ギャル汚くん編より(4~5巻)
人は理解ができない存在を『サイコパス』と、ひとくくりにしてしまう。
反社会の中でもキ〇ガイと呼ばれる肉蝮も、理解を超える存在の一人だ。
そんな肉蝮の行動から、信じられないことをする人が生まれる理由を考察したい。
※実社会での例も織り交ぜています。不安定な方は読まないことを強くお勧めします。
とんでもないことをする肉蝮
まずはリミッターが外れた人間が、どういうことをするのかを見ていきたい。
男女のトラブルに顔を突っ込み、当事者に成り代わって男(尚也)を捕まえて、金を要求するために男の知り合いの小川純に電話をかける肉蝮。
「コノヤローが俺の女に
ひでーことしやがった。」
恐らく肉蝮の女ではないが、「俺の女」にすることで肉蝮が問題の当事者になれる。
反社が他人のトラブルに割って入るのは男気や親切心からではなく、金になるからだ。
ただ実際に男女トラブルがあったのは確かで、肉蝮に捕まっている尚也は法に触れない範囲で女にヒドイことをしている。
尚也は豚を盗んで解体して売りさばくベトナム人のように、渋谷界隈でナンパした娘を風俗や素人AVで金に換えていた。
尚也に狙われるのは、上京して親族が周りにいないような娘だ。
彼女たちは田舎のスクールカーストで二軍だった人生が、東京に出たら何か変わるんじゃないかという期待を持って上京する。
だからイケメンの尚也にナンパされたのは上京で自分の価値が上がったからだと思い、何の疑問も抱かずについていってしまう。
だが、ぬれ煎餅を乾かしてもビスケットにならないように、顔面偏差値45点の女はどこの都市でも45点だ。
むしろ顔面優等生がひしめく都会に出てきてしまったら、ますます進路を見失って尚也みたいな男に引っかかってしまう。
そんな尚也もまた、家族関係が希薄で困った時に助けてくれるような友人も少ない、弱い立場の男だ。
『尚也は自業自得じゃない? ってか自業自得でしょ。』
調子に乗ってヤカラの真似事をして女を食い物にした尚也は、アングラ界の敷居を跨いでしまったことになる。
そこでは群れから孤立した尚也のような人間は、食物連鎖のヒエラルキーの下位に組み込まれて、男であっても格好の餌食になる。
東京は好き勝手ができるように見えて社会から外れたことをすれば、否応なく闇の世界に引きずりこまれてしまう。
肉蝮は女の味方のようなスタンスで男女トラブルに割り込んだが、決して正義の存在ではなく、地元では100人斬りのレイプ魔として有名で、近所の娘を襲っている。
地元でひどい目にあった少女は渋谷・新宿に逃げるが、そこでもひどい目に遭う。
彼女たちはまるで、陸ではジャガーに追われ、川に逃げればワニに食われるカピバラという大型のネズミのようだ。
拷問メールマガジン
脅す時には相手が立ち止まって考えられないように、タイムリミットを設けて焦らせるのが効果的だ。
肉蝮は小川純に100万円を要求して、持ってくるまで1時間おきに尚也の拷問メールマガジンを送ることを予告した。
しかし1時間おきに送ると言っておきながら、予告の直後に引っこ抜いた歯の画像をメルマガのサンプル版として送って来た。
この分だとディアゴスティーニ(毎号集めて模型を組み立てる)みたいに最終号のメルマガを受けとる頃には、尚也の体はバラバラになっているだろう。
その道ではキ〇ガイと呼ばれている肉蝮
渋谷でイベントを主催する小川純みたいな人間には、ケツモチの人間がついている。
彼の場合は出身地の八王子の暴走族、石塚という男がケツモチだ。
実際はケツモチというよりも純にタカっているだけなので、石塚に問題解決をする能力はない。
それに八王子の人は渋谷にコンプレックスを持っているから、型落ちのセダンで渋谷に出ることは滅多にない。
相手の素性がわからないからとすっとぼけて、問題に関わろうとしない石塚。
『なら どーにも出来ねェよ!』
だが本当は純を脅迫しているのが肉蝮だと知っていて、ヤバすぎる相手だから逃げたのだ。
『ジュンはおしまいだ!』
八王子のヤンキーは、ある程度の年齢になったら家業を継いだり土建屋に入ることを考えていて、保険をかけた生き方をしている。
