不安が仕事の原動力 豹堂

豹堂 おじさん
真鍋昌平著「闇金ウシジマくん44巻」小学館

ウシジマくん編より(39~46巻)

 

不安感が強い者は、極度に失敗を恐れるので失点は少ない。

ヤクザ稼業の出世レースは途中でつまづく者が多く、失点を防げば相対的に座布団(役職)は上がっていく。

 

だが、そういう姿勢はヤクザとしての華がない。

無難に生きながらえるつまらないヤクザ、豹堂。

不安が仕事の原動力 豹堂

猪背組の組長を決める話し合いをする重鎮たち。

序列で言ったら豹堂なのだが、その評価は

 

「どうも豹堂にはヤクザとしての華がないというか

三代目の器じゃない気がしまして…」

真鍋昌平著「闇金ウシジマくん42巻」小学館

そう、華がないのだ。

 

構成員に金以上の働きをさせるには、人望で惹きつける必要があるので、ヤクザには役者のような華が必要なのだ。

 

豹堂は会社で言えば事務系の管理職に適性があるタイプであって、好かれる経営者タイプではない。

これが豹堂の年季の入ったサイフ。

 

真鍋昌平著「闇金ウシジマくん42巻」小学館

兄弟分からもらった年期が入るサイフだが、こういう物を後生大事に持っている所にも、華のなさが出ている。

 

明日をも知れないはずのヤクザが、いつまでも思い出の品を持っている女々しさが漢を落としている。

 

物への執着は生への執着を連想させ、ヤクザらしからぬ豹堂はあまり人望がない。

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滑皮のスケール

豹堂と次期組長の座を争う滑皮

怪しげな金融関係のブローカーの黒河内とホテルで話している。

 

黒河内が大株主になって会社を乗っ取り、全ての金を抜き去る話だ。

少し話を聞いただけで、絵図を理解をしている滑皮。

真鍋昌平著「闇金ウシジマくん43巻」小学館

滑皮 「第三者割当増資だっけか?」

 

黒河内「はい、ベンチャー企業の資金調達によく使う方法です。」

 

株の投資では得をする事もあれば損をする事もある。

増してや怪しげな黒河内が持ってくる案件だが、大丈夫だろうか?

 

黒河内に顔を近づける滑皮。

真鍋昌平著「闇金ウシジマくん43巻」小学館

「あんたを信用していいんだな?」

 

「もちろんです!滑皮さん。」

 

契約書はないが、命の証文は交わしている。

黒河内は、絶対に滑皮を儲けさせなければならない。

 

出資するための現金を都合するため、手下の雁間(かりま)に電話をする。

 

雁間

真鍋昌平著「闇金ウシジマくん43巻」小学館

 

雁間は筋ものだが、沢山のディスプレイに株や為替のチャートが表示されているトレーディングルームに居る。

 

スリッパに高価なアーロンチェアという、成功した個人投資家のような恰好をしている。

 

「現金なら5億くらいです。

こないだ預かった6億もデイトレで倍になりましたよ。

滑皮さんが囲ってる弁護士や会計士がいい情報くれるから楽勝ですよ。」

 

滑皮は金や恐怖によって、弁護士や会計士を取り込んでいる。

それらを組み合わせて、金を膨らませるシステムを組み上げているのだ。

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ヤクザなのでシノギには暴力の恐怖をチラつかせているが、レバレッジを効かせて恐怖を何倍にも作用させている。

 

滑皮は幼稚にスゴんだり、暴れたりするヤクザの数百倍の金額を扱っている。

黒河内に求められた出資額は10億円だが、黒河内が集めようとしていた全額の30億円を滑皮が独占的に出資する滑皮。

 

決断力やシステムを作り上げる論理性、さらに暴力を含む行動力。

ベンチャー企業の社長のように、一気に組の序列をのし上がっていく。

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・一方、豹堂のスケール感

豹堂の一の子分、巳池(みいけ)。

滑皮より先に組に入ったのに、いまだに地回りをしている。

 

巳池

真鍋昌平著「闇金ウシジマくん43巻」小学館

 

デブのホストから会費( みかじめ料)を回収して回る。

いい歳をして黒のスエット上下なのが貧乏くさい。

 

「どうも。親睦会会費です、巳池さん。」

 

ホストにネチネチと、豚だの嫌味を言いながら金を受け取る。

こんなんだから、巳池は皆に嫌われている。

 

組では滑皮の先輩にあたるのに、いまだに地回りから出世ができない底辺ヤクザだ。

そんな姿を、長いベンツに乗った滑皮と子分に見られる。

 

真鍋昌平著「闇金ウシジマくん43巻」小学館

 

「親父(滑皮)。 巳池のアホ、今日もアホ面で小銭を集金してますよ。」

 

滑皮の子分にさえバカにされる巳池。

30億の話を決めた滑皮は、後部座席にどっしりと座っている。

 

同じヤクザ・組でも、実力次第であからさまに差がつく。

それが悔しかったのか、事務所に帰ってから豹堂に言いつける。

 

真鍋昌平著「闇金ウシジマくん43巻」小学館

 

