闇金ウシジマくんの細かい描写

歌舞伎町のゴミ 名場面
真鍋昌平著「闇金ウシジマくん22巻」小学館

歌舞伎町周辺の路上。

ゴミを捨てているはずなのに、罪悪感を紛らわすためか一段高い所に陳列のように置く。

モラルのない歌舞伎町で、わずかに残る罪悪感との葛藤の描写。

人間の二面性をあらわしている。

 

闇金ウシジマくんではクズのような人間達でも、単純な人格には描かない

しかしこのコマ、果たして必要だろうか?

闇金ウシジマくんには、こんな繊細なカットが所々にある。

闇金ウシジマくんの細かい心理描写

歌舞伎町の仮囲い

真鍋昌平著「闇金ウシジマくん22巻」小学館

ホストくん編より(21~22巻)

 

歌舞伎町の描写では、いつもどこかしらに建築現場の仮囲いがある。

 

常にどこかで建て替えが行われているが、街に集う職業不詳な人たちは変わらないので、よどんだ気は変わらない。

そういう怪しげで不定形の街には、不安定な若者が吸い寄せられる。

 

高田

真鍋昌平著「闇金ウシジマくん21巻」小学館

 

後にカウカウファイナンスの社員になる高田は、ホストをしていた。

ホストはまず、寮というか狭いマンションに共同で住まわされる。

 

集団生活では、モラルはその集団内の最低レベルの者の位置まで落ちていく。

トイレには使い切ったトイレットペーパーの芯が溜まっている。

 

トイレットペーパーの芯

真鍋昌平著「闇金ウシジマくん22巻」小学館

この描写に説明はない。

しかし、トイレットペーパーの芯などすぐに捨てればいいものが、相当量溜まっている。

意志が弱い人間は、何でも先延ばしにする

 

ホストの中には、何かを成し遂げようとやってきたのではなく、惰性によって落ちてきたものもいる。

ダメ人間の感性と同化してしまったら、最低の場所に住み慣れて上に行けなくなってしまう。

 

高田が風呂場でシャワーを浴びる。

排水口には髪の毛が絡みつき、水がせき止められるのでわきに避けているが、片づけられていない。

 

排水口の毛

真鍋昌平著「闇金ウシジマくん21巻」小学館

「ここにいたら いつか どんづまる。

ダメな状況で慣れ合って

自分にも他人にも甘えだす。」

 

髪の毛

真鍋昌平著「闇金ウシジマくん21巻」小学館

「醜く肥大した髪の毛玉が

ここの全てを物語る。

この不気味な姿に慣れ始めた

自分がキモイ。」

 

集団で生活していると常に他人のノイズがあるので、思考を自分に向けて考えられない。

大音量のクラブにいるのと同じように、頭を空っぽにできる。

しかし、ふと一人になった時に自分の感覚を取り戻すと、絡みついた髪の毛に自分の現状が重なる。

 

普通の漫画なら、ベランダに出て独白など簡単に済ませてしまう。

しかし、闇金ウシジマくんは風呂場の髪の毛を人の心理描写に使う。

風呂場の他人の髪の毛は、読んでいても生理的に嫌な気持ちになる。

 

その気持ちは、自己嫌悪する高田の気持ちに重なって、同じ気分にさせられてしまう。

漫画の中の感情が、そこから溢れ出てきて読み手を浸食する。

バーチャルリアリティでも不可能なことを、漫画で実現している。

 

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スーパーが潰れただけの描写

潰れたスーパー

真鍋昌平著「闇金ウシジマくん43巻」小学館

ウシジマくん編より(39~46巻)

 

ウシジマくんが通っていたスーパーが潰れた。

閉店した店舗は、急に精気がなくなるというか、老け込む。

無機質なはずの建物が、老け込んだ表情を見せる。

 

ウシジマくんが食材を買いに行くだけのシーンで、スーパーが潰れた事は前後のストーリーに直接関係はない。

スーパーが潰れていたので、コンビニに買いに行くが、そこで何かが起こるわけではない。

淡々と食材を買って帰るだけだ。

 

その帰りに、スーパー以外の潰れた店の前を通るが

潰れた店

真鍋昌平著「闇金ウシジマくん43巻」小学館

「ここになンの店あったっけ?」

 

毎日のように通っている道にあったものが無くなっても、何があったのか思い出せない。

そこにあって営業もして、人が寄り集まっていたのに、閉店すると記憶さえスッポリと抜け落ちる。

非常にはかなくて、死んだらおしまいの感覚に似ている

 

明確な説明がないゆえに、読み手に自由な感情を湧き上がらせてくれる。

何でも一方的に説明を並べるのではなく、読み手の感情を揺さぶって漫画に引き込んでいく。

怖い人の登場シーンの細かい描写

郊外の車

真鍋昌平著「闇金ウシジマくん18巻」小学館

ヤミ金くん編より(18~20巻)
ホームレスの男が、泊まれる家があると声を掛けられ、連れてこられたのが人里離れた場所。

このシチュエーションは、かなり心細い状態だが、漫画の読み手は安全圏から覗いていられる

 

その駐車場で、更に悪そうな男が登場して

枝を踏む

真鍋昌平著「闇金ウシジマくん18巻」小学館

『パキッ』

と乾いた枝を踏んで音をさせる。

いらないシーンのようで、この音によって読み手は傍観者でいられなくなる。

自分が踏んだ枝でなくても、『パキッ』という音は空気が変わったり、見つかったという気にさせられる。

 

CMで視聴者の注意を引こうと、携帯電話の着信音を流す手法は、自分の携帯の着信でないとわかると不快な気持ちになる。

しかし闇金ウシジマくんの演出では、不快と感じる余裕はない。

人気の無い場所で、怖い連中に囲まれてしまったホームレスの男の心細さに読み手が繋がれてしまう。

単なる傍観ではなく、バーチャルのように追体験をさせられてしまう。

 

ウシジマくんを読むのに体力がいるのは、漫画に没入させられる仕掛けが随所にあるからだ。

読み終えた時に解放されるので、自分の現実に戻ってこれたという安堵感に包まれる。