからで、感情を共有することで親しくなろうとする習性があるからだ。
だが担当ホストが新人に説教したのは、女に注文を入れさせるためだ。
ホストが媚びると女は冷めるので、二人で新人に一気飲みの罰を与えるのを口実に、女にシャンパンを頼めと命令する。
ホストの「共同作業」というセリフに、女は結婚式のケーキ入刀を思い浮かべて舞い上がる。
こうして女の気分が高揚したところで、ホストはシャンパンの中で高いものを注文させようと追い打ちをかける。
『なァ、俺の服 何色よ?』
「黒。」
『お――い!! ドンペリブラック!!』
断れない空気にしてから畳みかけるように高額な商品を売るのは、デート商法と一緒だ。
特に無許可で営業している店は、ヤバくなったらすぐに店を畳んで逃げればいいから、ムチャな売り方をする。
ドンペリブラックはメニュー表では20万円だが、会計時に3割~5割のサービス料が上乗せされる。
更にカード払いの手数料1割などを合わせると、1本で総額で30万円くらいになる。
そんな高額なシャンパンがテーブルにくると、一瞬で消費されてしまう。
ヘルプのホストは酒を捨てるための排水口だから、味わうことは許されない。
後輩がたまらず吐き出すと、罰としてシャンパンをもう一本追加で飲まされる。
これも無論、客の女に注文させたものだ。
ホストクラブはカケ(ツケ)の制度があるから、客に持ち合わせがなくても売りつけることができる。
ホストと反社
ホストが強引な売り方を繰り返せば、冷静になってカケを払うのをバカバカしく思う女も出てくる。
カケが少額の場合はホスト自身が回収に駆けずり回るが、夜の店以外での彼らの交渉力は低く、踏み倒されることが多い。
だが高額になると、債権(カケの権利)が物騒な連中に回される。
特にアングラなホストクラブでカケを払わないで捕まると、想像の5倍くらいヒドいことをされる。
人生何度でもやり直せると言うが、それは一般社会の話で、アングラでは一度のミスで再起不能になる。
比較的ヒドい事にならなくても、学校や昼職を辞めさせられて風俗に沈められる。
ホストクラブと風俗が一緒にある歌舞伎町は、街全体が人をダメにするソファのような構造で、人間性を溶かしてしまう。
ホストクラブで女に儲けさせてもらった後は、風俗に落として紹介料で儲ける。
ホストが女をひとり手に入れると自分でねぶっても良し、飽きたら風俗に売って煮ても焼いても良しと、スルメイカみたいに何度も美味しい。
当然、こんな商売をヤクザが放っておくわけがなく、彼らが関与するホストクラブは多い。
最近ではホスト自身が組に属していることもある。
関連:ヤクザのシノギ
あるホストの日常
迎車で呼ばれたタクシーが明け方の歌舞伎町を通ると、流しのタクシーと勘違いしたホストが乗車拒否されたと思って追いかける。
このように歌舞伎町はキチガイの人が主役の街で、東京の隔離病棟として機能している。
街には故意に見通しの悪い場所が作られていて、十字路にすれば遠くまで視界が開けるのに、わざとT字路にして死角を増やしている。
街全体が隠れ家のようになっているので、一般社会から逃げ出したい者には不思議な安心感をもたらす。
これが精神的に不安定な者が、何となく歌舞伎町に引き寄せられる要因だ。
タクシーが迎車の呼び出し相手の所に行くと、結局はこれもホスト達だった。
ホストと常連客の女、それに後輩のホストがタクシーに乗る。
三人とも歌舞伎町の養分にしかなれない、肥やしみたいな顔をしている。
関連:生きるのが辛いブスのみほ
先輩ホストは荒れた後輩を宥めつつ、常連のヨリコに使えるお金の余力を聞く。
「ヨリコ、お前今月あとどれくらい出来る?」
『えー あと10万がやっとかな……』
「俺、今月TOP10入りてーンだ。50(万)行けない?」
ホストは王子様だからお願いはしない。
「出来る?」とか「行けない?」と、まるでスポーツトレーナーが選手を育てる時のような言葉を使う。
ホストが売り上げをあげるには、金を使う太客をどれくらい確保できるかにかかっている。
今月は10万の予算しか残っていないヨリコに、50万を求めるのは無理がある。
『えー もうアソコヒリヒリだよォ!!