そんな彼らが自賠責保険さえ掛けていない肉蝮との衝突を恐れるのは当然だ。
肉蝮のことを界隈ではキ〇ガイと呼んで、絶対に関わらないようにしている。
一般社会とは真逆の価値観のアングラ界で「キ〇ガイ」と呼ばれることは、王者と呼ばれるに等しい。
どんな世界であっても頭一つ飛び出すには特別な才能が必要で、たとえ暴力であっても肉蝮の能力はズバ抜けている。
そんな肉蝮の突出した行動は、ADHD(注意欠陥/多動性障害)と反社会性人格障害が結びついたものの可能性がある。※諸説ある中で脳神経学と心理学を参考にした個人の見解です
ADHDの偉人
誤解されることが多いが、ADHDだからといって犯罪者になるわけではない。
例えばADHDのトーマス・エジソンは小学校を3カ月で退学になるが、家庭での教育で科学に興味を持ち、後に発明王になっている。
一方で理解のない親に育てられた場合、ADHDの子は単に問題行動を起こすと思われて、躾が繰り返される。
特に『言葉で注意しても聞かなかったら殴る』という親に育てられると、ADHDの子にしてみれば理不尽に殴られるのと変わらない。
学校においても思った事を口に出したりしてトラブルになるので、ADHDだと普通の子に比べて三倍もイジメを受けやすい。
家庭でも学校でも敵だらけの環境で、肉蝮の暴力性と反抗心は強化されていったと思われる。
反社会性人格障害 = サイコパス 補足
かつて19世紀の精神分析医が、「犯罪者になる者は生まれつき決まっていて、原始的な人類が隔世遺伝で先祖返りをした」と提唱したことがある。
骨相学を取り入れたこの説は20世紀に入ると否定されるが、近年になって生物学的な因子が再考されているので、肉蝮の原始的な顔つきも正確な描写かもしれない。
映画やドラマでは反社会性人格障害は横文字でサイコパスと呼ばれて、神秘的で知的な犯罪者に描かれることが多いが、実際は肉蝮のようなタイプもいる。
サイコパスは脳の中で恐怖や愛情などの情動を司る『扁桃体』の機能が弱く、MRIでサイコパスの脳は判定できると言われる。
だがサイコパスの脳をしていても優れた医者や経営者、あるいは英雄になる者もいる。
例えばプーチンが心酔するピョートル大帝は、若い頃に歯科治療の技術を学び、抜歯に喜びをおぼえて虫歯の部下を追い回したというエピソードがある。
肉蝮も昔のように暴力的な世界で生きていたら、英雄になっていた可能性がある。
肉蝮の母親
厳格な父親に躾で殴られたとしても優しい母親がいれば逃げ場はあるが、肉蝮のギザギザの歯を見る限り、家庭で母性が機能していたのかは疑わしい。
専業主婦であっても家事や育児が出来ない母親は、何らかの遺伝的な問題を抱えている可能性があり、それが子供に継がれると母子ともに問題行動が見られるようになる。
肉蝮の父親はそんな家庭から逃げずに、殴ってでも引っ張っていこうという責任感のある男だったのだろう。
こういった家族の組み合わせは実在の人物でも見られ、池田小事件の宅間守は子供の頃から落ち着きがなく、母性がない母親と体罰を加える厳格な父親のもとで育っている。
自分に害を与えた相手にはキッチリとカタをつける肉蝮の『責任感』は、父親の厳格な気質が引き継がれたものと思われる。
肉蝮も他のヤンキーのように母親がとっかえひっかえ男と付き合う家庭で育ったら、翻弄されたせいで芯がない男になっていただろう。
肉蝮の突出した暴力性
エジソンが科学に突出した才能をあらわしたように、肉蝮はずば抜けて暴力性が発達した。
尚也を風呂場に連れて行って、皮膚がデロデロになるまでシャワーの熱湯を浴びせて、悲鳴を電話で小川純に聞かせる。
人間は他人の痛みに共感する能力があるから、普通は残酷なことはできない。
だが脳の扁桃体(へんとうたい)の働きが弱い人間は、自分や他人の痛みにも鈍感だから、痛そうなことを平気でできる。
尋常ではない尚也の悲鳴に、小川純が安否を確認する。
『おい尚也!? 大丈夫か!?』
尚也に向けられた言葉に、肉蝮が割り込む。
「大丈夫。俺は全然熱くない」
暴力の怖さだけではなく、話が噛み合わなくてまるで道理が通じないこともまた、絶望的な恐怖をもたらす。
肉蝮の底知れない行動に恐れをなして、小川純は要求通り100万円を渡してしまう。
