スーパータクシーくん編より(14巻)
タクシードライバーは底辺の仕事ではないが、新卒が夢を抱いて就くものでもない。
紆余曲折を経たドライバーたちには、それぞれの物語がある。
そんなドライバーの一人、41歳の諸星くんの話。
タクシーの仕事
諸星が勤めるタクシー会社にはノルマがあり、売上によって歩合のパーセンテージが変わってくる。
乗務は路上で休憩しつつ、朝から翌早朝まで続く。
諸星がタクシー会社から出庫すると、すぐに一人目の客がついた。
(最初の客がOLかぁ… ゲンが悪いぞ…)
諸星はジェンダー差別ではなく、経験を元にOLを敬遠している。
渋い金銭感覚のOLが朝にタクシーを使うのは、寝坊して遅刻しそうな時に限られる。
だから急かされるに決まっているし、その物言いも嫌味とヒステリーが入り混じっているから、朝から夫婦喧嘩を吹っかけられるようなものだ。
タクシーは例えヤクザであっても乗車拒否できないから、嫌な思いをするとわかっていても客を拾わなければならない。
後ろから人に指図をするタクシーは非日常的な空間で、客は自分が偉くなったと勘違いしやすい。
特に底辺の人間ほどタクシーに乗ると気が大きくなり、ドライバーに辛くあたる。
底辺というのは単にお金がない人を指す言葉ではなく、どこの階層にも存在する下位の人間のことだ。
例えば彼女のように結婚願望から解脱できないまま、とうが立った(盛りが過ぎた)女はOL界の底辺だ。
若いうちは男女ともに、優秀な繁殖相手を見つけることが生きるテーマになる。
そんな中でタイ料理のお米みたいに顔が長い彼女は、容姿の劣勢を仕事で補おうとした。
彼女は海外ドラマの女性のように颯爽と働く姿が男を惹きつけると思い、肩ひじを張って仕事で競った結果、男たちはますます遠ざかっていった。
男が好むのは彼女からすれば胸だけでなく、頭の中までマシュマロみたいなノロマな女たちだった。
誰も彼女のことなんて見やしないから、こんな風にタクシーの中でやっつけの死化粧(遺体に施す化粧)をしている。
彼女は人生のどこかの分岐点で、理想とはまったく別の方向に進むレールに乗ってしまった。
それでも社会人は走り続けなければ生活ができない。
頑張るほどに理想の生活が遠のく怒りを、黄色信号で止まろうとした諸星にぶつける。
「止まるな!!」
密室で命令できる相手を手に入れると、底辺は暴君に変わる。
ヒステリーモードに入った女は、鬼軍曹のように無理難題を命令し続ける。
「早く行け!!」
男の暴言は暴力沙汰のリスクがチラつく頃合いで終息していくが、女の暴言は意地なので終わりがない。
そういった意地のスイッチはタクシーだけでなく、男に圧迫されているオフィスでも入りやすい。
例えばオフィスで営業の男が暑いと言っても、OLがエアコンの設定温度を頑なに下げないのは、意地のモードに入っているからだ。
ニホンミツバチは天敵のスズメバチが来ると集団で取り囲み、熱殺蜂球という技で蒸し殺しにする。
世のOLも、臭いしうるさい営業の男を熱中症にして倒したいのだ。
彼女はどこでも対決姿勢だから『交通違反は出来ません』と命令に背く諸星を、車内に設置されているクレーム用紙で脅す。
こんな風に要求だけで妥協点を見つけない彼女の姿勢では、仕事も行き詰まるだろう。
彼女はキャリアウーマンを気取っているが、実際は無駄にカリカリしただけの女で、本人が思っているほど仕事はできない。
こういう女は35歳を越える頃には、誰からも真剣交際の相手にされなくなる。
そうなると型落ち品のフリーマーケットであるマッチングアプリにすがるか、ヨーロッパの男相手ならゴマかしがきくと思って渡欧を企てる。
それすらも叶わなければ独身女の納骨堂(墓場)であるワインBarに通い、たまにブルーチーズで腹を下して下痢まみれの独身生活を送る。
そんな全てが思い通りにならない人生で、唯一自分の命令通りに動くのがタクシードライバーだ。
だからなおのこと、服従しないドライバーが許せない。
散々、神経をすり減らされた諸星だが、OLの金銭感覚は渋いのできっちりワンメーターしか使わない。
ひとしきり怒り散らし、アスファルトを削りながら立ち去るOL。
彼女のように常に怒りのマグマが沸いている人は、普段は何とか抑えて生活をしている。
そんな少し揺らしただけで噴火する、活火山のようなOLでも運ばなければならないのがタクシーだ。
関連:生きるのが辛いブスのみほ
男の底辺客
無論、男の中にも底辺客はいる。
むしろ支配欲が強い性である男の方が、タクシー運転手に威圧的だ。
客「急げ急げ!! 信号止まるなよ!!」
ドライバー『無理。』
若いドライバーがついタメ口で返すと、客のサラリーマンはイラッとする。
「あ!?」
30半ばで自分の生涯ポジションが高くないであろうことを悟ったくらいの、夢の無いサラリーマンはひどく心が狭い。