もう風俗やめたいよォ。
お嫁さんにしてよォー!!』
残念だが歌舞伎町の女はネオンを輝かせるバッテリーに過ぎないから、お嫁さんにはなれない。
彼女たちは途中で液漏れ(性病)を起こさなくても、使用期限が過ぎたら立川や蒲田の風俗店、通称ジャンクヤードに回収される。
そんな束の間の関係のヨリコを、勤務先の風俗店まで送るホスト。
ビニール製のダッチワイフみたいな顔のヨリコでは、風俗の稼ぎもたかが知れているので太客にはなれないだろう。
それでも持ち駒が乏しいホストは、数少ない細客で回すしかないのだ。
つまりポケモンでいうと、コイキングしか持っていない状態だ。
ホストクラブにのめり込む客はバグが多いから、他の常連とバトルを始めたり、上手く調教しないと包丁を持ってホストに襲いかかってきたりする。
それに寂しがり屋の客も多く、ホストが少し連絡を怠るとツケを抱えたまま逃げてしまう。
ヨリコを見送ってタクシーに戻ると後輩がゲロを吐いていて、シートを汚したことを運転手に謝るホスト
このくらいの顔の男は、ホストになればモテると思ってなったクチだ。
だがホストはモテるような職ではなく、依存相手を求めるメンヘラ女しか寄ってこない。
関連:地雷女【貧困女子】
まっとうな女性は男の年収と社会的地位を見るから、ホストがモテることはない。
その上、客がいないところで悪口を言うようなホストは、手を洗わない寿司屋みたいなもので、スタートラインにも立てていない。
「俺の客は病原菌バラまいてる風俗嬢しかいねェーよ。
あいつら心も病んでるからマジ疲れるよ。」
裏で悪口を言っていると、接客のふとした時に表に出てしまうものだ。
彼のようなタイプはホストとして大成せず、セカンドキャリアはせいぜいマルチのセミナー講師だろう。関連:お金を稼げない男の特徴
後輩がゲロを吐いたのに、ホストは乗車料金しか払わず降りていく。
実はタクシー運転手も元ホストで、ボロいアパートの寮に帰っていくホストを見送りながらつぶやく。
「頑張って下さい‥‥‥
ホストは辞めてからの人生のほうが
長いンですよ‥‥‥」
ホストになる時は誰も、三十半ばになった時の事を考えていない。
関連:スーパータクシー諸星
売れるホストの条件
売れるホストの条件はサイコパスだ。
サイコパスは快楽殺人者だと思われがちだが、そうではなくて単に自分の欲望に沿った行動に素直なだけだ。必要がなければ殺したりはしない。
サイコパスは脳の構造的に感情に流されることがなく、例えばウソをついても心が全く痛まない。
カケの払いが遅れた客に取り立て屋を差し向けておいて、その客には店長が取り立て屋を雇ったとウソをつくホスト。
「店長が勝手にその筋の人に頼んじゃってさ。
俺はハルコを信じてたから待ってくれって言ったんだけどさ。」
サイコパスというのは善悪を感じる脳が機能しておらず、自分の得になる選択をコンピューターのように、ひたすら冷徹に選べるのだ。
サイコパスに共感性はないが、論理性によって相手が欲しいセリフを言う事ができる。
自分が風俗に落とした客でも資金が尽きたと思ったら、死んだ熱帯魚を水槽から取り除くように、淡々とアドレス帳から消去してしまう。
これは非情に見えるが、企業が従業員をリストラするのと何ら変わりはない。
ホストであってもトップ数%の人間は、外資系幹部のような経営感覚を持っている。
実際、企業幹部や経営者にもサイコパスが多い。
ウソをついたり注目を浴びようとする演技性パーソナリティ(人格)も、ホストに向いている。
ホストのウソは麻酔
ホストクラブでは高い酒を売り、客が破綻することもしばしばだ。
店通いがやめられずに落ちぶれていく女に、「あなたはホストに騙されている」と説得するのは間違いだ。
女たちはホストクラブに、騙されに行っているからだ。
ホストたちのウソは歌舞伎町の女にとって、生きる苦痛を取り除いてくれる麻酔なのだ。
歌舞伎町に集うのは高校を中退したり、育児放棄をしたママたちなど、一般社会で叱られてばかりの女たちだ。
そんなダメな自分をホスト達は「お前はお前のままでいい」と言ってくれるから、女はうれション(犬がうれしいとする小便)しながらホストにのめり込む。
だがホストは「お前のままでいい」とは言うものの、結婚するわけでもないし保証人になるわけでもない。
女に対して何の責任も取らないから、カッコいい事が言えるのだ。
そもそもホスト自身が社会に認められていないから、誰かをジャッジする権限など持っていない。
タラッタラーと、彼らは小学生の昼休みの延長で生きている。
関連:大人になり切れない板橋
