ヤクザは、街で騒動を起こすだけの者をハンパ者と言って蔑む。
人間としての筋が通っていない、人未満の存在だと。
一般人から見たら大差ない存在なのに、ヤクザの自負はどこからきているのか?
![]() |
![]() |
ヤクザは型枠作りから教育する
ウシジマくん編より(39~46巻)
ヤクザの教育は、勧誘の段階から始まっている。
ヤクザの滑皮と部下の梶尾が駐車場に居ると、中学生くらいのヤンキー少年が
![中学生ヤンキー](https://usijimakunnoningengaku.com/wp-content/uploads/2019/03/42-139-300x300.png)
真鍋昌平著「闇金ウシジマくん42巻」小学館
「煙草 一本くれよ。」
と言ってくる。
親にも相手にされない子供は、街でケンカを売ってでも他人に相手をしてほしがる。
このくらいの年齢の子供はイキっていて、ヤクザにも怖気づかない自分はすごいと思いたがる。
梶尾「ぼく中学生?
舐めた口利いてると
煙草でお灸すえちゃうよ?」
![口答えする中学生](https://usijimakunnoningengaku.com/wp-content/uploads/2019/03/42-140-300x300.png)
真鍋昌平著「闇金ウシジマくん42巻」小学館
中学生「ああ中学だ。
手下が指図すンな。
煙草一本でケチケチすンな。」
中学生は誰かに相手をしてほしいから挑発をする。
梶尾の顔色が変わるが、滑皮がタバコを中学生に差し出す。
それも一本ではなく、箱ごと渡す。
親にはプレゼントどころか、存在すら忘れられている子供は特別扱いされたと思って舞い上がってしまう。
ヤクザは相手に言われた通り、一本だけ与えるような事はしない。
それでは対等な関係になってしまうからだ。
意表を突いて、主導権を握るのがヤクザだ。
思いがけず箱ごともらって、さっきまでの勢いをそがれる中学生。
![滑皮と中学生](https://usijimakunnoningengaku.com/wp-content/uploads/2019/03/42-141-300x300.png)
真鍋昌平著「闇金ウシジマくん42巻」小学館
「礼くらい言えよ。」
「あ、ありがとうございます。」
「おう。」
このやり取りだけで、滑皮と精神的な主従関係が生まれてしまう。
中学生は、遠巻きに見ていたヤンキー仲間に自分の雄姿を見せつけられて満足だ。
![中学生たち](https://usijimakunnoningengaku.com/wp-content/uploads/2019/03/42-141-1-300x300.png)
真鍋昌平著「闇金ウシジマくん42巻」小学館
初めて大人に認めてもらえたという気持ちだ。
それがヤクザの手口とも知らずに。
滑皮が梶尾に言う。
「あの中坊は構成員候補だ。
今のうちにタラし込ンどいて損はねェーよ。
組に入ったらお前が教育しろ。」
そう、”タラし”こむのだ。
女たらしという言葉があるが、ヤクザは情で支配をするので、男に対してもタラし込むという行為をする。
寂しい子供が何を求めているのか、ヤクザはよく知っている。
何も知らない子供は、兵隊(若い衆)にするのに都合が良い。
イキって向かってくる中学生を怒っても、ヤクザには何の得もない。
タラし込んで、安く使える構成員にした方が得だ。
カタにハメられるチューボー
自分を人として認めてくれたヤクザの組事務所が居場所だと思い、ノコノコ構成員になってしまうチューボー。
早速、梶尾に制裁を受けている。
![殴られるチューボー](https://usijimakunnoningengaku.com/wp-content/uploads/2019/03/43-117-300x300.png)
真鍋昌平著「闇金ウシジマくん43巻」小学館
「便所掃除がだりーだ?