取引先に呼び出されたら媚びへつらい、ドライバーには横柄なサラリーマンなど、スレたデリヘル嬢と変わらない。
精子の頃から一番になることを求められる男の中には、自分がてっぺんを取れない現実が受け入れられない者もいる。
こういう男は他人を見下すことで、自分は上位なのだという幻想に浸る。
いわゆる自己愛性パーソナリティ障害という、性格の病だ。詳しく:『人を見抜く方法』第八章 性格の病
後ろからクレーム用紙の角で、ドライバーの頭をつっつく客。
女は暴言がメインだが、男の場合は危害を加えてくる。
小賢しいことにサラリーマンくらいになると、法に触れない範囲で絡んでくるから性質が悪い。
「てめェーなんかはこの紙キレ一枚で、
ニートにしてやる!! あははははは……」
こんな嫌な客と毎日接するため、タクシードライバーの心は荒んでいく。
ノルマに追われる諸星
この日は締め日で、今日中にノルマを達成しないと歩合の%が大きく下げられてしまう。
バツイチの諸星は元嫁への養育費に加え、借金の返済もあるから歩合は死活問題だ。
朝イチでOLを拾ってゲンが悪いと思った通り、日中は全く稼げず夜の銀座に期待をかける諸星。
だがそこには他のタクシーも群がっていた。
タクシー業界は規制緩和により台数が増えて、客の取り合いが激化していた。
結果、銀座のような客質の良い街にタクシーが行列を作り、客を拾うまで1時間も待つことになった。
ようやく順番が近づいた諸星は、自分が乗せるであろう客を見定めた。
『おおお!! 部長クラス!!
あーゆー世代は郊外に家がある上客だ!!』
だが列の前に並んでいた女性と部長クラスはペアで、二人で諸星の前のタクシーに乗って行ってしまった。
諸星が乗せたのは店の近くに住むホステスで、ワンメーターの稼ぎにしかならなかった。
諸星の仕事の仕方は運頼みで、やみくもに東京中の繁華街を回るだけだ。
稼げるドライバーは乗せた客を記録して乗車傾向を割り出し、長距離客が出現する時間とエリアを把握する。
今風に言えばマーケティング・リサーチだが、それをタクシードライバーはコンビニができる前からやっていた。
他にも自社が対応しているタクシーチケットを持った客を乗せるために、個人タクシーの後ろを走ったりする。
これは先行する個人タクシーに近距離が多い現金客を拾わせ、自分が長距離の多いチケット客を拾う確率を上げるためだ。
考えなく動く諸星は六本木・五反田・池袋を回るが空振りに終わり、なるべくなら避けたかった歌舞伎町に行くしかなかった。
歌舞伎町ではヤクザなのかフロント企業なのかよくわからない、こういう脂肉ばかり食べてそうなパワー系おじさんが、無駄に威嚇をしてくる。
歌舞伎町はこの世とあの世の境界線だから、何が起こるかわからない。
そんな混沌とした街だからこそ、たまに当たりの客が出る。
水商売の仕事の後にホストクラブで遊んだような、狛江に帰る女を乗せることができた。
狛江というのは東京23区の外にある杉並区の廉価版みたいな街で、そこに住む女も少し安っぽい。
新宿から狛江なら、残りのノルマである6千円を達成できる。
だが狛江に着くと、女は所持金が足りないと言う。
車載カメラが普及する前のタクシーでは、たまに艶っぽい出来事がある。
女は体で払うことをにおわせてホテルに誘うが、先輩ドライバーから美人局に注意するよう教えられていた諸星は、キッパリと断る。
常に敬語で対応する諸星は、紳士的な男に映る。
だがその人間の本質は、言葉よりも行動にあらわれる。
狛江の女に股間を撫でられながら「恥をかかせないで」と言われると、簡単に決意が折れる諸星。
『恥をかかせません。』(キリッ)
運賃の6千円をに帳消しにしてしまった上、ホテル代として売り上げ金の中から7千円を出してしまった。
ゴール直前で誘惑に負けて、マイナスを増やしてしまうのが諸星という男だ。
関連:ダメ人間の宇津井優一
他のタクシードライバーたち
今爺こと今井は競馬や女で借金を抱えて、大阪から東京に落ち延びてきたクチだ。
本来は大阪から落ち延びるなら和歌山だが、今井は人のぬくもりがなければ生きられないから、都市から都市に流れる。
東京では安いガールズバーにぬくもりを求めて、スマホを貢いだりして若いキャストにすがりついている。
このキャストとの出会いはタクシーの車内で、客として乗ってきた彼女が売り上げのコトで悩み、泣きだしたところを今井が慰めた。
水商売の女の涙など小便と同じ排泄物みたいなものだが、クサい涙も二人きりで流すと効果がてきめんだ。
彼女が自分だけに弱さをさらけ出してくれたと思った今井は、店に行って売り上げに貢献するようになる。
このように女は水を向けるだけで、男に自分の意志で助けたいと思わせる形が、水商売のテクニックとしては上策だ。
