ホストくん編(21~22巻)ほか
いつも生乾きの洗濯物のにおいがする街、歌舞伎町。
全国から下層の人間が流れ着き、ネズミのコロニー(巣穴)のような街を形成している。
歌舞伎町は過去に取り締まりを受けても、その度に復活してきた。
自分の人生さえ定まらない人間の集まりなのに、なぜ街が維持できるのか?
歌舞伎町に流れ着いた少女の一人、愛華の転落人生と共に理由を探っていきたい。
歌舞伎町に集まる男女
中学から不登校で行く場所がない15歳の愛華は、いつも歌舞伎町のバッティングセンターにいる。
社会のレールから外れた人間は、レールが存在しない混沌とした歌舞伎町に居心地の良さを感じる。
だが寂しさから、つい近くにいたイケメンに声をかけてしまう。
「なにしてるの?」
歌舞伎町では、こういう小さなキッカケから人生の転落が始まる。
イケメンは瑠偉斗(るいと)という源氏名でホストをしていて、他愛のない会話から女の心に入り込む糸口をつかんでいく。
ホストがモテるのは営業用サイコパスと言える、感情を出さない女あしらいにある。
普通の男は口説く時にヤリたいという気持ちが前面に出て、ヘルスの待合室にいる時のように半勃起感が漂っているから女に嫌われる
ホストは女の体ではなく金を見ているから、口説き方に性の生臭さを感じさせない。
それに歌舞伎町に来るような女は、基本的に心に欠陥があるので隙間に入ることは容易い。
ホストは王子様のように見えて、多くはタコ部屋暮らしの低所得者だ。
追い込まれた人間は何だってする。
ホストは自分より社会的に弱く、精神が不安定な女につけこみ金を搾り取る商売だ。
ホストは客の女を癒すというから、ホストクラブはさながら歌舞伎町の精神クリニックだ。
(二人で一杯ずつ飲んで5万円かぁ… 高いなァ……
でも瑠偉斗が喜んでくれるなら、私も嬉しいよ。)
だがホストは女を癒しているように見えて、その実は傷を広げて寂しさの種を植えている。
ホストと親密になるほど依存度は高まり、女は店で使う金がどんどん増えていく。
その姿は向精神薬の量が増えていく、クリニック通いのメンヘラのようだ。
それでもクリニックは最終的に患者の社会復帰を目的にしているが、ホストは客を依存症にして廃人にする。
ホストが金を巻き上げる方法は客と共にNo.1を目指すことで、結婚生活のような一体感を演出することだ。
そして夢を維持する金額を吊り上げていき、売上争いで煽り、70万円もするルイ13世という酒を愛華に要求する。
「ルイなら隼人に一発逆転できるンだ。」
『え?いくらするの?』
「70万円。」
『え!?
無理だよ…… 70万円なんて……』
こんな問答をしながらも、お前とNo.1になりたいという殺し文句で愛華は押し切られてしまう。
「ありがとう愛華。カケで大丈夫だからな。」
カケというのはツケのことで、実質的には借金だ。
酒に酔った高揚感の中で、言葉一つで中古車くらいの借金が出来てしまうことが、ホストクラブの被害を拡大させている。
男は射精の為に金を使うが、女は寂しさを埋めるために金を使う。
射精の賢者タイムは男を賢くするが、女の寂しさは埋まる事がないので延々と金を垂れ流す事になる。
愛華はすぐに金に困るようになるが、ここは歌舞伎町だ。
キャバクラで働けない15歳の少女でも、稼ぐことが出来る畜生業は色々ある。
ケータイ一つでオジサンに買われて、ホテルに行く愛華。
そもそも歌舞伎町に流れてくる女子には、何があったのだろうか。
愛華の家庭環境
愛華の家は荒れてはいない。
父親は教育委員会の仕事をしていて、母親が作る食事もおかずが多い。
誰がどう見ても、『いい家庭環境』に見える。
逆に良く見えすぎて、スタジオのセットのように白々しい。
学校の先生は教える立場だが、親は子供と双方向のコミュニケーションで育児をしていく。
教育関係者が子育てに失敗するのは、家でも先生として子供に接してしまうからだ。
愛華に食事中のケータイを注意する父親。
「ながらで食事をしてはいけませんよ。
お母さんが一生懸命作った料理に失礼ですよ。」
と言いながら、自分はしょう油をジョボジョボかけてしまう無神経さ。
それに対して愛華の姉も母親も無反応。
食事も各人のお盆に区分けされていて、食卓に寄り集まっているように見えて交わらない家族だ。
愛華の姉は自分にも厳しいが、愛華にも厳しい。
「あなたのせいで私の評判落としたくないの。
受験勉強頑張って希望大学に入った私には先があるの。
迷惑かけるくらいなら死んでイイから。」
親の教育方針からすれば、姉は成功した部類だ。
教育関係の父親・家事をキッチリこなす母親・学業優秀な姉。
こういった厳格な家で、愛華のように一人だけ道を踏み外す子が出るのはなぜか?
