ヤミ金くん編より(18~20巻)
顔芸で威嚇をする、鰐戸(がくと)二郎。
人間がサルだった時代、言葉の代わりに顔の表情で感情を伝えた。
ヤンキーは威嚇や暴力など原始的な脳に頼る事が多いため、言葉よりも顔芸の表情が豊かだ。
彼らが運営する誠愛の家(ラブハウス)は、ホームレスを集めて共同生活をさせる施設だ。
中学英語をくっつけたような名前の施設は、大体が元ヤンキーが絡んでいる。
このラブハウスという風俗店みたいな名前の宿泊施設は、元ヤン鰐戸(がくと)3兄弟でやっている。
一度堕ちたら抜け出せない、弱者のアリジゴク誠愛の家とは。
鰐戸三兄弟のセコいシノギ
街でホームレスに優しく声をかける鰐戸(がくと)二郎。
元ヤンが少し優しさを出すと、そのギャップから印象が強く、元ヤン=良い人の構図ができやすい。
だが元ヤンの性質は成長過程で欠落したものがあるので、優しさもいびつな事が多い。
ましてや鰐戸二郎は改心した元ヤンではなく、何者にもなれなかったのでヤンキー時代を延長して生きているだけの半グレだ。
鰐戸二郎に声を掛けられたホームレスの男が車に乗ると、連れてこられたのは郊外のひと気がない場所。
「ちょっと駅から遠くって
古い建物だけどさ、
まー住めば都って言うでしょ?」
元ヤンは語彙力が少なく説得が苦手なので、すぐに使い古されたことわざに頼る。
何年も空き家で廃墟みたいな場所が、都になる事はない。
「とりあえず入居するのにさ、
前金で家賃2か月分。」
遠くまで連れてきて帰れなくしてから、家賃の説明に入る。
高度な交渉術でも何でもない。
ただ山奥へ連れてきて、足元を見て金を吹っ掛けているだけだ。
こんな手口は、元ヤンより鈍い弱者以外には通用しない。
当然、ホームレスの男はお金を持っていない。
そこで金融屋と称して鰐戸二郎の兄、一(はじめ)が登場する。
10万円を月3割でホームレスに貸しつける。
3割もの利息と元本を返すアテはないのに、ホームレスは金を借りて誠愛の家に入ってしまう。
意志が弱いので先々に続く地獄よりも、目の前の楽しか目に入らない。
誠愛の家に入居する
誠愛の家は一部屋4人の相部屋だ。
つい音を立ててしまうと、先に住んでいる室長の榊原が一喝する。
「音には気を付けろ!!新入り!!
俺は”誠愛の家”三号室、室長榊原だ!!」
底辺界の住人ほど、他人に優しくない。
弱者は更に弱者を虐げる。
廃屋のような所でも、室長という肩書をもらうと権力者になったと勘違いする。
榊原がそういう人間なのは、経歴を見てもわかるだろう。⇒『人を見抜く方法』第四章 経歴によって人を見抜く
鰐戸達だけでは住人を管理できないので、住人同士で監視させるように室長を置いている。
室長には特権があり、近所に店がない誠愛の家で、他の住人にカップメンなどを販売して良いことになっている。
助け合いの精神は無く、市価の3倍くらいで売りつける。
こんなセコい特権でも、待遇に差をつけてやれば底辺の人間の管理には役に立つ。
底辺心理を知り尽くした人間のやり口だ。
鰐戸兄弟と滑皮の違い
誠愛の家には冷蔵庫があるが、住人達はダメ人間の集まりなので、ゴミ捨て場のような状態だ。
家の中の全てが汚く、和式便器のトイレは地獄の釜みたいにおぞましい。
誠愛の家では仕事も斡旋していて、通勤のために駅まで車で送迎もしてくれる。
ただし、その合間合間で鰐戸に金をつままれる。
車は駅まで片道450円だ。
徒歩だと山道なので50分はかかるので、車に乗るしかない。
誠愛の家が用意する仕事は、まるでピラミッド造りのような過酷な労働ばかりだ。
作業をすると、身体が動かせなくなるほどハードだ。
少し楽そうにみえる作業も、注射針など危険な医療廃棄物を扱う仕事だ。
そんな時も軍手しか支給されないので、運が悪いと何かに感染する。
人権は誠愛の家に入る時に、借金のカタとして取られてしまっている。
労働現場の休憩時間にも搾取は行われる。
近くに店がない現場で、“誠愛弁当”が販売される。
レトルトカレーに処分品48円の値札が貼られたままなのに、レトルトごはんと生たまご付きで600円とられる。
しかも電子レンジの温めなしで、ボソボソのごはんをそのまま食べさせられる。
底辺は嫌な事から逃げる割に、奥地で作戦行動中の特殊部隊みたいな食事でも耐えられる。
室長の榊原が張り切って説明する。
「まず
ごはんの真ん中を開けてドテを作るべし!!
そしたらカレーがあふれないぞ!!」
バカみたいな事を偉そうに説明する。
こうして色々とお金を取られた上に、日給もピンハネされてわずか二千円。
こんな給料で月に3割の利息に、元金まで返すのはホームレスには無理だ。
おまけに彼らは一般人よりも我慢がきかないから、鰐戸が用意する薄汚い商売女を買ってしまい、借金は一向に減らない。
誠愛の家に入った時点で、奴隷の人生が確定している。
どうしてこんな恐怖の家に、人が吸い寄せられるのか?
正確には吸い寄せられているのではなく、自らワナにはまり込んでいく。
ダメ人間の行動はパターン化していて、ワナを仕掛けておく場所が読みやすい。
誠愛の家の住人の一人が、チョコレートをもらってムシャムシャ食べながら
「いいか?
ダメ人間には感謝のスイッチが入ってねェーンだ!!
チョコの礼も言わねーぞ!!」
と悪態をつく。
基本的に感謝や他者の利益を考えられないから、相互扶助の一般社会からつまはじきにされてしまう。
そうなっても反省して社会に戻ろうとしないで、低い方に流れていく。
選択肢がある度に惰性で下流を選ぶ。
鰐戸のような人間は、そこにワナを仕掛けておけば奴隷を捕まえる事ができる。
鰐戸が弱者の考えを読めるのは、鰐戸も弱者の側の人間だからだ。
地元が同じだった滑皮ほど頭が切れないので、弱者を相手にセコセコとピンハネ稼業をしている。
車や家の手配をしてせわしなく動いているのに、滑皮やウシジマくんとは稼ぎが違いすぎる。
結局は絶対権力者のように見えても、鰐戸兄弟は誠愛の家の住人と変わらない。
惰性でヤンキーを続けるような人間は、悪事を働いてもセコい真似しかできない。