女が直接的に店通いをお願いする形だと、男はすぐに体の見返りを求めてくるが、庇護(ひご)欲を揺さぶる形であればカッコつけて体を求めてこない。
今井はそんな客の一人だが、彼女との関係について諸星に真剣に語る。
「俺はバカじゃない。
あの娘と本当の所で結ばれるとは思ってない。」
こんな風に物分かりの良いことを言っているが、こういう男ほど水商売の女に金を注ぐうちに、本気になってのめり込んでいくものだ。
それどころか単純に体を求めてくるよりも、もっと面倒な歳の差恋愛を期待するようになる。
水商売の女は冷静に太客の財布事情を見定め、パンク寸前まで金を使ったと思ったら、ややこしい事になる前に店から飛んでしまう。関連:ダニみたいな客
今井が金を使えば使うほど、彼女との別れが近づく仕組みだ。
彼は競馬で借金を抱えた時と同じく、無に帰すものに金をつぎ込んでいる。
失敗を経験して賢くなるのは元から賢い人間で、賢くない人は同じパターンの失敗を何度も繰り返す。
もし今井が賢かったら、水商売の女の理想が封筒に入れたお金を届けに来て、水も飲まずに帰ってくれる男だと分かるだろう。
関連:キャバ嬢の何が悪なのか?
低レベルな人間同士がツルむ理由
人は一緒にいても想定外の事が起こらない、同レベルの人間とツルむものだ。
諸星と今井は似た者同士だから、他のドライバー達より行動を共にすることが多い。
二人は金銭感覚や女性関係だけでなく、幼児性も似通っている。
一緒に借金を踏み倒し、ねずみ小僧のように闇金を懲らしめようと言って、ねずみの真似をする今井。
すぐにハッとして、諸星もねずみの真似をする。
こんなバカな二人がツルんでも何の強みも生まれないが、一緒に入れば自分だけがバカだと思わなくて済む。
成熟した男性は自我が確立されて一人を好むものだが、未熟なままだといつまでもツレを必要とする。
それは仲間などという健全な関係ではなく、何かあったら負債を押し付けるための相手に過ぎない。
もし彼らより大人の人格をした者が、仏心で低レベルなこの二人と付き合えば、必ず面倒を見させられるだろう。
だからタクシーの営業所長は、仕事以外では関わらないようにしている。
中年なのにおどけた男がいたら、社会人はうかつに近づくべきではない。
若いドライバー新庄
タクシードライバーの中には、自分の仕事を見下している者もいる。
新人ドライバーの新庄(新ちゃん)も、その一人だ。
自分がドライバーをやっていることが受け入れらないから、トガった態度で壁を作ろうとする。
だがドライバーの中には面倒見がイイのがいて、そんな若い人間の気持ちを汲み取って、宥めて輪の中に入れてくれる。
若くしてタクシー業界に入るのは珍しいが、新庄は既に所帯を持っていて、学歴不問の仕事の中では稼げるタクシーに乗るしかなかった。
彼は分不相応なミニバンに乗っていて、金銭管理のズサンさが伺われる。
マイルドヤンキーはミニバンを好むのが、崩壊した家庭で育ったがゆえに、車にはしっかりしたファミリーカーを求めるのかもしれない。
新庄は子供の頃に親が離婚をしていて、諸星に
「子供には俺と同じおもいさせたくないンです。」
と語っている。
だが語っているだけで実際の行動が伴っておらず、ローンを抱えているのに無駄な買い物をしてしまう。
新庄は崩壊した家庭で父性(責任感・規律)の人格を獲得できず、大黒柱としては頼りない。
借金が嫁にバレたら離婚されてしまうと言っていることから、以前にも金銭トラブルを起こしたことが伺える。
新庄の家族
新庄がドライバー仲間に嫁の写真を見せる。
写真は恐らく新庄が写したのであろうが、背景が高圧線の鉄塔というのが、彼の視野の狭さをあらわしている。
こういう男は将来性を見据えることもできず、目の前の楽しいことに飛びついてしまうから、じきに生活が貧窮するだろう。
そんな新庄を夫に選んでしまった嫁は、よく見ると幸が薄い女特有の余白が多い顔をしている。
彼女は普通の人より感情や表情が乏しく、苔(コケ)みたいで一緒にいても楽しくないタイプの女性だ。
幸が薄そうな人は、実家も恵まれていないことが多い。
彼女は男運が悪いのではなく、貧弱な家で育つ内に明るい選択肢が目に入らなくなったのだ。
不幸に慣れてしまった人は幸運が訪れても掴まず、馴染みのある貧乏くじの方を選ぶ習性があるので、彼女は新庄と結婚してしまったのだ。
そんな夫婦の家は、高圧線が密集していて誰も住みたくないような土地にある、中古とおぼしき一軒家だ。
イバラのような鉄塔に囲まれたマイホームが、二人の育った家庭環境を伺わせる。
子供は赤ん坊だけでなく少し大きい子もいるが、この子の写真も高圧線の鉄塔の根元で撮られている。
何が楽しくて高圧線のキケンを知らせる看板の前で撮るのだろうか?
