ウシジマくん編より(39~46巻)
半グレ集団のリーダー獅子谷兄(鉄也)。
ヤクザ組織と違って明確な組織体系のない半グレ集団。
獅子谷はシシックという闇金グループを中心に、犯罪のフランチャイズチェーンを展開している。
タブー無しで切り込む彼らは、ヤクザを追い落とせるのか?
半グレは腕力でのし上がる
半グレたちは元々、地元で組織した暴走族だった。
しかし国道を爆音で走ってもお金にもならないので、裏街道で金儲けに走るようになった。
暴走族時代には武威を示せるものがリーダーになったが、半グレの場合は金儲けの才能と、恐怖を与えられる者がリーダーになる。
暴走族は趣味の世界だからタイマンなどスポーツマンシップがあったが、半グレで飯を食うためにはキレイごとは言ってられない。
敵対関係になれば相手の家族や恋人など、弱いターゲットを狙って攻撃をかける。
尊敬よりも畏怖(恐れおののく)の念を抱かせて、恐怖で人を従わせる。
ヤクザより気安く付き合える
ヤクザみたいに行儀やしきたりは関係ないので、半グレ組織は恰好もラフで自由だ。
利益さえあげれば服装を気にしないところは、やんちゃなベンチャー社長に似ている。
つまりヤクザと半グレは、既存企業とベンチャー企業の対比と同じなのだ。
普通のベンチャー社長の中にはヤクザ相手だと気後れするが、半グレなら友達感覚で付き合えると勘違いする者もいる。
社長は高校生のノリでヤンキーとツルむことをイケてると思って、自分まで強くなったような気になる。
だが半グレの方はベンチャー社長に危ない遊びを教え込み、金づるにするためにツルんでいるのだ。
獅子谷は友人のようなベンチャー社長をハメたりするうちに、自分も誰かに裏切られるのではないかと疑心暗鬼になっていく。
それでもヘビの本能みたいなもので、半グレは他人を締め上げて金を絞り取らないと気が済まないのだ。
半グレにとって女もまた、ゆすりの小道具でしかない。
しかし人間はそんなに器用ではないので、女を金儲けの道具にする男は使い分けできず、どの女に対しても愛情を注げなくなる。
こんな風に半グレは、上にいくほど孤独になる。
獅子谷の独裁体制
半グレの組織体系はシンプルで、ヤクザみたいに役職や命令系統もない。
ワントップ体制で獅子谷が判断して、命令を下すだけだ。
だから半グレは揉めごとがあった時の反応がヤクザより早く、即座にピラニアのように集まってくる。
半グレのトップは自由な反面、状況判断から陣頭指揮まで一人でやらなければならない。
国と同じで独裁体制を敷くには見せしめが必要だ。
それも過激でないと意味がないから、獅子谷の場合はミスをした部下の耳を切り落とす。
その耳を本人に食わせたり、燻してネックレスにして狂気を見せつける。
民度の低い人間が集まった自由な組織では、そうでもしないと統制がとれないのだ。
だがそんな風にして締め付けているから、トップは部下に復讐されることを恐れはじめる。
半グレ社会は猿山の猿と同じで、ボスの座を追われたら立場が入れ替わり、元ボスは痛めつけられる側に回される。
だから獅子谷はいつまでも自分がトップでいるために、他の者が力をつけないようにしている。
どうして彼らは他人に対して不信感しか抱けないのか?
それは人が最初に対人感覚を学ぶ、最小単位の社会である家庭に問題があるからだ。
獅子谷の家では、父親が子供に残虐なせっかんを加えるのが当たり前だった。
しかも実の子供の一番痛む箇所を選んで攻撃を加えるのだから、父親は何らかの欠陥があったのだろう。
そんな父親を憎みながらも、子供は親そっくりに育ってしまう。
獅子谷は周囲の人間を痛めつけて従わせるだけなので、誰とも信頼関係を築けない。
友達を作って別の方向に進めばいいのに、隙あらば近くの人を陥れて食い物にしてしまう。
子供時代に植え付けられた対人感覚が、一生の方向性を決めてしまう。
半グレ VS ヤクザ
裏社会で勢力が拡大していくと、ヤクザと利害がぶつかるようになる。
獅子谷はヤクザにも物怖じしないで掛け合いをする。
相手はヤクザの熊倉と滑皮の徒弟セットだ。
こんな風にヤクザは常に行動を共にする事で、熊倉のノウハウが滑皮に継承されていく。
獅子谷と滑皮は二人が所属していた暴走族の悶主陀亞(モンスタア)連合で、獅子谷が先輩という関係だった。
獅子谷は滑皮を自分の半グレ集団に勧誘したが、彼はヤクザになる道を選んだ。
熊倉について回る滑皮を見て、獅子谷は嘲笑する。
「いまどきヤクザやる奴の気がしれねーぜ。
せっかく目をかけてやったのによぉ。
すっかりカタにハメられちまったな」
全てを取り仕切る獅子谷の方が、ヤクザの熊倉より個人力が高く見えるが、果たしてそうだろうか?
だんだんと滑皮に仕事を任せていける熊倉と違い、獅子谷はいつまでも一人でやり続けなければいけない。
だが人間の身体は一つだし、抱えられるストレスにも限度がある。
そんな孤独とストレスから、獅子谷は薬物に頼っている。
獅子谷は部下たちにウソを見抜くと恐れられているが、それは病的に疑り深いからだ。
獅子谷は不安感から薬に走り、その薬でますます人に対する猜疑心がつのる。
彼は他人との闘争には強かったが、自分の内側から壊れていってしまう。
一時は王様になれても、自分の後継を育てない半グレは続かない。
個人力に頼っているので、加齢による体力の低下の影響がモロに出る。
日本が混乱していた戦後に、半グレの語源となった愚連隊(ぐれんたい)という無法集団が現れた。
暴対法でヤクザが弱体化し、裏社会の空白地帯を突いて出てきた現代の半グレと似ている。
最初は好き放題していた愚連隊だが、徐々に組織形態が強固なヤクザに取り込まれていって、集団が残ることはなかった。
個人力でのし上がった愚連隊や半グレは、組では下積みが免除される、ワルの特待生として入ることが多い。
それでも様々なしがらみや義理ごとの歯車に組み込まれて、カタにハメられていってしまう。
獅子谷のように能力があっても裏社会の道を選択したら、破滅するまで突き進むしかない。