解放された尚也だが、泣きながら何度も純に警察に通報しないようお願いをする。
自由を奪われる監禁というのは、抵抗しても無力ということを強制的に学習させられて、解放されても逃げ出せなくなってしまう。
たとえ長期間の監禁でなくても歯を抜かれたり熱湯をかけられたり、自分の命を誰かに握られる経験をしたら心が砕けてしまう。
中途半端な暴力だと警察沙汰になるが、突き抜けた暴力は被害者の精神を破壊して、通報さえもできなくさせてしまう。
しつこい肉蝮
肉蝮のマムシたるゆえんは、獲物をしつこく追い回すねちっこさにある。
尚也の件で純との関わりが生まれて、今度は純を恐喝のターゲットに決めると、すぐに八王子の実家まで行く。
渋谷から八王子まで行くのは半日仕事になるので気乗りのしない距離だが、多動性の肉蝮のフットワークは軽い。
カメラで純の実家と一人暮らしをしている都心のマンションを撮影し、それを純に送って脅しをかける肉蝮。
そして前日に純から100万円を受け取ったばかりなのに、またも100万円を要求する。
肉蝮のお金への執着は実利のためでもあるが、精神が不安定な者は命の次に大事なお金を絆に感じて、被害者と密接なつながりを持ちたがる。
実際の恐喝事件でもズルズルと長引くことが多く、被害者が女性の場合は肉体も求められる。
例えば尼崎連続変死事件の角田美代子の弟は、スナックでホステスのバイトをしていた女子大生を脅して関係を持つと、彼女が故郷に戻って就職した後も金銭と肉体を求め続けた。
恐喝は彼女の勤務先の上司が異変に気付き、弁護士を介入させるまでの5年間続いた。
そのありさまはコモドドラゴンが獲物を噛み、毒が回って倒れるまで何日もつけまわす姿に似ている。
激しい怒りは被害感情から
純が反抗的なメールを送っただけで肉蝮は関係を切られたような気持ちになり、それが転じて激しい怒りになる。
理不尽なことで激怒する犯罪者たちの頭の中では、まず自分がひどいことをされたという被害感情があるので、復讐をしないと気が収まらなくなる。
被害感情が根っこにあるので、生意気なメールに対する罰としては釣り合わないくらい行動がエスカレートする。
「これ、100円だよ! すげーな100円ショップ!!
ジュンのためにさっき買ってきたんだわ!」
手土産にマカロンを買ってくる感覚で、純を切り刻むための包丁を持参する肉蝮。
「コイツでいろんなトコちょん切ってやろうと思ってなァ……
ニヒヒヒ・・・・・・」
自分がやられたことを仕返しする感覚だから、凶悪犯ほど反省をしない。
リズムゲームをする肉蝮
ヤクザくん編(33~36巻)より
機械をどつきまわすように、ゲームセンターでリズムゲームをする肉蝮。
彼がゲームをするのは意外に見えるが、ADHDやサイコパスは多幸感を感じる脳内物質が不足するので、それをゲームによって補おうとして依存症になりやすい側面がある。
特に音と光の洪水のようなリズムゲームにドハマりすることがあるので、肉蝮のゲーム好きは矛盾しない。
作曲家のモーツァルトは音楽の遺伝的才能にADHDでブーストがかかり、革新的な名曲を残している。
そういった一芸を持たないADHDの者は、単に変わった子と見られて孤立をしていくことが多い。
キレるポイントがわからない
敵だらけの中で暮らしている肉蝮は、何でもないことでも自分への脅威に感じてキレ散らかす。
一緒にラーメンを食べている加賀マサルに頼みごとをされると、遊んだ後の空気感を無視して激高する肉蝮。
加賀マサルは距離感が近づいたのを見計らって頼みごとをしたが、常に瞬間・瞬間の認識しかしない肉蝮には通用しない。
何でも悪意に受けとる肉蝮は、頼みごとを命令に感じて加賀マサルを引きずりまわす。
煽り運転をする者も似たような思考回路で、他の車の車線変更を自分への敵意に感じて、報復のために殺意を持って追いかけまわす。
彼らは殺るか・殺られるの思考だから、絶対に折れたりしない。
そんな肉蝮は相手が完全に屈服するまで安心できないので、加賀マサルに自分のモノを舐めるように迫る。
彼らはこうやって無理難題をふっかけて、相手を組み従わせないと信用できない。