新庄と同じ位置にあるホクロが、父親とまったく同じ人生を歩みそうなことを暗示している。
高圧線と健康被害の関連は明確に証明されていないが、嫌悪施設として避ける人が多いので不動産が若干安くなる。
特に子供に安全な環境を与えたいと思う親なら忌避する。詳しく:『人を見抜く方法』4-3 現住所から読み取れること
だが新庄は子供には安上がりな環境を与えて、自分はやりたいことをする。
まるで父親らしいことをできない新庄だが、こういう者ほど「愛してる」と口にする。
これは崩壊家庭で育つと家庭の参考が映画やドラマしかないためで、それっぽいセリフを言えば家族が成立すると思っている。
だから「愛してる」と口で言えば、新庄の中では家族を愛している事になっているのだ。
他にも元ヤンが「俺だけは味方だよ」「母さんの子で幸せでした」などのリアリティがないセリフを言うのも、フィクションの歌やドラマでしか家族の形を知らないからだ。
関連:凶悪な少年たち
他のドライバーに金貸しをしてる薄本(はくもと)
薄本は見た目の通り偏屈な男で、諸星らとは金を貸す時にしか関わらない。
偏屈な人間は最初から壁があったわけではなく、子供の頃はアスペルガーの類でコミュニケーションにズレを感じる程度だった。
彼らは悪意がないのに行動を注意されたり、他人の言うことが侮辱に聞こえたりして、心が傷つく経験を重ねていく。
そういった軋轢は中学・高校に進むにつれて大きくなり、彼らは自分を守るために普通の交流をしなくなっていく。
だが人間という種は社会の中でしか生きられないため、薄本はお金を仲立ちにして他人と関わるようになった。
お金は万人に共通の確かな価値基準だから、人の空気感が読めなくても注意されることはない。
ヴィーガンや環境問題の名を借りて他人に噛みつく者もいるが、根っこは薄本と同じで彼らなりのコミュニケーション手段なのだ。
金を仲立ちにした付き合いの良いところは、自分が貸す側であれば優位に立てることだ。
金を貸すためには原資を稼がなければならないので、薄本は偏屈でも出来るタクシーの仕事を選んだ。
タクシーは乗務に出れば一人の仕事で、サラリーマンのように煩わしい職場の人間関係がない。
薄本が同僚に金を貸す時の金利は月利は6%で、一般的な消費者金融の数倍の利率だ。
高利貸は客を集めるより回収するのが難しい仕事だが、薄本は独自のデータで客を選んでいる。
金貸しを長く続けるコツは、本当に困っている者には金を貸さないことだ。
リーダーシップのあるドライバー木村
ドライバーは曲者ばかりではなく、以前は一国一城の主だった人間もいる。
かつて建築会社の社長をやっていた木村は、他のドライバーのために稼ぎ方を教えたり、脱落しないよう面倒を見ている。
彼は不景気のあおりで自分の会社が倒産した時、社員を守れなかったことを悔いている。
最近の会社では昔カタギの父性的な人物は煙たがられるが、古いタクシー業界ではありがたい存在だ。
前出番とは
作中に出てくる『前出番』という用語は、前回の乗務という意味だ。
タクシーが乗務員の入れ替えをする際、会社に帰還したり車を清掃する時間が必要になる。
そのロスを減らして1台の車を最大限に使うため、1回の乗務が20時間くらいあるので、『出番』という覚悟がこもった言葉が使われる。
100kgのバーベルを1回持ち上げるより、50kgを2回持ち上げた方が楽なように、二日分の乗務を1回でこなすのは過酷だ。
諸星だけでなく、全てのドライバーはスーパータクシーと言える。
諸星を掘り下げる
諸星は中年の割に小綺麗だが、どこか人をイラッとさせる風体をしている。
それは諸星のイヤらしい下心が、41歳の体の全身から滲み出ているからだ。
彼が浅黒いのも女性に対して現役だからで、わざわざタクシー会社の屋上で日焼けをしている。
諸星は早朝の決まった時間に屋上に立ち、向かいのマンションの女性が窓を開けるのを待ち構えている。
この女性が毎朝7時頃に起床するのを把握していて、勝手にモーニング娘と名付けている。
女性が寝ざめにカーテンを開けると、そこには上半身裸の中年男がいるのだから気分が悪い。
こんな風に諸星は女性に這い寄り、生活の一部を侵食する気持ち悪さがある。
諸星の女性への妄想は、社内でも行われる。
一般的にタクシー会社の女性社員はマドンナ的な存在だが、諸星は事務所を通るたびに湿った目線を送っている。
そして脳内で自分の彼女にして、話しかけている。
(江美ちゃん‥‥‥
私のために今日もガンバって化粧をして来たンだね
ふふ……)
気持ち悪いが、こういった女性の日常に入り込むアプローチは一定の効果がある。
女性はウザいと思いつつも、諸星を日常の一部と認識してしまう。
そうなってから諸星がパッタリ姿を見せなくなると、女性は日常の一部が失われたような喪失感に襲われ、自分から諸星を探してしまう。
会社の向かいのマンションに住む女性が、屋上を見てつぶやく。
「あれ?
