ヤミ金くん編(18~20巻)ほか
人から奪うだけでは続かないので、社会的な成功者にはギブ(与える)タイプが多い。
だが金持ちの家の子の竹本優希(ゆうき)は、見返りを求めず人助けをした結果、貧困ビジネスの寮にまで落ちてしまった。
他人に与える人が富むのは、恩返しを受けるからだ。
だが竹本の周りの人間は、人の好意をブラックホールのように吸い込むだけで感謝をしない。
優しいだけの人は、他人の人生のツケを背負い込まされてフェードアウトしていく・・・
※ウシジマくんの中では異質な人物なので、初めての方は別の記事を先に読む事をオススメします
資本主義の最底辺
20代で、貧困ビジネスの共同宿舎『誠愛の家』に住む事になった竹本。
誠愛の家とは貧窮した人を呼び込んで、住む家を提供する代わりに稼ぎをピンハネする施設だ。
入居料などで借金をさせて、一度入るといつまでも出られない、ゴキブリホイホイのような家だ。
資本主義の上流はわかりにくい方法で搾取をするが、誠愛の家は露骨な手段で搾取する。
辺鄙な所にある誠愛の家では、ボッタくり価格でカップ麺を売っている。
他にも移動の車や布団など、事あるごとに金をとられる。
それに宿舎内では人間社会のどこで生きているのか不明な、野良人間のおばさんを拾ってきて売春が行われている。
手前をよく見るとローション代わりのサラダ油や、ティッシュ代わりのトイレットペーパーが置かれている。
こんなもの、赤羽の公衆トイレである。
性行為にトイレットペーパーを使うようになったら、人間の尊厳としてお終いである。
住人の男たちは排泄と変わらないような行為に金を使ってしまい、借金の元本は一向に減らない。
そして動けなくなるまで、ネズミのように働かされる。
ここに竹本は、資本主義の縮図を見ている。
住人『ホームレスのほうがマジマシじゃねェーか。』
だが竹本は底辺の環境でも、どこか満足げに見える。
文句しか言わない他の失敗者とは、大きく違う精神性をしている。
では彼はなぜ日本の最底辺まで落ちたのか、足跡を追っていきたい。
荒れた地域の公立中学校
竹本の家は資産家のはずだが、荒れた生徒が多い公立中学に通っている。
教育資本がある家なら、ケガや他の生徒からの悪影響を避けるために私立中学に通わせる。
公立中学のメリットとして語られる『多様性』だが、ダメな方向のすそ野が広いだけで、いいトコの子にはメリットがない。
ただ半径1kmに住む子の集まりの、どこが多様性なのだろうか?
それに彼らは多様なようで、盗む・人に噛みつく・隙あらば交尾といった野良犬と同じような事しかしないので、近くにいてもリスクしかない。
むしろ賢い子たちの方がプロレスから宇宙工学まで、多種多様な興味分野を持っている。
成績も優秀な竹本が、なぜ私立に通わなかったのか違和感がある。
人の人格を見抜く時、過去の経歴の矛盾点にフォーカスをあてる。
穏やかな竹本を変えるために、親があえて荒れた公立に通わせたのだとしたら、強引な教育方針が垣間見える。
ここでは親の強引さを仮説として拾っておき、他の矛盾点と合わせて人格判断に使う。
経歴から人を判断するポイントは他にもある。
もし、小学校と中学校で離れた都道府県に通っていた記録があれば、親が転勤の多い大きめの会社勤めか、離婚をしてダメージを負った子という仮説を立てる。
こういった点の情報を組み立てて、謎めいた竹本の人格を判断していく。
他人の痛みに反応する
転校してきたウシジマくんの名前が『カオル』で、ギャップを感じる竹本。
見ての通り、竹本の容姿は中学時代から非常に女性的だった。
母性(優しさ・共感性)が優位な場合、外見的なイメージも柔和な印象になりやすい。
反抗的なウシジマくんに対してクラス全員でリンチを加える時に、竹本だけ参加しなかった。
そのため竹本も殴られたのだが、そんな事は気にせず卒業した小学校のうさぎにエサをあげている。
ウシジマくんに殴られたのか聞かれるが、竹本は
「どうでもイイよ。」
と言うだけで、土曜日で誰にもエサをもらえないうさぎの面倒をみている。
自分の事よりも弱者に感情移入する点は、母性が優位な事を示している。
ウシジマくんが少年院に入る事になった時、ウシジマくんが飼っていたうさぎは竹本が預かる事になった。
二十歳前後で少年院から出所したウシジマくんが、竹本に聞く。
『竹本、お前 今
何してるんだ?』
「服のブランド立ち上げた。