この性質は人格のほとんどが疑心暗鬼で形成されているヤクザも同じで、彼らもまた無理難題を吹っかけて相手を試す。
彼らは人を揺さぶる心理術を学んだのではなく、精神病質だから子供がお母さんにまとわりつくように、自然と人を揺さぶる行動になるのだ。
加賀マサルが屈服したと見ると、肉蝮は一転して機嫌がよくなる。
常人には肉蝮の喜怒哀楽のスイッチがわからず、いつ暴れ出すかわからないゴリラの側にいるような不安な気持ちになる。
だから一度は屈服した者も、タイミングを見計らって肉蝮から逃げ出すことしか考えていない。
(なんだこいつ? こんな奴と組むの無理だな…)
こういった裏切りを何度も経験するので、肉蝮の人間不信は強化されていく。
肉蝮の愛情表現
全面的に屈服した加賀マサルのことが気に入った肉蝮だが、愛情表現も乱暴だ。
突然マサルをのど輪で壁に押し付ける。
そしておもむろに油性ペンを取り出すと、ライム(韻を踏んだ言葉)を送ると言って、顔面に日本語ラップみたいなものを書きなぐる。
親愛なるカガマサルくんへ
いつだって本気で精一杯
一生けん命 生きていこうよ
のど輪をして顔面に油性ペンで書くほどのものではないが、ADHDであれば言葉が洪水のように湧き上がり、それを出さずにはいられない。
普通の人であれば言葉が追いつかないラップバトルは、脳と口が直結しているかの如く言葉が出てくるADHDには得意分野だ。
人気ラッパーに遅刻や忘れ物をする者が多いのは、ADHDの特性によるものと思われる。
夜のコンビニ
24時間営業のコンビニは普通の人々が活動する日中の時間帯と、異世界の住人が活動する丑三つ時を結ぶ、オカルトスポットみたいな場所だ。
そこには昼間働く人間になり損ねたヤンキーが集まり、自分たちと同じ惨めな気分を味合わせるために一般人に絡む。
店に入ろうとするカップルに、ヤンキーがタバコを投げつける。
ヤンキーにちょっかいを出されるのは、テストステロン(男性ホルモン)が少なそうな、大人しい男性が多い。
野生種の人間ほど、ホルモンで相手の強さを感じ取る嗅覚がある。
そんなヤンキーがコンビニでとぐろを巻いているのは、居酒屋に入る金さえないからだ。
高校中退くらいで社会に出た彼らは、様々な職を経験して二十代前半くらいになる頃には、どの仕事も自分には出来ないという諦めが生まれる。
職業を土木作業員と自称していたとしても、どこかの建設会社に所属しているわけではなく、日雇いの形態で働かない日の方が多いくらいだろう。
タバコを投げつけても相手が反論しないと、弱い人間だと判断してヤンキーは更に強気に出る。
ヤンキーが一般人を脅して「ビビってんじゃねぇぞ!」と言うのは、強者に脅されてビビった過去の自分を一般人に投影しているからだ。
そして本当は過去の自分に言うべき「ビビってんじゃねぇぞ!」を、一般人にぶつけている。
これは『投影性同一視』という主に人格障害者にみられる心理で、自分が抱えきれない感情を他人に投影することで、心が安定する作用がある。
ヤンキーに対して、『本当は素直でいい子たち』と理解者ぶって言う大人がいるが、実際はドブネズミがいくつもの病原菌を持っているように、ヤンキーは人格障害や恐怖症を併せ持った不安定な子たちだ。
ヒドいことを言っているように聞こえるが、本人の病的な部分を見ないフリして「素直でいい子たち」と言う方が残酷だ。
彼らの認知の歪みを放置して普通の子と同じように扱えば、できないことが多すぎて余計に劣等感を抱えてしまう。
ヤンキー VS 肉蝮
コンビニの前でタムロしている二人組のヤンキーの内、1人が店内に入ったところで肉蝮がやって来て、いきなり金銭を要求した。
「金貸してくんねェー?」
ヤンキーの特技は動物的な感覚で彼我の強さを比較する能力だが、その必要がないくらい肉蝮との体格さはハッキリしている。
現代人は肉体的な強さ・弱さではなく道理で正しい側を決めるが、それを否定して弱い者には何をしてもいいと思っているヤンキーは、自分が強い者に狩られても文句は言えない。
さきほど一般人にタバコを投げつけたヤンキーだが、強そうな肉蝮には手を出さないで吠えるだけだ。
『こっちはツレがいンだぞ!?