実際の事例で、ある上流家庭で娘の非行に悩む一家がいた。
家族たちは原因がわからず、本当に頭を悩ませていた。
しかし実は家族が無意識の内に、自分たちが出来ない行為を家族の誰かがやるのを望んでいたのだ。
家族の偏りを修正するため、無意識の内に一人を追い込んで非行に走らせたのだ。
家族は誰かを犠牲にし、自分たちの安定を図る。
そうやってマジメな家族の偏りを修正し、多様性を持たせて生存の確率を上げている。
愛華の家もそうなのだろうか?
食卓をよく見ると、イスが5脚ある。
愛華の兄か姉か不明だが、この家族には既に脱落者がいて、部屋で引きこもって食事をとっている。
この夫婦は子供からのメッセージを読み取れないので、育児には失敗気味だ。
教育者の仕事は登校する子が対象で、ひきこもりの子の事はよくわからない。
両親が離婚をしていない家でも、不安定な子供は出る。詳細:第十章 不良少年の人間学(不良少年の家庭環境)
父親は普通の中年らしく、無神経に愛華の歯ブラシで自分の歯を磨いてしまう。
年頃の娘は父親と近親相姦しないよう、中年男のあらゆるものを嫌うようナーバスに出来ている。
それに対して父親は中年になると衰えて、アスペルガーのように共感力が落ちて無神経になるので、娘と父親は水と油のように合わなくなる。
だがそれは反抗期の父と娘にありがちな関係で、愛華が転落人生を歩む決定的な原因にはならない。
不安定な精神状態の者は、危うい自由を求めて崖っぷちに立ちたがる。
それが東京では、この世と地獄の境界線の歌舞伎町だ。
東尋坊の崖べりに立つ自殺志願者は思い直す者も多いが、歌舞伎町の崖っぷちでは誰かが最後の一押しをしてくる。
ここからは迷い込んだ者を地獄に突き落とす、歌舞伎町の住人を見ていきたい。
歌舞伎町の先輩エミリ
歌舞伎町は江戸時代から湿地帯で、今も陰気臭さを引きずっていて、まともな人間は少ない。
トー横の広場(改修前)で愛華が客待ちをしていると、常連の女に注意された。
「邪魔。どけ。」
『わっ わっ……』
そんな愛華に、10代からウリをやっているエミリが声をかける。
「縄張りあるから気を付けて。
教えたでしょ? あそこは人気のある子の場所」
エミリさんは歌舞伎町でよく見る、35歳くらいまでしか生きなさそうな女だ。
「私 20歳超えてから客減ったわぁ~~
そろそろ仕事探さなきゃぁ―――
時給3千円以上じゃないと無理だけど。」
それを聞いていた顔なじみの男に
「お前は風俗だって無理だよ。
だらしないレベルが尋常じゃない。」
偉そうに上から言うが、この男だって四六時中ブルゾンを着ているような職業不詳の中年だ。
自分を傷つける理由
エミリは面倒見が良くて優しそうに見えるが、リストカットの常習者で腕に傷跡がビッシリある。
それに気がつく愛華。
『わっ、痛そ』
「痛いよォ――― 痛みで寂しさを消すの。
初体験が最悪だったから
その後おかしくなったのかも…」
男と違って女の初体験は苦痛が伴う。
それだけに相手が自分を想ってくれる者でないと、ただ傷つけられただけになる。
男が処女をありがたがるのは、他の男の種が入っていないという証だからだ。
商品についている未開封のシールみたいなもので、女にとっても付加価値の証明になる。
エミリはそれを無理やり剥がされ、更に女の最大の権利である、男の選択権も奪われてしまった。
エミリは他人に傷つけられたことが大したショックじゃないと自分に言い聞かせるために、何度も自ら傷つける。
メンヘラの自傷行為は、本人がそれまでに受けてきた心の傷のあらわれである。
タトゥーを沢山入れたり、ピアスを無駄に多く開けるのも自傷の一種で、家庭環境が複雑な者が多い。
エミリが愛華の初体験について聞く。
「愛華ちゃんはどうだった?」
『中3の春にイケてるグループの子達に処女卒業式を強制されて、しました。
サッカー部の黒木ってヤリチン先輩と汗臭い部室で…
嫌な思い出です。』
愛華は家での寂しさからクラスの女子らに拠り所を求め、結果的にヤリチン男にヤラれてしまう。
今ウリで稼いでいる愛華にとっては、それはいい経験になったのではないか?