女たちがホストクラブに通う理由
ホストクラブにのめり込むと女は所持金のみならず、借金の与信枠(いくらまで借りられるか)まで全てむしり取られる。
一回の請求金額も高額で、店では後期のドラゴンボールの戦闘力くらいインフレな数字が飛び交う。
「もう無理だよ。今日50万くらい使ってるンだよ!?」
ホスト達は女に負債を抱えさせると、肉体や尊厳など、金になりそうな部分を切り売りしてしまう。
これは非道に見えてハゲタカファンド(投資会社)が弱った企業を手に入れて、金に換える手法と一緒だ。
ホストは資本主義のルールに乗っ取って、女からむしり取っているに過ぎない。
それに歌舞伎町に来る女は、深層心理の中で身ぐるみ剥がされる事を望んでいるのだ。
一般社会に適応できず、もう頑張る事ができない彼女たちは、歌舞伎町に人生を捨てに来ているのだ。
最期の場所として青木ヶ原樹海では寂しすぎるから、華やかな歌舞伎町を死に場所に選ぶ。
そして水商売のホストクラブで、末期の水にシャンパンを飲んでいる。
メンタルクリニックでも救われなかった彼女たちは、生殺し状態の人生より破滅に救いを感じる。
引導を渡してくれる担当ホストは女たちにとって、おくり人のような存在だ。
ホストに身を委ねていれば、この世とのしがらみであるお金をキレイさっぱり洗い流してくれる。
ホストは名言の宝庫
社会人は言動に行動が伴わなければ信用を失うので、威勢の良いことばかり言っていられない。
だがホストクラブはその場限りの夢の世界だから、カッコいい言葉がポンポン出てくる。
風俗嬢と彼氏を別れさせたホストは言う。
「俺がこんなヒモ野郎完全に忘れされてやる。
俺を信じろ!!」
いつも通りホストは言葉のカラ手形を発行するだけで、信じる根拠は何も提示しない。
結局は自分が新しいヒモに収まるだけだ。
ホストたちの発言が無責任なのは、彼らの周りに責任を果たす大人がいなかったからだ。
彼らの親は子供にとっての世界である家庭を、いとも簡単に壊してしまう。
それに毎日のように酔っぱらっていて、約束したことを翌日には忘れている。
こんな家庭で育てば、言葉はその場しのぎの道具としか思わなくなる。
詳しく:第十章 不良少年の人間学(ダメな親は、子供時代を取り上げる)
ホストはセリフと雰囲気で出来ている
ホストはセリフと雰囲気によって構成される、いわばホログラムのようなものだ。
周囲のリアクションがなければ、本人さえ自分が何者なのかわからない。
周りに「カッコいい」と言われることで、初めてカッコいいホストが現実になる。
だからホスト同士の会話でも、キラーフレーズばかり出てくる。
「ホストなら寝てる時も気を配れ!!
常に一流の自分を頭に思い描け !!」
金がありそうな雰囲気とそれっぽい言葉は、マルチ商法が会員を惹きつける手口と同じだ。
ここでいうマルチの会員とは客ではなく、養分になる女を集めて酒を売るホスト達のことだ。関連:うさん臭いマルチ商法のセミナー
だからホストになるのはマルチに騙されるのと同じ層で、社会人になれない弱者や欲深い大学生たちだ。
ホストの名言が辟易する理由
ホストの名言というのは数回聞く分には面白さを感じるが、すぐに聞き飽きて何も感じなくなる。
これは当のホスト達が一番よく知っている。
ホストと客の刃傷沙汰を見て、先輩ホストが語る。
「女に刺されるホストは二流だ
一流は刃物を溶かす。
俺のように超一流は女に刃物を持たせねェ。」
ホストと一緒にいる時間が増えると普段の姿を見る機会も増え、セリフが盛ってある分、キャラの落差に幻滅する。
そうなるとホストが何を言っても、『俺様をリスペクトしてくれ』という下心ばかりが鼻につくようになる。
だからよく見ると後輩のホストは、ケータイをいじっていて、先輩の言うことを何も聞いていない。
ホストの語りはワード頼りで、最初から最後までじっくり聞くと、実は大して深い話をしていない。
いつも同じようなことしか言えない彼らは、イケメンボイスを録音したしゃべる目覚まし時計と大差ない。
パワーワードも繰り返し聞かされると、耳がもたれてウンザリする。
これは歌で口数が多いからラッパーは弁が立つだろうと、じっくり語らせてみたら思考が散らかっていて、中身が空っぽな話しかできなのと一緒だ。
だからホストもラッパーも、自分より格下の客に語る。
経営者と養分
ホストクラブの経営者は、ホストとして生き残った者がなる。
経営者は自分がされたのと同じように、ホストたちを煽る。
「金を稼げなきゃホストじゃねぇ。
女を喜ばせなきゃホストをやる資格がねぇ!