クゥラァ!!』
ヤンキーは一人で立ち向かう勇気がないから、ツレがいることを強調する。
彼らがそんな5歳児くらいの勇気しか持ち合わせていないのは、複雑な家庭では5歳くらいで育児を切り上げられてしまい、精神的な成長が止まってしまうからだ。
半端なヤンキー同士の小競り合いで、やたら「このガキィ!」の応酬になるのは、子供のままで成長できないコンプレックスを互いに相手に投影しているからだ。
そんなヤンキーの幼少期を調べてみると父親が働かなかったり、そもそも存在していなかったり、あるいは母親がビッチなど、父性・母性が欠落した家庭ばかりだ。
幼児教育の初歩である食卓での教育も受けていないから、彼らの食事スタイルは地べたが基本だ。
精神が子供の彼らは、大人になる第一歩の就活に踏み出す勇気がなく、友達に誘われてたまに土木作業の真似事をするくらいだ。
先ほどタバコを投げつけられた普通に働く一般人の方が、よほど勇気がある。
長話が嫌いな肉蝮
コンビニ前で肉蝮と対峙しているヤンキーの亀田は、ツレがいるという脅しが肉蝮に効かないので、ヤクザの知り合いをチラつかせる。
『今から事務所に電話して、知り合いのヤクザ呼ぶからよ。
テメェ逃げンじゃねーゾォ‼? ウリャッ‼』
たとえヤクザの知り合いがいたとしても、夜のコンビニにデリヘル嬢のように呼び出されて、ホイホイ来るようなら相当にランクが低いヤクザだ。
そんなヤクザでも呼び出すと借りができて面倒なので、ヤンキーの亀田は『逃げンじゃねーゾォ』と言いながらも、本心ではここで肉蝮に逃げてほしい。
ウダウダ言うだけの亀田が面倒になった肉蝮は、箸袋に入ったつまようじを取り出して、亀田の目に突き刺した(!)。
内心恐怖で心臓がバクバクのヤンキーとサイコパスの肉蝮の違いは、心拍数の上がり方にある。
心拍数が上がりにくいサイコパスは、大抵のことに怖気づくことがない。
性行為に関してもサイコパスは普通のプレイでは心拍数が上がらないので、興奮を得るために最悪の場合は快楽殺人を行う。
肉蝮も近所の娘を襲う時には、アブノーマルな行為を求めていた。
『家が近所だったから、毎晩家にやって来て
お尻の穴犯されたんで、痛くて痛くて泣きそうでした。』
亀田の目玉を突き刺した時の肉蝮のテンションは、せいぜい一般人がたこ焼きにつまようじを刺した時と同じくらいだろう。
「今すぐ店内のATMで貯金全額おろしてこい!!」
不安定な家庭で育ったヤンキーは精神が脆いから、常識を超える恐怖を与えられるとすぐに服従をする。
悪ぶっていても母親の彼氏に小突き回されたような子は、裏社会でも肉蝮のような本物のキ〇ガイの前では噛ませ犬にしかなれない。
お金を巻き上げる肉蝮
目を刺された亀田はATMでお金をおろしつつも、店内で合流したもう一人のヤンキーに、知り合いのヤクザに電話するよう言う。
だがもう一人のヤンキーは肉蝮のことを知っていて、ヤクザさえも皮を剥がれて捨てられるという噂を語り、逆らわないように言う。
ヤクザは辛うじて社会の縁(へり)で生きているが、肉蝮は社会システムに発生した想定外のバグのような存在だから、ヤクザでさえ破壊してしまう。
亀田は肉蝮に服従して、オレオレ詐欺でもして貯めたであろう貯金を肉蝮に渡す。
『すみませんでした!
