ゲイくん編より(3~4巻)
人に知性が芽生えてから、起こってもいない問題を想定してストレスを抱えるようになった。
賢い人ほど就職や老後の不安など、悩み多い人生を歩む。
36歳のおじさんゲイの『ジャニヲタ』は、明日の悩みさえ浮かばないパグ犬のような頭で生きている。
破綻する前日までは幸福に生きられる、賢くない人の人生とは。
※あくまで個人の感想で、冒頭を読んで違和感を感じた方は読まない事をお勧めします。
ジャニヲタの日常
まずジャニヲタは男として男が好きなゲイで、性同一性障害とは違う。
ファミレスで闇金のウシジマくん達に囲まれて、可愛いものしりとりをさせられるジャニヲタ。
可愛いものしりとりとは、普通のしりとりのルールに加えて、周りの人が可愛いかどうか判定して合いの手を入れるゲーム。
ジャニヲタ以外はウシジマくんの会社の社員で
「牛乳」
『可愛い 可愛い』
「うに」
『可愛い 可愛い』
と、可愛い基準がよくわからないながらも、ジャニヲタに順番が回っていた。
ジャニヲタは無難に「子犬」と言うが
「全然可愛くない!」
とウシジマくんに却下されてしまう。
「はい!罰ゲーム
タバスコ100%イッキ飲み!」
この理不尽なゲームは、借金の返済に遅れたジャニヲタへの罰としてやっている。
ジャニヲタは賢くないから想像力を掻き立てて怖がらせる追い込みより、ヒリヒリ感を与える罰の方が有効なのだ。
ウシジマくんに警告を受けて、この日は解放される。
「今度返済遅れたら
もっと辛い目にあわすぞ!」
『はい…』
二丁目のコミュニティ
ジャニヲタは罰を受けてさぞ凹んでいるかと思えば、その足で新宿二丁目へ向かっていた。
二丁目は花園通りを中心にした狭いエリアに、ゲイバーなどが密集している。
元々は湿地帯で岡場所(売春付きの宿)があった地域で、近くには死んだ遊女を投げ込むようにして運び込んだ寺がある。
このように二丁目は日に陰った場所にあり、それが社会でのゲイの立ち位置に通じている。
ちなみに新宿の魔界と呼ばれる歌舞伎町も江戸時代には沼地で、土地に染みついた空気というものは何代も続くのがわかる。
ついさっきウシジマくんに返済の件で罰を受けたのに、ジャニヲタはゲイバーに入ってしまう。
そこでゲイたちは幸せについて話をする。
「公園で母親見てると幸せそーじゃない?
カラッポな女も自分の子供には必要とされるから
生きる意味できるでしょ?」
ゲイにも色々あって、子供がいない人生を突き詰めて考える者もいる。
だがジャニヲタは、それよりも単純な思考で生きている。
『公園も、人間関係で悩む人多いって
女性セブンでいってたわよ!』
36歳ジャニヲタの教養レベルの上限が、婦人雑誌の女性セブン。
そんなジャニヲタは、子供ができたらジャニーズ(男性アイドル事務所)に入れると言い出す。
だがゲイの中でもブス扱いのジャニヲタは、子供もブスだとからかわれる。
「フン!あんたの子供は世界で2番目に不幸。」
ジャニヲタがブサイクな顔で抗議する。
『ちょっとォ!!
何ソレ!!しかも中途半端じゃないのォ!!
一番不幸な子供は誰よォ!?』
「あんたよ」
『何よォ!!』
「冗談よ! 冗談!
あんたには一番になれる素質は何もないわ!」
『ひどぉ~~い!!』
こんな風にゲイの会話が軽妙で面白いのは、男と女のどちらにも属さない、しがらみの無さからきている。
しがらみがない故に社会に拠り所を見出すのが難しく、彼らは孤立感をおぼえやすい。
ゲイである前に
『ゲイは感性が豊か』と言われるが、そうとは限らない。
ジャニヲタはゲイである前に、第一のパーソナリティとしてバカがきているから、感性もへったくれもない。
服も髪型も全てがダサいから、友達の中ではイジられるキャラだ。
ジャニヲタが賢くない証拠は、お金の使い方を見ればわかる。
滅多に働かないのに、親の金でパチスロ・ゲイバー通い・たまに買春までしている。
賢くない人は快楽が目の前にあると、脳が興奮して反射的にくらいついてしまい、お金が減ることまで頭が回らない。
足りない分を闇金で借りてしまうのだが、この時もお金が得られるという快感にしか目がいかず、先々の利息を認識できない。
歌の好みに出るパーソナリティ
ゲイ友達の家に泊まって、皆で鍋を食べたりパチスロに行ったりしてゆるく生きるジャニヲタ。
ザコ寝をするが、彼ら同士で乱れることはない。
ゲイの中でも友達と恋愛(肉体)相手は線引きがあり、友達にイクのは共喰いのようで忌避されている。
実家暮らしのジャニヲタは、光GENJIの歌を口ずさみながら団地の家に帰る。
光GENJIというは昭和末期に流行した、ローラースケートを履いて歌に合わせて口をパクパク動かす男性アイドルグループだ。
恐らく少年だったジャニヲタが、同性への恋心を意識するキッカケとなったのが光GENJIだろう。
歌の好みは、人となりを知るための情報になる。
中島みゆきやユーミンといった恨歌を好むゲイは、どういうパーソナリティだろう?