否
エミリの自傷行為と同じで、レイプされた女はそれが何でもない事だと思おうとして、自分から性的に逸脱していく。
なぜ女子グループは、愛華の処女を奪わせたのだろうか?
女は他の女の価値を下げる目的で、レイプを攻撃に使う事がある。
スーパーフリーという女を酔いつぶれさせて輪姦する大学のイベントサークルで、犯人側に同性だからと安心させて手引きをする女がいて、被害を拡大させた。
女は自分が快楽を得るためではなく、他の女の価値を下げる事を目的とした行動をとる。
それに女の方が周囲をけしかける攻撃に長けている。
女は
「○ちゃんはお誕生会に呼ばない」
といった仲間はずれなど、社会性を使った攻撃を幼稚園くらいには出来るようになる。
男児が雪の日の犬みたいに庭を駆け回っている頃、女児はすでに社会を形成している。
男は競争を勝ち抜き強い精子の証明をしたがるが、女は周りの女との相対的な価値に重きを置く。
だから男だけの会社はあっても、女だけの会社はなかなか生まれない。
(※優劣の問題ではなく特性の違い。そのかわり男の会社は犠牲が多い)
愛華はグループに受け入れてもらうために貫通式を受けたが、結局は無視されて中三で不登校になり、レイプの傷だけが残った。
そして自分の傷が大したものではないと思いたいがために、歌舞伎町という自分を大事にしてくれない街に身を投じてしまう。
なぜ歌舞伎町の住人は変なものを食べるのか?
歌舞伎町のような街で、他人に何かを教えてくれるエミリは親切な天使に見える。
だが歌舞伎町にいる割に良い人、という相対的な基準だと人格を見誤る。
エミリを観察して特徴を拾っていきたい。
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まず腕には無数のリストカット跡があり、今現在も心の傷に蝕まれている事がわかる。
心の傷を癒すには、その傷が醸成されたのと同じくらい時間がかかる。
エミリはカップ麺にマヨネーズと七味をたっぷりとかけて食べる。
この事から、小学生の頃には家庭が崩壊していたとわかる。
食卓が社会性を育む教育の第一歩だから、それを教わっていない少女にまともな人付き合いはできない。
周りに味方がいない孤立した娘は、母親の彼氏や家出先の男たちの恰好の餌食になる。
レイプの事を男は、ただ無理やり穴に突っ込まれるくらいに思っているが、カマを掘られるのとはワケが違う。
強引に種を植え付けられる恐怖は、妊娠・出産をする女にしかわからない。
エミリの優しさの正体
そんな傷を負ってもエミリが愛華に優しくできるのは、性格が良いからなのだろうか?