「さっき滑皮のボケが偉そうにベンツの後部座席で踏ん反りかえってましたよ。

あのボケ、ロクでもねー金儲けして調子に乗ってますね。」

 

自分たちが理解できない金の稼ぎ方を『ロクでもねー』と言って蔑む。

ベンチャー企業に追い抜かれる老害と同じような発想だ。

 

それを聞いた豹堂も

 

真鍋昌平著「闇金ウシジマくん43巻」小学館

 

「どいつもこいつも金金金で

金の亡者に成り下がりやがって。」

 

と、愚痴りで返す。

豹堂は

 

「義理人情で街の人の役にたってナンボじゃねーか。」

 

と言うが、街の人は既にヤクザを求めてはいない。

人情で稼げないのは、時代(ニーズ)に合っていないからだ。

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豹堂と滑皮の直接対決

地回りでかき集めた金の600万円を、組長の前でテーブルに置く豹堂。

真鍋昌平著「闇金ウシジマくん43巻」小学館

組長のフェイスブックを見て、ダイエットを始めたのを知って媚を売る。

 

「ダイエットに成功されたあかつきには、これで新しいスーツでも仕立てて下さい。」

 

「おお ありがとう、豹堂。」

 

スーツ代としてなら600万円は高額なので、豹堂が次期組長になるための下心が含まれている。

そこに滑皮がジュラルミンケースを二つ持って入ってくる。

 

真鍋昌平著「闇金ウシジマくん43巻」小学館

 

「親父、失礼致します。」

 

大きさからして、ケース一つ1億円くらいだろう。

滑皮も同じく組長のフェイスブックで、釣りがしたいというのを見て、そこから気を回してクルーザーを勧めてきた。

 

だが組長は

 

「クルーザーかぁ。欲しかった時あったけど

いろいろ面倒じゃないのか?」

 

滑皮はその辺も想定していて、マリーナもあり維持・メンテも全てやる上に、船舶免許を取得したのでいつでも操縦に参ずると。

 

真鍋昌平著「闇金ウシジマくん43巻」小学館

 

「ほう。そいつは頼もしいな。」

 

豹堂の前で滑皮を褒める組長。

その差は歴然。

 

真鍋昌平著「闇金ウシジマくん43巻」小学館

豹堂は嫉妬する事しかできない。

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不安感だけで生き残ってきた豹堂

そっと深くてネチネチと愚痴を言う豹堂を象徴するのが、この気質だ。

海の護岸をジッと見る豹堂に巳池が話しかける。

 

「どうされました?

豹堂の兄貴。」

真鍋昌平著「闇金ウシジマくん45巻」小学館

「あ? いや、フジツボが苦手なんだわ。」

 

豹堂は続ける。

 

真鍋昌平著「闇金ウシジマくん45巻」小学館

「昔から蓮の実とかカフェオレに浮かんでるブツブツの泡も駄目なんだ。

見てると不安にならねーか?」

 

「いや、全然。」

 

真鍋昌平著「闇金ウシジマくん45巻」小学館

 

「そうか、不安は原動力になる。」

 

豹堂は、集合体恐怖症というものだが、あえてフジツボを見る事で不安な気持ちを掻き立てる。

不安な気持ちで生まれた恐怖から抜け出したい一心が、豹堂をここまでの地位に押し上げた。

 

不安感が強い人間は、恐怖に晒された時に最大限の知恵が働く。

 

しかし守りや逃げの感情が原動力になっているので、滑皮のように新しい分野に挑戦したり、大胆な行動がとれない。

 

それでも「いや、全然。」と言う、何の特徴もない巳池よりは能力がある。

 

豹堂のように危機に敏感な者は、手堅い行動で失点につながるような事はしない。

その間に周囲のイケイケのヤクザが脱落していくので、組の中で相対的に地位が上がっていく。

 

滑皮に比べて豹堂にヤクザとしての華がない理由

真鍋昌平著「闇金ウシジマくん45巻」小学館

失点を抑えて地味な行動の豹堂は、組員たちにとって華がない=評価されない。

ヤクザの座布団(役職)は極めて少なく、歳を取って無役のものは食っていけない。

 

だからヤクザは無意識の内に、派手なシノギを作って早死にしてくれる、破天荒なヤクザの下に集まってくる。

 

当人が死んでくれれば、そのシノギを引き継げる。

豹堂のように大したシノギも作れず、長生きする幹部は邪魔な存在でしかない。

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不安すぎて自分からヤクザになる

真鍋昌平著「闇金ウシジマくん44巻」小学館

豹堂は事あるごとに『義理人情』を口にするが、利用したキャバ嬢を始末する様に義理人情は感じない。

ただただ、自分の保身しかない。

 

こんな不安感が強い豹堂が、なぜヤクザになったのだろうか?

人はあまりに不安感が強すぎると、自分から進んで恐怖と同化してしまう。

 

幸せな状況が壊れるのが怖いと言って、自ら関係性を壊してしまう不幸体質の人と似ている。

 

社会人としてやっていく自信が無かった豹堂は、最初から壊れた社会人であるヤクザの道に進んでしまう。

そこで無難でつまらないヤクザとして、生きながらえている。