ゲイは何でも笑い話にしてハネ飛ばしているように見えるから、傍から見ると精神状態がわかりにくい。
実は人知れず悩んでいて、ふいに自殺をしてしまう事もある。
だから周囲の人は『この人は限界だな』という指標を作っておく必要がある。
例えば夕方になっても電気をつけず、中島みゆきの『糸』を聞いて一人で涙を流していたら、気が触れていると思って間違いない。
家でのジャニヲタ
自宅に帰り、シャツが脱げずに格闘するジャニヲタの乳首の周りの毛は汚らしく、見えない所までブスだ。
話は少しズレるが、汗と肥満でTシャツが脱げずに何コマにもわたって『むん!!』と格闘するジャニヲタが描写される。
こういう経験は読者にもあり、共感覚をおぼえる内に物語に引き込まれてしまう。
だからウシジマくんを読む時には、体力が必要なのである。
シャツと格闘するジャニヲタに、母親が話しかける。
「ちょっとォ!!
タカシ(ジャニヲタ)さん!!」
ジャニヲタは家では普通のニートな男の子らしく、威張って暮らしている。
『なんだよ!! ババァ!!
勝手に部屋に入るなっつってンだろォ!!!』
お金と時間にルーズなジャニヲタらしく、父性を示す父親の姿はない。
父親がいなくても遺伝と家庭内の教育により、父性の厳格さを獲得する事はできるが、ジャニヲタの放蕩具合を見る限り失敗している。
「あんた また借金してるでしょ!?」
『し……してねェよ!!
だって俺、自己破産してカード作れねェーもん…』
既にこの時点で何度も借金を繰り返し、街金では借金ができなくなっている。
そして闇金のウシジマくんから借りるようになったのだが、その返済も滞っている。
ジャニヲタは干渉を嫌うが、一人だと我慢ができずに借金をしてしまうのだから、親に監督をしてもらう必要がある。
だが親もジャニヲタと同レベルで教育ができないし、ジャニヲタはジャニヲタで親に隠れて借金をするしで、二人でも二馬力に満たない非力な親子だ。
息子のゲイにも気がつかない鈍い母親が、なぜジャニヲタの借金に気が付いたのか?
猶予を与えたのにジャニヲタが借金を返さないので、ウシジマくんが家に来たからだ。
「金曜の夕方 変な人が家に来たのよ!!!」
ジャニヲタは知恵がないので人を陥れたりしないが、バカな行動で周囲の人に迷惑をかける。
問題から逃げ出すジャニヲタ
親に責められ家から逃げ出すジャニヲタ。逃げても問題は何一つ解決していない。
彼はずる賢くはないが、自分を保護してくれる人を嗅ぎ分けて、すり寄っていく習性がある。
ゲイ友達の家の前で、体育座りをして悲哀をアピールするジャニヲタ。
甘え癖のある人は、こういうセルフプロデュースに慣れている。
ゲイ友達には母親とモメて行くところがないと言ってるが、借金で母親に怒られた事は伏せている。
頭が悪い人は問題に向かおうとしないで、いたずらに先送りしてやり過ごそうとする。
だが闇金の借金は、先送りした分だけ利息が膨らんでいく。
ゲイ友達の家に泊まらせてもらうジャニヲタだが、イビキと寝言で迷惑をかける。
(全然寝れない…)
ジャニヲタは他人に庇護してもらうだけで、他人を助けるスペックはないから、関わる人はやせ細っていく。
スペックが低い人は普通にしているつもりでも、誰かを疲弊させる疫病神のような所がある。
一泊した次の日、ジャニヲタは当然のように連泊していいものと思っている。
『ボク パチスロ打ってくるね。
帰りは夜11時以降になるから!』
「……(まだ泊まる気?)」
ジャニヲタは悪気がないだけにタチが悪く、断った人の胸が痛むような状況を自然と作る。
問題を他人に回す
ジャニヲタはようやく帰ったのだが、ゲイ友達の家から物がなくなっていた。
彼は仲間の中で最もお金に困っていたジャニヲタが怪しいとにらんで、ジャニヲタの家の近くまで行った。
そこでゲイ友達は、ジャニヲタがウシジマくんに捕まって、事務所に連れていかれそうになっている場面に遭遇する。
ゲイ友達は遠巻きに眺めていたのに、気づいたジャニヲタが声をあげる。
『わーっ ゆーちゃん(友達)助けてェ!!』
「え?」
ウシジマくんに気づかれ、友達がトラブルの当事者にされてしまう。
「む!! なんでテメェ!?