今月No.1を目指すホストに頼まれ、愛華は350万円が必要になってエミリに相談した。
「金なんて貸せないわよォ~~」
「お金は自分のために使いなよ。」
と言いつつ、エミリはコンビニでお菓子やジュースを食事代わりに買っている。
エミリは食でも自傷行為をしている。
愛華がホストの事を『人生最高の男』と言うと、エミリは急に自分が取り残されたような気分になる。
しゃべりながらどんどん怒りのボルテージが上がっていき、リストカットをする。
「でもちょっと嫉妬するわ~~
つーか気に入らないわ。
つーかスゲー ムカツクわ―――!!」
エミリが愛華に優しかったのは、共に人生を堕ちてくれる連れ合いだったからだ。
ホストとの偽りの関係でも、自分を置いて気持ちが満たされている愛華が許せない。
「金欲しいなら、金貸し紹介してやるよ。」
般若の形相で愛華に闇金をあてがい、自分と同じ地獄を味合わせる。
残念だが切羽詰まった弱者は、助け合いなんてしない。
誰かが抜け駆けして底辺を出ていこうとすると、足を引っ張って引きずり戻す。
歌舞伎町は、そんな醜いゴブリンたちの世界なのだ。
※見捨てられそうになると発狂する、境界性パーソナリティ障害
歌舞伎町に馴染んでいく愛華
ウリを始めた当初、愛華は客にやりたい放題されていた。
「出ちゃった。」
『え!? ゴムは?』
故意か否か不明だが、男は行為の途中でゴムが外れてしまったのだと言う。
どんなに無価値な男でも、本能として種を残したい欲求がある。
生で出すのに固執するのは、快楽のためだけではない。
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愛華が妊娠の心配をすると、男は
「こんな仕事しててピル飲まないお前も悪いよ。」
と、愛華の非を責めてケムに撒く。
チンピラや歌舞伎町の男は自分の非を認めないで、他人のアラを探して攻撃をして主導権を握る。
(そんなもんなのかなぁ? ピルってどこで売ってるンだろ?)
経験が少ない少女は、簡単に丸め込まれてしまう。
歌舞伎町に優しい人間などおらず、弱い人間はいつも搾取される。
歌舞伎町はそもそも、卑劣・共感力の無さで一般社会から閉め出された人間が流れ着く場所だから、他人への優しさなどあるはずがない。
日本で一番すさんだ街でも、若い愛華はどんどん馴染んでいった。
経験を重ねて、くだんの中出し男と再び対峙する愛華。
「妊娠した?」
『手術代20万円払って。』
「証拠見せてくれよ。」
『今ない。明日の朝、手術の予約したから
いますぐちょうだい。』
「ちょっと待てよ!!」
こうして押し問答をするが男の素性はロクでもないので、愛華を掴んでどこかに連れて行こうとする。
すると街なかで絶叫する愛華。
『わぁあぁああああぁああ…』
「おっおい!! やめろよ。」
女は涙だけでなく、悲鳴も武器に使う。
女の方が周囲を巻き込む、社会性を使った攻撃が得意だ。
「逃げンな!! 男だろ!?」
こうしてウソをついて20万円を手に入れ、立派に歌舞伎町の女になった愛華。
歌舞伎町に染まった女の末路
歌舞伎町の裏の大久保周辺のマンションに住む、元グラビアアイドルのモモカ。
元々、売れないグラドルや地下アイドルは精神的に危うい者が多いが、そこから堕ちたモモカはお菓子のアソートパック(バラエティパック)くらい向精神薬を飲んでいる。
闇金のウシジマくんの事をパパと呼び、だっこをしてもらう。
ウシジマくんがモモカに優しいのは、最初に貸したのは10万円なのに、すでに5000万円もの利息を払っている上客だからだ。
モモカが舌を出して変な事をしているのでウシジマくんの部下が聞くと、ベロのにおいを嗅いでいるのだと言う。
さらに
「なんで?」
と聞くとブチ切れるモモカ。
「いちいち聞くなぁ―――!!
いちいち!! いちいち!!」
激高したと思ったら次の瞬間には、ウシジマくんをパパと呼んで再び甘える。
メンヘラというのは感情を抑制するブレーキが壊れているから、普通でいる時間が少ない。
ウシジマくんが飼っているウサギの写真をみて上機嫌になり、写真なのに棒付き飴(チュッパ〇ャ〇ス)をあげようとする。
「私の一番大好きなコーラ味あげる!!
あれ? あれ? ない ない!!」
「どうしよう どうしよう……
コーラ味がない!!ない!!ない!!」
こんな事くらいで動揺してしまうモモカは、普通の仕事などできるはずがない。
彼女でも金を稼げるのは歌舞伎町だからで、乱交パーティー要員として今までに5000人以上の男の世話をしている。
男というのは、こんな状態になってしまった女でも抱ければ何でもいいのだ。
自動で回転して楽に飴を舐められるおもちゃを使う、子供返りをしたモモカ。
モモカは25歳なのに思ったことを何でも口にするから、友達が一人もいないのだという。
だからモモカにはウシジマくん以外に心の拠り所がなくて、構ってもらいたくて利息を払い続けている。
依存体質のメンヘラは、例え借金でも縁としてすがりつく。
そんなモモカにウシジマくんは、自分を受取人にした生命保険をかけている。
誰が歌舞伎町を維持しているのか?