祖父が生前贈与してくれた
お金を元手に始めたンだ。」
後の巻で父親に資本金を出してもらったという事なので、祖父からの生前贈与は運転資金という解釈にしたい。
他者の辛い・寂しいという感情に寄り添う姿勢は、中学時代から変わっておらず、預かっていたうさぎが一羽では寂しいだろうと、勝手にツガイにしていた。
この優しい性質と、ブランドの立ち上げは矛盾がある。
男子は他の男と競う事が好きで、そういった闘争本能から起業による富と名声を求める。
だが闘争本能がない竹本が起業をしたのは、違和感がある。
貧困地域に同情し、フェアトレード(適正価格で買い付け)のために起業したなら辻褄があうが、ここではまだ動機は不明だ。
経営に疲れる
雑誌で新商品を取り上げてもらうために、ギャラ飲み女を使った接待をする竹本。
竹本は一応社長だが、派手な接待などの案は遊び好きの役員が出している。
ブランドのコンセプトもその役員が出していて、竹本の考えはあまり会社に反映されていない。
雑誌社への接待終わりに偶然ウシジマくんに会い、二人で夜明けの海を見に行く。
竹本のブランドは立ち上げ当初、雑誌のタイアップで作ったデニムのパンツが跳ねて躍進したのだと言う。
「原価300円のTシャツに
ブランドロゴプリントしただけで一万円。
それが一日に100枚も売れるんだ。」
フェアトレードでも何でもない商業主義のブランドで、儲かってそうなのに浮かない竹本を心配するウシジマくん。
底辺男の悩みだったら『腹が減った』とか『女とヤリたい』とか、野良犬が喋れたら言いそうな単純なもので、金があれば簡単に解消できる。
だが金持ちの悩みは根が深い。
『竹本。お前
大丈夫か?』
「うん。いろいろ面倒なコトになってさ…
ちょっと疲れたなァ。」
人は自分の気質と違う事をやっていると、慢性的な疲労感に襲われる。
疲労の段階で引き返せれば精神の回復が図れるが、何らかの事情で辞められない場合、心と体が引き離されていく。
エスカレートすると自分が自分ではなくなるような喪失感をおぼえ、ウツや自殺につながる。
躾け(シツケ)が出来ない竹本
竹本は性に合わないブランド運営に加え、役員の吉澤(よっちゃん)との関係にも悩んでいた。
吉澤は横領こそしていないが、クラブイベントで現金をばら撒いたり、経費を使いまくってキャバクラで豪遊していた。
闇金の取り立てで、ダメ人間の躾けに慣れたウシジマくんは言う。
『先輩だろうが関係ねーだろ。
社長のお前がガツンと言ってやれよ。』
「そーなんだけど、うちのブランドは
よっちゃんの人脈で回ってるとこもあるから言いづらい。」
竹本は吉澤を叱らない理由をクドクドと述べるが、それは言い訳に過ぎない。
竹本のように弱者に肩入れする性質の人間は、社長という立場を使って上からものを言うのが苦痛に感じる。
ママ友でやっている小さなタピオカ屋だったら、横並びの友達感覚でもできるかも知れない。
だが会社組織では、階級による厳格さが必要だ。
ちなみにウシジマくんの躾けは返済金が足りない場合、子供がいる家でも
『金作るまでエアコンのリモコンは没収。』
と言って持って行ってしまう。
これが一番優しいペナルティで、だんだんと厳しくなっていく。
債務者が約束を守らないと必ず罰を与え、躾けをして従順な債務者にしていく。
優しさのツケ
竹本はどこまでも優しく、決断ができない。
役員のよっちゃんが派手な遊びをやめられず、女がらみで半グレにハメられる。
さらによっちゃんは問題解決のためにヤクザに相談してしまい、完全にドツボにはまる。
よっちゃんは好き勝手をしていたくせに、どうしようもなくなると優しいお母さんのような竹本を頼る。
竹本がカップラーメンにお湯を入れて食べようとしたところで、よっちゃんから電話がかかってくる。
警察に相談しようと言う竹本に対し、吉澤はヤクザへの1億円の解決金を出してもらおうとする。
『近い将来サンバービィ(服のブランド)を一部上場企業にして、
大手アパレルにM&Aイグジット(会社を売る)したら
創業者利益で500億くらいにはなりますよ。』
よっちゃん(吉澤)は多動が抑えられないが、頭が悪いわけではない。
よっちゃんはヤクザ問題をしのいだ後に会社の価値を上げて、落ち目になる前に売ろうと提案するが、竹本は否定的だ。
「どこかの誰かに負担とらせて
利益を出すってことか。」
『竹本社長、トリクルダウン理論って知ってます?