今日は黒いの(諸星)いないわね‥‥‥」
同じくタクシー会社の女性も、姿を見せない諸星の事が気になる。
(む――ん?
諸星来ないわね‥‥‥)
モテたい諸星
良くも悪くも女性の心に残りやすい諸星は、確実に何らかのフェロモンが出ている。
恐らくヤツメウナギの体から出る粘液のような、ヌルンとしたフェロモンだろう。
そういった体質は一朝一夕に仕上がるものではない。
寝る前のナイトルーティーンで、歯を磨きながら洗面台の鏡に向かって顔を作る諸星。
(笑顔! 目力!)
人は視線を感じることが刺激になるので、見られる仕事の上に顔の表情筋をよく動かす役者などは、年齢の割に若く見える。
鏡で自分を見ることでも視線の効果があり、それが諸星の見ための若さに繋がっている。
段々と自己陶酔がエスカレートして、最後は鏡に向かってポーズを決める。
(諸星信也は‥‥‥100万ボルツ
カッコイイ!!!)
黒くてニュルンとしたナマコ体形に目が行きがちだが、ここで見るべきは足元だ。
靴下に穴が開いてもそのまま履き続けて、指が突き出てしまっている。
成熟した大人なら他人に見えない部分でもキチッとするが、子供の諸星は適当だ。
幼稚な大人は資産形成や人生設計など、見えないところは何もやらない。
口説き方が古臭い諸星
今井と闇金で金を借りた諸星は、その足で一緒に安いガールズバーに行く。
諸星はキャストの女性の時計に興味があるフリをしつつ、手を取って自然に触る。
だが自然と思っているのは諸星だけで、キャストの女性はゾワッとしている。
そこから性感帯になりうる髪を触る。
これは諸星が青春時代に読んだであろう青年誌の、『女性のオトし方』を再現しているのだ。
おじさんの口説き方が気持ち悪い理由の一つに、こういった童貞雑誌の影響がある。
例え髪に触れるのが性的刺激になるとしても、おじさんのイモ虫みたいな指で触られたらゲボが出る。
諸星は更にエスカレートして、キャストをチークダンスに誘う。
『私と一緒に踊りませんか?
レッツチークダンシング!!』
チークダンスとは、男女が頬をくっつけるくらい密着して踊るダンスのことだ。
おじさんとのダンスなど電車で痴漢されるみたいなものだから、キャストは当然断る。
諸星の過去
諸星がムード歌謡の歌手みたいにねっとりとしているのは、20代の頃に小岩でホストをしていたからだ。
現代のホストは壊れかけの娘を完全に壊して、使える部分を叩き売るハゲタカファンドみたいなものだが、昔のホストは違う。
甘い歌声やチークダンスを駆使して、お金に余裕のある婦人に潤いを与えていた。
婦人と言ってもアフリカのデッカい蛙みたいなおばさんばかりだから、昔は客よりホストの方が病みやすかった。
諸星は客の一人にパトロンになってもらい、ホストクラブの経営をしたことがある。
経営と言うと聞こえはいいが、諸星がやっていたのはゴッコ遊びに過ぎず、大した事業をしてないユーチューバーが連呼する、『ビジネス』とか『経営』と同じくらいのレベルだ。
パトロンのおばさんが死ぬとすぐに資金難に陥り、店が潰れて借金を抱えた。
その債権(金を貸した側の権利)がヤクザに渡り、4年間ほど軟禁されてタダ働きさせられた。
諸星の腰が低いのは、下っ端のヤクザに毎日蹴られていたことが影響している。
諸星の従順さはタクシー会社でも見られる。
スーパーから無料の氷を持ってこようとする諸星を、父性の強い木村が一喝する。
「バカ!! みっともねェマネすンな!! お前はセコイ主婦か!?」
『すいません!! セコイ主婦じゃないです。』
諸星は叱れらた瞬間に頭が真っ白になるので、言われたことをオウム返しをする。
彼は相手の言葉を理解しているのではなく、幼い子供のように語気で話のニュアンスを判別している節がある。
41歳の彼の人生がトラブル続きなのは、こういった幼児性に起因する。
話を諸星の過去の仕事に戻す。
諸星はヤクザの若い衆の寮になっているアパートに住まわされ、昼間は布団や英会話の教材の飛び込み営業をさせられていた。
営業というより押し売りやペテンに近く、原価の数十倍の商材を売りつける仕事だった。
ヤクザの元から逃れた後も地方の催事場で偽ブランドみたいな時計を、言葉巧みに田舎の人に売りつけていた。
職を転々としている上に人との接触が多い仕事を選ぶ諸星は、人格気質の内のFC(自由な子供性)が高いことがわかる。詳しく:『人を見抜く方法』職歴の流れを読む