これで勘弁してください!!』
肉蝮は恐喝で派手に稼いでいるが、ADHDの人は衝動的に使ってしまうから貯金は殆どないと思われる。
お札にもなった野口英世もADHDと言われていて、彼は婚約者の持参金を使い込んだ挙句に婚約破棄をして、返済を友人に肩代わりさせたエピソードがある。
寂しい肉蝮
いろいろな感覚がバグった反社会性パーソナリティの人間でも、寂しいという感情は普通の人と同じようにある。
だから彼らは人間嫌いにはならず、逆に人の輪の中で犯罪を犯すことが多いのだ。
肉蝮は服従した亀田たちを気に入ってゲーセンに誘うが、一刻も早く逃げ出したい亀田は目の痛みをうったえる。
『病院行っていいすか? 病院行っていいすか?』
「駄目だ。亀田。だっふんだ。」
「駄目だ亀田」と言葉が出てきたら、頭の中から勝手に「だっふんだ」が浮かんで、それを吐き出さずにいられない思考回路をしている。
単に韻を踏んだ面白さではなく、目玉に楊枝が刺さった男が病院に行きたいと言っているのに、それを遮って「だっふんだ」で済ませてしまうところが面白いのだ。
肉蝮が面白いことをすぐに言えるのは頭の回転が速いのではなく、脳の中のチェックポイントがいくつか無いから、言葉が口をついて出てくるためだ。
瞬時に面白い話を組み立てられて頭の回転が速く見える芸人も、チェックポイントがないだけだから、投資詐欺にひっかかったりする。
電話に出てもらえないとキレる肉蝮
肉蝮は電話をして相手が出ないだけでも、裏切られたと感じて憤怒する。
これに似た症状は推しのホストに何十回も電話する常連客にも見られるが、彼女たちもまたパーソナリティに問題を抱えていることが多い。
ただ男の方が力がある分、怒りをあらわす手段が穏やかではない。
電話に出ない相手に、メッセージを送る肉蝮。
【なんで電話に出ないんだ?
聞く耳もたねーなら両耳ちぎって後ろ向きにつけて顔のデザイン変えてやる!
両耳の穴にボンド詰めて本格的に聞こえなくしてやる!
覚えておけよ! マイフレンド】
恐らく書いている内にヒートアップしたのだろう。
耳をちぎって後ろ向きにして、更にボンドを詰めるという発想は、常人ではなかなか思いつかない。
こういったユニークな発想を建設的な方向に使えばスキルになりえるが、肉蝮の反社会性パーソナリティがそれを許さない。
トラブルが絶えない肉蝮
野生種の人間は猿と同じように、目が合ったらトラブルになる。
猿は人間と目が合うとまず威嚇をして相手の強さを試し、相手がひるむと弱いと見て襲い掛かってくる。
猿だって命が惜しいから、弱そうな人間にしか牙をむかない。
だが肉蝮の場合は相手が強そうであろうと、自分に敵対する者へは敵意をむき出しにする。
強そうな相手に怖気づくのではなく、むしろ挑発的になるのはADHDの二次障害として存在する、『反抗挑戦性障害』というものだ。
得することがないのに教師や警官に突っかかる中高生がいるのは、反抗挑戦性障害だと思われる。
こういう性分だから肉蝮は争いが絶えない日々を送るが、暴力は作用・反作用の関係だから、肉蝮が強くなるほど相手からの報復も強くなる。
肉弾戦では敵なしになった肉蝮は、しまいには車で跳ね飛ばされるようになる。
親に暴力を振るわれて育った子は、生涯に渡って逃げ腰になるか、逆に肉蝮のように抗い続けるようになる。
いずれにしても過去にとらわれ続ける彼らの人生には、心が安らぐ時がない。