金持ちが豊になれば下も潤う。
利益追求は悪いことじゃないです。』
しかし、これも竹本の哲学に合わない。
「金持ちは1円を2円に増やさないと気が済まない。
下に譲ることはしない。
貧富の差はどんどん開くよ。」
大人になってからは、知的水準が大体同じくらいの人とコミュニティを作るものだ。
竹本とよっちゃんは同じくらいの論理性がありながら、お金に対する思想が大きく違う。
竹本のような母性が強い人は、ぶつかり合いを避けるために決断を避ける。
ここでも社長の竹本が主導権を握らないから、議論は平行線のままで終わる。
優しさは無条件に素晴らしいものではなく、他人を甘やかして腐らせる事もある。
電話を切って、生活感のない部屋で一人つぶやく竹本。
「(カップ)麺が伸びた。
どーしよう。」
竹本の性欲
性欲を見る事でも、その人物の気質がわかる。
竹本は家に、小百合という若い女の子を泊まらせたりしている。
だが肉体関係はなく、竹本は小百合にお兄ちゃんと呼ばれている。
お兄ちゃんと呼ばないよう小百合に言うと
『だって竹本は小百合のこと
いろいろ助けてくれる東京のお兄ちゃんだもん。
私、センスめちゃくちゃだから服も選んでくれるしさ。』
小百合は竹本を呼び捨てにするだけでなく、服のセンスがおかしかったり、キャバクラの仕事でも客の名前が覚えられなかったりする。
偏差値を調べたら恐らく30とかのレベルで、一般社会では知能的にグレーゾーンだろう。
この層は行政に保護をしてもらえず、かといって人並みに働くことも難しい。
何もない部屋を見て、小百合が言う。
『お兄ちゃん、ここで本当に生活してるの?
何も無いね。』
『まーね 何も無い。 空っぽだよ。』
ミニマリストでもない限り、部屋には人格が反映する。
つまり今の竹本は、幽霊のような実体のない生活を送っているのだ。
底辺がくだらないものを溜め込んで、部屋をギチギチにしてしまうリスのような苦悩と違い、竹本の抱える悩みは深い。
竹本が起業した理由
キューバ帰りのデザイナーと会って、吸えないのに土産のタバコを吸う、付き合いのいい竹本。
服の事を熱く語るデザイナーに、竹本が言う。
「本当に好きなものがあるの
いいなぁ…」
『竹本くんは服 好きなンじゃないンスか?』
「まー たまたま よっちゃんと選んだのがファッション業界ってだけ。」
起業をしたがる気質じゃない上、ファッションも役員のよっちゃんがやりたかっただけ。
竹本が起業をした理由が、ますますわからない。
だが竹本の自己分析は的確で、
「自分は1を100にする能力はあるが、0を1にする才能はない」
と言っている。
「0から1千万円を貯めるのは物凄く大変だけど、
1千万円を1億円にするのは簡単だ。
最初の会社の資本金1千万円は親が出してくれたんだ。」
資本金をポンと出してくれる親は、普通ではない。
「父親の方針で、時給をもらうバイトからは得るものがないから、
大学一年生の時に1千万円渡されて起業するように言われたンだ。」
ここでようやく、竹本が気質に合わない起業をした理由が明らかになる。
ビジネスで成功した父親は、子供など教育でどうとでも染められるという、傲慢な考えを持っている。
竹本が本来なりたい姿を考えずに1千万円で起業をさせて、ビジネスの勉強をさせて自分の後継者にしたかったのだろう。
その結果、竹本はアイデンティティ(自分らしさ)の獲得が出来ずに、不完全な人間になってしまう。
傍から見れば1千万円も出す父親はよく見えるから、デザイナーに
『いいお父様ですね。』
と言われると、感謝でも憎しみでもない、虚無の表情を浮かべる。
竹本が親にアイデンティティを奪われた姿は、性同一性障害の存在が世に広がる前の時代、心が女性なのに嫁を取らされる跡取り息子のケースに似ている。
竹本が性同一性障害なのか明確な描写はないが、女性的な特徴は随所に出ている。
少なくとも営利で起業をして社長になる事は、竹本の気質には合っていない。
自分が何者なのかを見失った若者は、彷徨い始める。
会社から去る
竹本は会社から姿を消す前に、社会を憂いていこんな事を言っている。
「今後は権力を持った老人が、
チャンスすらない若い弱者に さらに負担を押し付けて未来を奪う。」
人は一度手にしたものを、手放そうとはしないものだ。
竹本は自分が社長を経験した事で、権力者の失う恐怖を理解し、社会が変わらない事を悟る。
せめて自分が虐げる側に回らないよう、資本主義の世界から去る事を決意する。
「明日を犠牲に浪費するのは虚しすぎるよ。
僕は次の世代に
思いやりを持ちたいな。」
命を紡いでいく母性が優位な人間らしい事を、囁くように言う竹本。
インチキNPOの丸井
底辺も竹本と似たような事を言うが、なぜ人々の心に響かないのだろうか?