子供だから義務よりも享楽を優先する。
他に人格としてはCP(厳格な父性)が低い場合でも、職歴に一貫性がなく責任感がない人間になるが、諸星の生き方そのものだ。
そういう人間は冗談ばかり言って気さくに見えるが、社会規範が守れない。
だから諸星は出会い系で10代のコを買春している。
父性がないことのメリット
自由な子供の性質が高いメリットとして、容易に気分転換できることがあげられる。
子供の機嫌がショートケーキで直るように、買春のアポさえあれば諸星のストレスは解消できる。
大人はストレスがあると眉間にシワを寄せて問題解決に取り組むが、諸星は問題を忘れて、目の前の楽しみに意識を向けることができる。
先送りした問題は利子がついていつかツケを払わされるが、その前日までは楽しく過ごせる。
威圧感がない諸星
父性がないことのメリットは、人に威圧感を与えない事だ。
だからタクシーに乗ってきた女性客の方から、諸星に話しかける。
幼稚でお調子者の諸星は、同年代の男に比べて気安い印象を与える。
女性は大みそかに実家の長野に帰り、そのまま東京には戻らないのだと言う。
ちなみに長野県民は伸るか反るかの東京生活ではなく、地道にお金を貯めてフェードアウトするように故郷へ帰る。
「東京でいいコトひとつもなかったな‥‥‥
お金貯まったから長野で子供と一緒に
暮らすンだァ‥‥‥」
成功も破綻もしない地味さが長野県民らしい。
戻った後の生活は未定で、スーパーのレジ打ちでもしようかなと自嘲的に言う女性を、諸星らしく励ます。
『私も自分で自分を励ます毎日です。
ガンバリましょう!!』
父性が強い人の説教は押しつけがましいものだが、諸星は臆面もなく情けなさを出すので、心が少し弱った女性にはちょうど良い。
昔ホストをやっていた時にも、天真爛漫に見える子供性で女性の心に入り込んでいたのだろう。
それだけでなく幼稚な人格のメリットは、腹黒い本性を覆い隠してくれることだ。
5歳児がウソをついたり他の子のおもちゃを盗るように、諸星にも幼稚な人間なりの腹黒い面はある。
諸星の元嫁
父性がないからといって、父親になれないわけではない。
ただ諸星は父親の役割ができないから、子供がいたのに離婚をしてしまった。
彼の離婚は、結婚した時に決まっていた。
諸星のように中学生くらいのマインドで生きる男は、結婚相手を選ぶ時に女子高生みたいな女を選んでしまう。
元嫁は高校卒業してすぐに蒲田のキャバクラでホステスになり、そこで諸星と知り合って出来ちゃった婚をした。
偏見ではなく自由な選択で選ぶ職には、その人間の人格が反映される。
子供はラッキーアイテム
底辺層の人間は、ガシャポン感覚ですぐに子供を産んでしまう。
自分の限界を早めに悟る彼らは、子供を生めば人生が確変に突入すると思っている。
確変とは、パチンコで大当たりが出る確率が高くなるモードのことだ。
彼らは子供をラッキーアイテム代わりに生む割に、扱いは悪い。
関連:弱者の世界は子供に厳しい
元嫁は離婚問題でモメた時に、当時諸星が勤めていた会社に毎日30件の電話をかけていた。
別れそうな時に狂ったようになるのは、見捨てられる事を恐れる境界性人格障害の特徴だ。
境界性人格障害の者は常に疑心暗鬼の中で生きていて、身近な人にキレ倒す。
こういった人格から、嫁の子供時代の親子関係の不全が伺われる。詳しく:『人を見抜く方法』第八章 性格の病
家で面倒を見てもらえなかった子は、社会の誰かに甘える。
どんな客にも門戸を開いているコンビニは、彼らが甘える場所の一つだ。
こんな二人の特性を引き継いだ娘もまた、不安定な人格になっていく。
底辺層の人間はタイムリープをしているかと思うくらい、同じような毎日を何代にもわたって繰り返す。
諸星に父性が欠けている理由
諸星は子供時代と変わらぬまま、公営団地に母親と暮らしている。
彼が帰宅すると、母親が団地の婦人を集めてネットワークビジネス(マルチ)のミーティングを開いていた。
所得が少ない団地の人間ほど、こういった商法に騙されやすい。
彼らは社会人経験が乏しい上、お金の性質を理解していないので、念じれば収入が増えると思っている。
ネットワークビジネスはそんな心理を利用しているので、精神論を多用して儲かりそうな雰囲気を演出している。