コイツのダチか?
テメェーもちょっとつき合えよ。」
こうしてジャニヲタの借金の利息5万円を支払わされる友達。
ジャニヲタが返済を遅らせたのは悪意ではなく、動物的な行動原理で問題を先送りにしたのだ。
過去の成功体験で、問題があったら自分でやるよりも、解決してくれる誰かが現れるまで先送りした方が成功の確率が高いのだ。
能力が低い人は頭のどこかで、自分の問題は誰か得意な人が解決した方がいいと思っている。
だから純粋な気持ちで、人に責任を転嫁してくる。
こうしてジャニヲタは、何だかんだで問題を解決できた。
この世はバカの方が、幸せに生きられるようにできている。
バカを振りかざす
友達に利息を払ってもらった後、公園で泣きながら謝るジャニヲタ。
『私はバカだわ… 大バカだわ……
ゆーちゃん お金返すから
絶対返すから……』
そして自分語りを始め、バカなのは生まれつきで、ア・テスト(神奈川県で行われていた一斉学力テスト)が学年でビリだったそうだ。
さらにクラスの最下級(人間)コンテストで1位を取ったとか、イジメられたとかを泣きながら訴える。
それに対して友達は
「ジャニヲタ……
その話、前にも聞いた。」
ジャニヲタは庇護を求めるため、どこでも自虐ネタを披露するから手口がバレている。
「ジャニヲタ
その手法使って無知で多感な十代のコ
食い漁ってるそーじゃない。」
ジャニヲタは確かに弱者だが別に無垢ではなくて、自分がオイシイ思いをするための生存戦略を持っている。
自分の弱さをアピールするのは動物の子供の生存戦略に似ていて、例えば子猫の容姿・鳴き声は庇護欲をそそられるようになっている。
だがジャニヲタの容姿はブスだし、最初から他人に恵んでもらおうという下心があるから、助けた人の後味はよくない。
神妙な面持ちで、ジャニヲタは友達に宣言する。
「ゆーちゃん 僕は誓うよ!
パチスロはやめて、仕事ちゃんとして、借金はもうしません!!(キリッ)」
だが友達は、バカな本人よりもジャニヲタの事をわかってしまっているのが切ない。
(ジャニヲタの誓いは全部叶わないと思う。
誰にでも出来る簡単なコトが 本当に出来ない人間もいる。
ジャニヲタはそーゆー人間だ。)
ゲイは幸せか
ゲイは社会からつまはじきにされてきたと、辛い思いを訴える者もいる。
だが異性愛者に生まれるという事は、それだけで幸せというわけではない。
そこからが繁殖に向けたし烈な競争が始まり、女にあぶれた男は敗残者として飢餓感を抱えながら生きる事になる。
それに対してブスで金がないジャニヲタでも、ゲイならサウナや公園のトイレで、何だかんだ性交する機会が得られる。
男は周囲に居る女の中で、性的関係を持ちたい相手が二年で8人できるのに対し、女は1人しか男を希望しない。
この性差を埋めるために風俗産業があるのだが、男同士の場合は積極的に求め合うので、ジャニヲタでも性行為の相手にありつくことができる。
関連:風俗の客がキモい理由
ゲイは子を残せない寂しさをおぼえるが、同時にし烈な競争を降りた安堵感もある。
人間のペニスの形状がクサビ形になっているのは快楽を得るためではなく、メスの膣内から他のオスの精子を掻き出すためのもので、この事からもし烈な繁殖競争が伺える。
※ゲイへの偏見ではなく、人間の進化の切り口から解説しています。
ゲイの不安
ゲイ仲間が集まって、将来の不安を話し合っている。
同性婚制度が認められない場合、同居家族が必要な公団には入れなかったり、配偶者控除などの経済的な恩恵が受けられない。
それに両親が死んだ後の、保証人の心配もある。
だが、そういった大人のイベントを一切してこなかったジャニヲタは、話についてこれずバカにされる。
「36歳のパラサイトシングルの
ニートのゲイちゃん。最低ね!」
『なんでイジ悪ばっかいうのよォ!!』
ゲイである前にバカであるジャニヲタは、破綻する前日までは不安を感じることなく、幸せに生きられる。
緩い生き方の終わり
お金を軸に人間を多く見てきたウシジマくんには、ジャニヲタの将来が見えている。
ジャニヲタのような緩い生き方に対し、ウシジマくんはいつか破綻する事を知っているから
「それがずっと続けば最高なんだろうけどな……」
とつぶやく。