誰が歌舞伎町を維持している強者なのか、住人を見ていきたい。
まず愛華のような、風俗で稼いだりネカフェに住む若い女たちだろうか?。
彼女たちは歌舞伎町にとって、食い物でしかない。
大航海時代にゾウ亀が激減したのは、捕まえるのが容易で生きたまま船に積めば腐らず、好きな時に解体して食べられる便利な食材だったからだ。
街全体が海賊船みたいな歌舞伎町で、男たちにとって少女は自分で抱いてもいいし、飽きたら換金できる便利なアイテムだ。
最も弱い存在である少女は、むしり取られるだけで歌舞伎町を維持する強者ではない。
ホスト
女たちに大金を貢がせているホストは強者だろうか?
否。
彼らに貢いでくれるのは、前述の通り心が弱った女だけだ。
体が弱った時に風邪をひくように、心が弱った女がインフル・ホストにひっかかるだけだ。
健全な女には、一人前の男として扱われない。
店のシャンデリアの下で輝いて見えるホストも、寮ではネカフェの少女と変わらない生活をしている。
(ヤバイ…
今月の寮費と光熱費払えねェ…
どうしよう……)
ホストの派手な売り上げは、何かを生み出した結果ではない。
焼き畑でメンヘラ女が将来稼ぐはずだった生涯賃金を巻き上げて、焼き尽くして廃人を作っているだけだ。
そんなホストも因果応報で、ヤクザにいじめられる弱者だ。
売り掛け金(客のツケ)のゴタゴタで、ヤクザに「テーブル乞食が!」と罵られながら、ゴルフ練習場のティー(ボール乗せ)にされるホスト。
では、やはりヤクザが最強の存在なのだろうか?
ヤクザ
歌舞伎町の人々を食い物にするヤクザは、間違いなく歌舞伎町の食物連鎖の上位に位置する。
街で客待ちする愛華を捕まえるヤクザ。
「誰に断って仕事してンだ?」
こんな風にして組の上納金のネタを、かいがいしく集めて回っている。
だが中年になっても地回りをするようなヤクザは、組では瀬戸際の存在だ。
年寄りになったら腕力による脅しも、頭の回転が必要な掛け合いもできなくなる。
組に居場所がなくなったヤクザは、新卒社員でえ持っている銀行口座もなく放り出される。
歌舞伎町ヒエラルキー上位のヤクザでさえ、一般社会に放り出されたら一気に社会的弱者になる。
では誰が歌舞伎町を維持しているのか?
歌舞伎町を維持しているのは、実は歌舞伎町を蔑む一般社会の人々なのだ。
ドロドロの愛憎劇をやってみたい。
薬物をやったらどうなるか? 何をしたら人間はおかしくなるのか?
こんな風に一般の人たちは自分たちができない事を、無意識の内に歌舞伎町の檻の中の人間たちに肩代わりさせているのだ。
一般社会の人々は全国のクズを歌舞伎町に閉じ込め、人間の限界を調べる人体実験をしているのだ。
そして彼らを眺めて、自分の人生が間違っていない事を確認する。
社会の人々は誰かを犠牲にし、自分たちの安定を図る。
それが歌舞伎町が消滅しない理由だ。
実際の歌舞伎町の事件
シェアしていたマンションというかゴブリンの巣で、4人の女たちが鉄パイプ等で同居の女をめった打ちにして殺害した。
これを見て
「朝昼晩の食事が肉や揚げ物など茶色いものばかりで、ウンコが臭そうな女達だ」
と言う人がいるかもしれない。
確かに早朝のファミレスで白飯ではなく、ジャンバラヤを食べてそうな顔をしている。
論理性が低い人間が寄り集まって、何時間も話し合ったところで解決策は生まれない。
だから殺したのだ。
犯人の一人は40代だから、歌舞伎町の住人の寿命35歳説というのはウソなのだろうか?
だが彼女を見て、果たして35を過ぎてからも人間として生きていたと言えるだろうか。
そんな彼女たちにも、愛華やエミリのような事情があって歌舞伎町に流れ着いた。
彼女たちの人生には、郷里でも歌舞伎町でも助けてくれる人がいなかったのだ。
犯罪者たちの経歴には、そんな悲しい足跡が見られる。もっと詳しく:『人を見抜く方法』第七章 事件の人間学