自宅に父親の姿はなく、恐らく思春期の頃には母子で暮らしはじめ、近くに諸星の父性を発達させるような存在も居なかったのだろう。
子供の自主性に任せたら大体は楽な方を選ぶから、放任だと諸星みたいに堕落した大人になる。
(私、諸星信也は
高い所から低い所へ流されて行きます)
自宅には遺影のような物がないので、父親が居なくなったのは死別ではなく離婚の可能性が高い。
諸星が帰ってきた時のコマにある写真は、父親の遺影ではなくネットワークビジネスの会長の写真だ。これにも『信念』という精神論が入っている。
社会に価値を認められてこなかった人たちは、自分たちを褒めてくれるネットワークビジネスだけが拠り所になる。
だから会長が宗教の教祖のように崇められている。
母親はお金を生み出さないビジネスにハマり、諸星は子供を作らない買春にハマっている。
貧しい人は、何も生み出さないことを一生懸命にやる習性がある。
諸星の部屋
諸星の部屋は電気を消すと、夜光塗料の星形シールが浮かび上がる。
そのシールを並べて貼って、文字にしている。
ガンバレ☆
未来の信也☆☆☆
by 諸星信也
恐らく十代の頃に貼ったのであろうが、その頃から諸星は自作自演で男性アイドルグループ然としていたのだろう。
当時はモテていた可能性があるが、子供性の強い男の全盛期は早めに去り、中年になった諸星はガンバれていない。
彼らは好奇心と行動力が衰える中年期になると、人並みに出来ることが何もなくなる。
スーパータクシーとは?
この編の名前であるスーパータクシーの由来は、スペシャルな諸星が運転するタクシーという意味だろうか。
あるいは彼らがスーパーで買い物をして、店の前の休憩スペースで新人の歓迎会を開くからかもしれない。
この息が詰まるような生活感もまた、ウシジマくんを読むと窒息しそうになる理由だ。
人をイラつかせる諸星
同僚の今井と一緒に、ウシジマくんの闇金に金を借りに行く諸星だが、あやしい雑居ビルの雰囲気にビビる。
今井の方はみすぼらしい頭を隠すためにキャップを被っている。
子供みたいな恰好の人は、大人の社会で必要な感性が育っていない。
だから街中で釣りや野球のようなキャップを被っているおじさんは、うだつの上がらない者が多い。
対してウシジマくんは20代だが、1円単位の金でも面倒くさがらず回収するところからも、厳格な父性の人格が諸星より高い事がわかる。
服装がラフなのは金の回収作業を直接やっているからで、TPOとしては合っている。
諸星は41歳だが人の序列は人格によって決まるため、ウシジマくんの方が親の役割をさせられる。
ウシジマくんは諸星と今井が相保証をすれば金を貸すと言うが、耳慣れない単語に諸星が
『相保証?』と聞き返すと、ウシジマくんが説明する。
「互い(今井と諸星)が互いの保証人になるってコトだな。
分かった?」
デッカくて父性の強いウシジマくんに確認されると、子供の諸星は反射的に分かったフリをしてしまう。
『分かりました。』(キリッ)
諸星は分かってないのに分かったフリをして、賢いと思われようとする新社会人のようだ。
そういう者は即答で理解したと言う上にキリッとした顔まで作るので、しばらくは優秀な人物だと勘違いされる。
だがウシジマくんはそういう調子の良い者を何人も扱ってきたので、諸星のわかったフリを見破っている。
「分かってないでしょ?」(ジロ・・・)
諸星『分かってないです‥‥‥』
ウシジマ「どっち?」
諸星『どっちでしょう?‥‥‥』
この優柔不断さが大人をイラつかせる。
特に曖昧さを嫌う厳格なウシジマくんは、暖簾に腕押しみたいなやり取りを続けたくない。
そこで輪ゴムをつなげたものを諸星と今井にくわえさせて、相保証を説明する。
相保証は一方が返済不能になったら、もう一方が二人分の借金を返済しなければならない。
ウシジマくんはふいに今井の目を突き(!)、ビックリした今井が口を開けたために、輪ゴムが諸星の顔面を叩く。
現実的な痛みがないと諸星みたいな人間は保証人の重みを理解できないが、ウシジマくんのウサ晴らしもあるだろう。
軽妙で調子の良い諸星みたいな人間は傍から見てる分には楽しいが、関係性ができると大人の側に面倒をかけることがわかっている。
たとえ最終的に金を回収できるとしても、ウシジマくんは経験上、諸星みたいな人間から何度も子供じみた言い訳を聞かされるだろう。