ニートを集めてNPO法人を起ち上げ、いっぱしの起業家気取りの丸井。
「問題を見つけるのが起業家です。
回答はお客様の笑顔です。」
新入りのニートにマウンティングをしているが、運営するNPOは助成金をもらう事が目的化していて、事業として成り立っていない。
そのNPOで、給料は丸井しか貰っていない。
底辺は、他人に批判的だが自分への批判は受け付けない性質がある。
他罰的だから内ゲバになりやすく、論理型ニートに少し批判をされると
「何ひとつ まともにやった事のないニートが
エラソーに言うな!
起業というのはそんなに甘くない。」
自分も助成金頼りのNPOのくせに、ニートに向かって「生活保護者のくせに!」と吐き捨てる。
彼らの声が大きいのは、内容が聞くに値しないので世間の人に無視をされるため、だんだんと声が大きくなっていくからだ。
だからダメな人ほど、拡声器を使いたがる。
底辺の資本主義への批判は、ただ自分にお金が回ってこない僻(ひが)みでしかない。
丸井はそもそも資本主義の末端にさえ立っておらず、見様見真似で批判をしているだけだ。
誠愛の家での竹本
社長の頃は、竹本のギブに対して才能で返してくれる人がいたので裕福だった。
だが誠愛の家の住人には、能力も義理人情もない。
誠愛の家の同室で、寮から逃亡しようとして右足を切り落とされた(!)黒田の面倒をみる竹本。
「ほ―――い。 黒ちゃん、おしっこ捨ててきたよー。」
誠愛の家では全てにお金がかかるが、竹本だけは無償で他人に奉仕をしている。
別の同居人の甲本に、奴隷仕事の合間に板チョコをあげる。
「甲本っち。半分あげる。
現場の人がくれたよ。パチンコの景品だって。」
半分といっているが、真ん中で割れなかったので3分の2を甲本に渡している。
チョコレートを受け取った甲本は、恩を感じるだろうか?
『ケッ…
ヘラヘラしやがって。お前こんな生活してて
虚しくならねーの?』
底辺はお礼が言えない。
衣食足りて礼節を知るのではなく、貧しくても礼節を失わなかった人間が信頼され、引き立てられる。
誠愛の家は、箸にも棒にもかからなかった人間の集合体だ。
竹本の善意は、腐った人間のハラワタに吸い込まれて消えるだけだ。
地獄を見る
誠愛の家は他人の為に何かをすると、自分が損をすると思う人々の集まりだ。
人間は周囲と協力し合う事で発展した種族だから、社会性がない人間は稼げない。
そんな荒れ放題の誠愛の家を、一人でキレイにする竹本。
だが、それくらいで誠愛の家の住人が変わるわけもない。
街に出た誠愛の住人たちがポイ捨てしたタバコを拾う竹本。
それをジッと見ていた住人は、手伝おうともしないで
『竹本くん 小銭持ってる?』
「え? うん」
『なんか緊張してさぁ…
のど渇いた。缶コーヒー買ってきてよ……』
『あ、俺も…』『俺も。』
誠愛の家の住人たちは、善行を見るとタカりやすい相手だと思い、次々に竹本にコーヒーをねだる。
その缶もポイ捨てし、竹本に拾わせる住人達。
基本的にダメ人間は他人からもらう事ばかり考え、そのツケが後で支払わされるリボ払いのような人生を送っている。
彼らが向かったのはウシジマくんの所で、竹本が保証人になることで、住人達に金を貸して欲しいとお願いに行った。
だが、ダメ人間の習性を知り尽くしたウシジマくんは、友人として忠告する。
『お前は何がしてーの?
