ヤクザの豊富な語彙力

ヤクザの它貫 名場面
真鍋昌平著「闇金ウシジマくん11巻」小学館

ヤクザは学はないが、語彙力は豊富だ。

それも日常から生まれた独自の単語で、ユーモアにあふれている。

 

自分を賢く見せようという欲がないので、横文字のようなイヤらしさがない。

実用的で言葉自体の有用性が高いので、虎の威を借りる雑魚が好んで真似をする。

法に触れない安全圏でヤクザの真似をする連中と、本職の違いとは。

ホストを痛めつけるヤクザの它貫

サラリーマンくん編より(10~12巻)

 

ヤクザの它貫(たぬき)がホストの口にゴルフボールを咥えさせて、ドライバーで打とうとしている。

 

ホストを痛めつける它貫

真鍋昌平著「闇金ウシジマくん11巻」小学館

「丑嶋社長、長シャリでも食いに行こか。

すーーーぐ 終わっから!」

 

こんな異常な行動が、行きがけの駄賃くらい日常感覚なのが怖い

長シャリとは、長いシャリ(飯)で蕎麦のことだ。

刑務所では、飯をシャリと呼ぶ。

 

銀シャリは白米の事で、甘い食べ物は甘シャリになる。

何でもかんでも食べ物は、シャリという単語に統一されてしまう。

言葉を記号化すると最初は戸惑うが、慣れると通常の言葉より素早く認識する事ができる。

 

彼らが生み出す文化には、狭い範囲で合理性がみられる。

シャリという用語は刑務所で使われる隠語だ。

ヤクザ者がそれを使うという事は、暗に刑務所の経験がある事を示している

 

普通にしているが、逆鱗に触れたら何をしでかすかわからないぞ!という脅しを醸し出している。

せまい一室のゴルフ練習場で、ホストの輝稀が床に転がされている。

 

テーブル乞食

真鍋昌平著「闇金ウシジマくん12巻」小学館

「このテーブル乞食が!」

 

ただホストと呼べばいい所を、立場の違いを思い知らせるため、它貫がテーブル乞食と罵倒する。

人の尊厳を傷つける時には、一気に多彩な表現になる。

ホストをもっとも浅ましく表現した結果、テーブル乞食となる。

 

ホストがカッコ良く客に注文させているようで、その本質はテーブルで物乞いをしているのと変わらないのだとヤクザは言う。

どんなに着飾って貴公子のようにしていても、ヤクザに体裁は通じない。

 

ヤクザの呼び名の由来は8・9・3=博打で0点からきていて、自らを無価値な者と称している

だから相手が取り繕おうとしている事に敏感で、それを引きはがしにくる。

 

ヤクザの它貫

真鍋昌平著「闇金ウシジマくん12巻」小学館

「おい! 輝稀(てるき)!! 動くな…

俺を信じろ!! 大切な顔がグチャグチャになっちゃうぞォ!!」

 

絶対に信じられない。

この輝稀、風俗嬢の杏奈をひっかけたホストと同名だ。

ウシジマくんの世界では生み出したカルマ(業=罪悪)は回収されるので、同一人物だろう。

 

ホストクラブで客が飛んでカケが回収できず、輝稀は逃げようとしたが捕まった。

ゴルフ練習のように、スイングで

ゴルフスイングをする它貫

真鍋昌平著「闇金ウシジマくん12巻」小学館

「チャア・シュウ・メン!!!」

 

の掛け声でリズムをとって、ゴルフクラブをフルスイングする。

きれいなスイングを決めるが、やっぱり頭のネジが一本飛んでいる

 

輝稀の件が済んで、ウシジマくんの車で移動する。

ウシジマくんと它貫

真鍋昌平著「闇金ウシジマくん12巻」小学館

ウシジマくんの事を社長と呼びながらも、行動は違う。

「它貫さん、この車 禁煙ッス」

「あーーそーーなんだぁ」

全く消す素振りを見せない。

 

ヤクザは下手に出ているように見せても、相手に主導権は握らせない

 

再度ウシジマくんに

「它貫さん、禁煙」

と言われるが

禁煙を無視する它貫

真鍋昌平著「闇金ウシジマくん12巻」小学館

「禁煙って何?」

と返す。

 

こういう所で自分に歯向かわずに、言う事を聞く人間かを試している。

ヤクザが人を見抜く方法の一つだ。

ヤクザの言葉が面白いと思っても、内面までが面白いとは限らない。

 

興味本位で近づく者は、主導権を握られ手下にされてしまう。

ヤクザ言葉で取り込む

元ホストくん編より(23巻)

 

ヤクザ同士の討論では、言葉で一本とったら勝ちみたいなルールがある。

言葉のアヤだろうが何だろうが、返しに詰まったら負け

 

しりとりの暴力団バージョンだ。

ヤクザの熊倉はウシジマくんの事を社長と呼んでいる。

部下の滑皮がウシジマくんをサイフと呼ぶのを完全には禁じていないので、熊倉も内心ではサイフだと思っているのだろう。

 

だが表面的には社長と呼び、敬ってやっているという貸しを押し付けている。

そんな熊倉がいつも通り、金の無心のためにウシジマくんを呼び出す

優しい(役の)熊倉と、厳しい(素のまま)滑皮のいつものコンビ。

 

熊倉

真鍋昌平著「闇金ウシジマくん23巻」小学館

「忙しいトコ よく来てくれたね~~~ェ。丑嶋社長」

 

と労うのだが、ウシジマくんに行かないという選択肢は与えられていない。

断ってもなんだかんだゴネるので、行くしかない

 

新米を売りつける熊倉

真鍋昌平著「闇金ウシジマくん23巻」小学館

今日の要件は、怪しげな手段で手に入れた新米200キロの売りつけだ。

毎回、処分に困るものを売りつける。

 

おもちゃを売りつけに来た時にウシジマくんが断ったら、「じゃあ、おもちゃ屋始めろよ」だったので、新米を断っても「弁当屋始めろよ」と言われるだけだろう。

主導権は常に熊倉が握っている。

 

そんな中でウシジマくんのスマホにメールが届くと、熊倉が見るように勧める。

ウシジマくんが遠慮すると、水臭いコト言うなよと言って

ボンナカと言う熊倉

真鍋昌平著「闇金ウシジマくん23巻」小学館

「俺と社長はボンナカ(友達)みてーなもんだろ!?

なァ・・・滑皮」

 

「はい。とっとと見ろ!丑嶋ァ!!」

 

いつの間にか友人関係にされている。

このボンナカ(友達)という言葉。

漢字だと盆仲。

盆=賭博の事で、その仲間だから友達。

 

単なるお友達だと、チューリップやおてて繋いでと一緒で健全すぎる。

賭博という後ろめたい行為を一緒にする仲間というのが、ヤクザと闇金の関係には相応しい。

 

例えウシジマくんが熊倉の事を友達と思っていなくても、ボンナカには共犯者のニュアンスも含まれていて、強制的に仲間に取り込まれてしまう

ヤクザの言葉には、このように主導権を握る言葉が豊富だ。

 

これが横文字のガバナンス(統治・統制)では、オシャレなだけで支配性は薄い

ヤクザの生活の中から生み出された言葉は、泥臭く絡みついてくる。

下手したら中学中退ながら、自分が使う道具として機能的な造語を生み出してしまう。

 

才能豊かなのに選択を誤った結果、人々に望まれない場所であだ花を咲かせる。

※あだ花・・・咲くだけで、実をつけなかった花のこと