この先もきっとイラつかされるから、金を貸す前からゴムで引っ叩いたのだ。
意地悪される諸星
諸星がトイレの個室で紙がない事に気づき、外のウシジマくんにお願いをしたら、意外な事に快諾してくれた。
「いいよ! ドアの前に置いといてやる!」
だが諸星が個室のドアを開けると、向かいの小便器の上にペーパーが置かれている。
ズボンを降ろしたままのマヌケな姿で、へこへことペーパーを取る諸星。
ヤクザの若い衆の家に住まわされていた時も、似たような扱いを受けていた。
諸星が意地悪されるのには理由がある。
諸星の行動の一つ一つは大した事がなくても、相手はちょっとずつ違和感が蓄積されていく。
それは低周波音をずっと聞かされているようなもので、諸星と一緒にいるとイライラさせられるので、仕返しをしたくなるのだ。
真面目な話の途中で、舌を鼻に付ける諸星。
諸星はパッと見で悪い人間に見えないが、サブリミナルで人の精神にダメージを与える人間だ。
父性に共感を覚えない諸星
グニャグニャの軟体動物みたいな諸星は、芯の通った父性的な行動に共感しない。
タクシー会社の木村が借金に追われる新人のために、貸しているウシジマくんの所に談判に行く。
違法な利息を責めて借金を帳消しにするよう迫る木村だが、そこはウシジマくんだから予防線が張られていて、問答になる。
木村は過去に建築会社の倒産という負けを経験しているが、生き物は負けを経験すると生存本能で、決定的な勝負を避けるようになる。
それが行き腰(押し)の弱さに繋がり、押し負けてしまう。
借金は帳消しにならず、新人のかわりに木村が利息を払えば10日間の返済猶予が得られることになったが、500円だけ足りない。
この小銭の金額さえ妥協しないのが厳格な父性を持った人間の特徴で、ウシジマくんはキッチリと回収する。
それもワザワザ木村に、息子が通う小学校の校門前で募金のお願いをさせる。
人は自分の人格と共通する相手にシンパシーを抱くので、ウシジマくんは木村の人間性が嫌いというわけではない。
だが警察沙汰にしようとした木村の行為は、明らかに敵対的で罰が必要だ。
人を躾けたり罰するのもまた、厳格な父性の特徴だ。
木村のようにリーダーシップのある人間にとって、恥辱は最も耐えがたい罰だ。
ウシジマくんは新人のために募金を募る木村の姿を、躾けのために諸星に見せた。
だが諸星は心の中で、木村が建築会社を倒産させて従業員を守れなかったトラウマを癒しているだけだと、冷めた目でみていた。
その様子を観察していたウシジマくんが、諸星にくぎを刺す。
「諸星。テメェーが飛んだら
あんなモンじゃすまねェーぞ!」
案の定、大人をイラつかせる
諸星がまだ返済を遅らせていない内から、強めの口調になるウシジマくん。
「テメェ、電話鳴ったらすぐ出ろよ!
明日の入金忘れンなよ!!」
闇金の債務者(借りた側)はあらゆる約束の概念があいまいだから、返済の期日も貸した側が管理しなくてはならない。
だが諸星は返済のお金が足りないから、利息だけ払って期日を延ばすジャンプをお願いした。
諸星の収入なら返済金が不足するはずがないので、ウシジマくんは理由を聞いた。
最初はヤボ用でお金を使ってしまったと言っていた諸星だが、追及されるとすぐに女に使ったと白状した。
ウシジマ「金ねーくせに
なにやってんだよ、てめェ!」
41歳の諸星のお金の管理まで、20代のウシジマくんがやらないといけないので面倒くさい。
さらに諸星はウダウダと愚にもつかない言い訳をするから、聞いてる方はイライラする。
諸星『いや、昨日地震ありましたよね。』
ウシジマ「だから?」
諸星『私、思ったンです。このまま大地震で死ぬなら
女の上で死にたいと‥‥‥』
こういう子供と話していると、大人はいちいちツッコミを入れないといけないから疲れる。
ウシジマ「お前がよくても相手がイヤだろ?」
いくら手間をかけて教育しても、41歳から人間性が変わることは殆どない。
大人になってから人格が変わる唯一のキッカケは子供の誕生だが、それでも諸星は変われなかったから、もう見込みはない。
父性が欠落したまま大人になった諸星は、12歳のマインドで生きている。
ゲームソフトを買う子供のように、週末に買う女の子を楽しみに人生の時間を消化している。
諸星はきっとこれからも、大人の世界で小突かれながら生きていく。