上に言われたことに文句あんのか?」
「いえ、ありません。」
だりーという我意さえ出ないよう、徹底的に上下関係を教育をする。
体罰が禁止された世の中で、パワハラどころではない教育が行われる。
車の凹みをハンマーで直す板金のように、叩いて性根を直していく。
家庭で最初に覚えていく社会性を習っていない子供は、人間としてのカタがない状態から教育を始めなければならない。
カタというのは、建築でコンクリを流し込む時に使う型枠と同じ意味のカタの事だ。
まずは人としての器から組まなければ、教育を注いでも人の形にならない。
人間の型枠作りで手っ取り早いのは、暴力による圧倒的な恐怖だ。
この方法では優しさなどの気質は欠落するが、ヤクザに適した人間にさえなればいいので問題ない。
個人の意思や人格は一切認めないで、組の意思決定だけに従う兵隊を作り上げる。
だから自己顕示のためのバイトテロのようなことなど、起こりようがない。
![滑皮と中学生](https://usijimakunnoningengaku.com/wp-content/uploads/2019/03/43-118-300x300.png)
真鍋昌平著「闇金ウシジマくん43巻」小学館
たまにアメを与えては、洗脳をして仕込んでいく。
宿舎に住み込み、トイレ掃除から炊事洗濯をこなし、電話番や人の応対などの仕事もこなす。
仕事を強要される事で、人の形になっていく。
返事や挨拶は、自由で生ぬるく生きてきた同年代よりもしっかりしている。
行儀見習いを教わり、住み込みでテキパキと家事をする。
厳しい中でも逃げ出さずに、人になれたという自負があるので、ハンパ者を見下す。
滑皮の下積み時代
![トイレ掃除をする滑皮](https://usijimakunnoningengaku.com/wp-content/uploads/2019/03/40-80-300x300.png)
真鍋昌平著「闇金ウシジマくん40巻」小学館
滑皮も最初は、トイレ掃除からスタートしている。
兄貴分の熊倉の身の回りの世話もしている。
付き人制度のように、一緒に居て仕事(シノギ≒犯罪)のリズムを学んでいる。
勉強というより、トレースに近い形で仕事を継承していく。
熊倉の運転手をしながら
![運転する滑皮](https://usijimakunnoningengaku.com/wp-content/uploads/2019/03/41-24-300x300.png)
真鍋昌平著「闇金ウシジマくん41巻」小学館
「兄貴、2時間後に
サンバービィとかいう
洋服ブランドの役員、
吉澤敬純のアポ入っていますので
よろしくお願い致します。」
時間と相手の名前だけでなく、熊倉が思い出しやすいように会社の業種まで添えて予定を伝える。
粗暴なだけでなく、相手の事を考えられないとシノギの際の心理も読めないので、ヤクザとして上には行けない。
熊倉目線に立って気を回せる滑皮は、ヤクザとしての素質がある。
ヤクザの下積みで型枠にハメられて、元々の素質が活かせるようになったのだ。
サンバービィの吉澤とのアポに、滑皮も同席する。
半グレに恐喝を受けている吉澤の相談に対し、熊倉が
「チンピラは生ごみのように
処分しちゃいましょう。」
と言うと、吉澤は
![吉澤専務](https://usijimakunnoningengaku.com/wp-content/uploads/2019/03/41-29-300x300.png)
真鍋昌平著「闇金ウシジマくん41巻」小学館
「別にそこまで
していただかなくても…」
と尻込みする。
すかさず恫喝役の滑皮が
![恫喝する滑皮](https://usijimakunnoningengaku.com/wp-content/uploads/2019/03/41-30-300x300.png)
真鍋昌平著「闇金ウシジマくん41巻」小学館
「テメェ!吉澤ぁ!
人にもの頼んでおいて、
別に、とはなんだこの野郎!!?」
と激高する。
間髪入れずに熊倉が滑皮をぶん殴る。
![殴る熊倉](https://usijimakunnoningengaku.com/wp-content/uploads/2019/03/41-31-300x300.png)
真鍋昌平著「闇金ウシジマくん41巻」小学館
「でけえ声出すんじゃねーよ、ガキ。
人様の迷惑だろうがぁ!」
茶番劇だが、このテンポを目の前で見せられると、吉澤はヤクザのペースに呑まれるしかない。
こうして吉澤が殺人の依頼を熊倉にした事にされてしまう。
この件が済んだとしても、吉澤はヤクザにずっとたかられる。
一度でも接点を持つと、ヤクザに骨まで食い物にされる。
それがヤクザの生業だからだ。
シノギのリズムを実践で勉強していく滑皮。
ぶん殴られた事を不満に思って、辞めたりしないのだろうか?
![熊倉と滑皮](https://usijimakunnoningengaku.com/wp-content/uploads/2019/03/41-21-300x300.png)
真鍋昌平著「闇金ウシジマくん41巻」小学館
情でたらし込んで信頼関係を築いているから、問題ない。
会社で口頭の注意くらいでパワハラになるのは、信頼関係を築いていないからだ。
信頼関係さえ築いていれば、暴力さえシノギの指導と受け止められ、感謝される。
この洗脳型の教育メソッドが、ヤクザの強みだ。
人間のカタがない構成員に、『ヤクザ』という人格を植え付ける。
こうしてヤクザの思考・シノギが遺伝のように、組員に代々継承されていく。
人の負の感情から生まれた怨念のような『ヤクザ』というDNAが、組員を媒体として何代も受け継がれていく。
自由な半グレが一代で消滅していく中で、ヤクザは数百年前と同じ形態で今も生き続けている。
遺伝子でつながっているので、組長をオヤジと呼ぶのを筆頭に、アニキやオジキという風に親類縁者で呼び合う。
衰えてきた組員が、自分は『ヤクザ』というDNAの入れ物にされていたと気づく頃には、『ヤクザ』は気力・体力が充実した次代の組員に乗り換えている。
『ヤクザ』という憑き物が抜ける時に、精気もオーラも一緒に持っていかれてしまう。
残るのは抜け殻になった身体と、それまでの罪の業(カルマ)だけだ。