お前がコイツらにやってる親切は
便所をエビアンで流すくれー無駄だ。』
「無駄じゃないよ、カオルちゃん。信じて欲しい。
人が人を見捨てたら
心の貧しさはなくならない。」
こうして与え続けた結果、竹本はブランドの社長から誠愛の家の住人にまで転落している。
単なるメシア願望で貧困救済の声だけ出して、自分は汗をかかない人間はいる。
だが竹本の場合は自己を破壊したいかのように、身が削れるまで与え続けている。
その姿は親に与えられた金を捨てる事で、アイデンティティを獲得しなおそうとしているかのようだ。
それに対し貧乏な家庭育ちのウシジマくんは、金が無かった事で失ったアイデンティティを、金を得る事で取り戻そうとしている。
竹本は足を切られた黒田の治療費のため、ウシジマくんからお金を借りてしまう。
『金貸しとして忠告するよ。
お前 地獄を見るぞ。』
人は成長して人格が固まってくると、絶対に譲れないものが出てくる。
お金はウシジマくんのアイデンティティの一部であり、決して譲れない。
損得の問題ではなく存在の問題だから、ウシジマくんは絶対にお金を回収する。
共依存
後日、元誠愛の家の住人が、路上で熱心に新聞を読んでいる。
誠愛の家から出て、生まれ変わって勤勉になったのだろうか?
そうではない。スポーツ新聞のエロ広告に喰いついていたのだ。
「一万円ポッキリホテヘル。
おーし 今日の仕事ガンバるぞ!!
ホテヘルホホホイ♡
ムフフー♡
生きる糧ができたぞィ。」
ホテヘルで生きる希望が湧く底辺。
自由にさせても、結局は誠愛の家と同じような生活を送っている。
ダメ人間の人格形成は親が10年以上、更に遺伝を考慮すれば数百年かかって作られたもので、簡単には変わらない。
彼らはアクシデントで貧しくなったわけではなく、なるべくしてなったのだ。
そんな彼らにアメを与えれば、9割の人間はもっと甘えようとして、変化するのは1割以下だ。
その1割もマイナスがゼロになるだけで、竹本に恩返しする能力は無い。
動物に近いダメ人間が変わるとすれば、怖い思いをした時だ。
つまり、ナマハゲのようなウシジマくんのやり方の方が有効なのだ。
ウシジマくんは、誠愛の家の人間について竹本に言う。
「いいか竹本。
自分(テメェ)のケツは自分で拭かねェーと 人は何も変わらねェーンだ。
自分がしてきた事の責任を何処かできちんと取れば
人は変わる。」
竹本の行いは善行に見えて、誠愛の家の人間を腐らせる行為なのだ。
そして共依存になって、自分の身をも滅ぼす。
竹本は親に自我を認められなかった自分を、社会に存在を認められないダメ人間に重ねているのだ。
ダメ人間を救うことが、自分を救う事になる。
そういう憑依体質だから、ダメ人間にさえ不気味がられる。
「(指を)折りなよ、甲本っち。
キミのコトを恨んだりしないから。」
(ゾォ……)
アイデンティティを獲得できなかった竹本は、自傷行為のように身をやつしていく。
「僕も現世が全てとは思ってない。」
優しい人は満たされていると勘違いされやすいが、助けが必要なのは竹本の方だったのだ。
人格を掘り下げる
竹本のように優しい人物は、無条件で素晴らしいとされて、そこで考察は打ち切られがちです。
また、丸井にしても肩書だけをみれば『ニートを救うNPO代表』という事になりますが、人格まで深掘りすれば、褒められる人物ではない事がわかります。
優しさや肩書で早合点せず、人格を見るためには基準が必要です。
ここでは、気質を測るエゴグラムのテストを応用しました。
基準を持つことで、点の情報から人格を深掘りする事ができます。