男に生まれたなら成功しろ。いつか自分の城を築いて王になれ!!」
実社会からホスト業界に逃げてきた者には、もう逃げる場所がないから追い出されるわけにはいかない。
経営者は『金を稼げなきゃホストじゃねぇ』と言ってホストを追い詰め、ホストは客を追い詰めるようになる。
ホストは駆り立てられるままに法外な値段で酒を売り、客が飛んでカケを回収できなかったら、負債はホストにのしかかる。
経営者はカケの相手が客でもホストでも、どちらにせよ損はしない。
ホストはマルチ商法でいうとエリアマネージャー程度の身分だから、いつ自分が借金を抱えてもおかしくない立場だ。
あるいはホストたちが劣悪な住居に集団生活させられていることを考えると、新興宗教の出家信者かもしれない。
囲われるホスト
人間の基礎が身につかない家庭で育った者は、常に安易な解決策を選び、高い所から低い所へ逃げる習性がある。
彼らが逃げるルートに『楽して稼げる』というエサを撒けば、自分から履歴書を持ってワナにハマりに来る。
こうして賢い経営者は、安価な労働力を手に入れる。
ホストは個人事業主扱いで社保はなく、給料も歩合だから店のリスクは殆どない。
同年代が就職して、地味な仕事でコツコツとスキルアップする中、ホストはパラリラやっているから差が開いていく。
そんな日々を過ごしながら三十代になると、生活感が出てきて王子様っぽさがなくなる。
すると彼らがバカにしていた一般のおじさんよりも、何の取柄もないおじさんになっていく。
落ち目になるとそこからが早く、ヒモとして転がり込んだ家からも追い出されるようになり、路頭に迷う。
『テーブル乞食』と侮蔑されるホストだが、貯金がゼロで仮住まいの寮に住む彼らは、リアル乞食と変わらない。
ホストクラブの真の被害者は、名もないホスト達だ。
業(カルマ)を背負う
完全なサイコパスでもない限り、ホストは女を破滅させることで業(カルマ)を背負うことになる。
例え女が破滅を望んでいたとしても、奈落の底への最後の一押しをするのはホストだ。
業(カルマ)とはオカルトではなく、心の奥底に溜まっていく罪悪感によって、『自分は幸福に生きてはいけない』という自己暗示が発生してしまうことだ。
そこそこ売れたホストが転落して、自分が破滅させた客たちと同じように貧窮していくのは、無意識の内に自分が不幸になるルートを選ぶためだ。
地獄への道連れを求める寂しい女たちの呪いが、業(カルマ)となってホストにのしかかる。
関連:キャバ嬢の何が悪なのか?
その後のホスト
歌舞伎町から去る者は忽然と姿を消して、行方を知る人は誰もいない。
ホストも例外ではなく、カラスの死骸を見ないのと同じように、跡形もなく消え去る。
怨嗟の渦巻く歌舞伎町なら、異界に引きずりこまれても不思議ではないと思ってしまう。
だが実際は姿を消した人は死んでおらず、水戸や八王子に落ち延びて元歌舞伎町ナンバーワンホストとフカしたり、サパークラブで細々と暮らしている。
細々暮らしていても、体型は太々しくなっている。
意外としぶとく生き延びているが、その姿は彼らがホストを目指した頃に毛嫌いしていた、おっさんの姿になっている。
変わり果てた姿で発見されるという点では漂着した腐乱死体と変わらないから、やっぱり死んでいるのかもしれない。
魔法とヒアルロン酸が溶けたホストの王子さまは、ヒキガエルの姿に戻っていく・・・