ウシジマくん編より(39~46巻)
アパレルの事業で成功した吉澤。
彼がどんなに成功しても、働く人たちから『道化者』と軽んじられるのは何故か?
口ひげを生やしても不潔感が漂い、経営論を言えば笑われる。
金をひけらかせばお菓子を奢って同級生に構ってもらう子供みたいに、裏では余計にバカにされる。
彼は人の上に立つ人間ではなく、集団行動ができない衝動的な子なのだ。
道化の吉澤が成功した理由
ビジネスは他に先んじて行動し、先行者利益を独占する事で大もうけできる。
特にアパレルやITは、若さと好奇心でリードが取れる分野だ。
『ビッチの子』とプリントされたシャツを着て、クラブのイベントで現金をばらまく吉澤。
吉澤の親が見たら卒倒しそうな行動だが、彼は衝動が抑えられないのだ。
しかしこの“衝動が抑えられない”というのが、吉澤の成功のキーワードだ。
普通の人がリスク計算してちゅうちょする所を、吉澤はすぐに動き始めるので他者をリードできる。
原始時代だったら吉澤は安全確認しないで森に駆け出し、食料を独り占めするか、肉食動物に喰われるかの二択のタイプだ。
確かに吉澤は成功しているが運の要素も強く、彼と似たようなタイプの人間はバーやライブハウス経営で失敗して、ごく一部の成功者の裏に屍の山を築いているだろう。
成功しても尊敬はされない
人の上に立つに値しない思慮の浅さが、働く大人たちに背を向けられる要因になっている。
吉澤は誰にも慕われないコンプレックスからお金をばら撒き、他人を意のままに動かす事に興奮する。
もし吉澤がSNSをやっていたら
『リツイートで100万円』
の下品な企画をやっていただろう。
だがそうして集めたフォロワーたちも、吉澤の金が無くなったら離れていくだけでなく、内心は嫌っていたためションベンをひっかけるように
『さまぁw』とツイートするだろう。
そんな、お金で集めたトモダチしか作れないのが吉澤。
単なるアホではない吉澤
吉澤は単に衝動を抑えられないだけでなく、論理性も発達している。
おそらく学歴は偏差値の高い高校卒か、遊び過ぎて大学中退でもしているだろう。
彼は論理性が発達しているが、それよりも強い衝動性があるのでアホに見えるだけだ。
吉澤の共同経営者も、吉澤の事を認めている。
「よっちゃん(吉澤)がいなければ
うちのブランドは埋もれてたよ。」
吉澤はキャバクラ遊びの中で、キャバクラの人気嬢をショップ店員にする事を思いつく。
吉澤は行動経済学を研究したのではなく、電気ショックのようにインスピレーションがわく。
共同経営者の分析では
「彼女達は相手の心を掴む会話が上手いし
華がある。
メイクや着こなしに憧れた女子高生が店に押し寄せて来た。」
吉澤がアパレルとキャバ嬢の相乗効果を見つけられたのは、点と点をつなげる論理性が高いからだ。
爆発的な行動力を適度な論理性で補うという、絶妙なバランスでビジネスを成功させた。
もし論理性だけが高かったら、ウダウダ考えるだけで行動をしないで終わっているだろう。
人生には一定期間、スタートアップに最適な人格的バランスの黄金期がある。
吉澤が皆の前に立ちたい理由
こうして稼いだ吉澤は高級品や女を見せびらかし、リスク計算をして無難に生きる小市民を煽る。
吉澤の行動を支持するのは、若者世代だ。
若者はいつの時代も古い物を壊して、自分たちに合った社会に再構築をしたがる。
吉澤は沢山のわき役に囲まれ、いつまでも自分が主役の劇を演じたいと思っている。
彼自身は気付いていないが、本当になりたいのは経営者ではなくアイドルなのだ。
これが、働く人々が『経営者』の吉澤に違和感をおぼえる理由だ。
吉澤は人の上に立つ人間ではなく、人前に立ちたい人間である。
だから吉澤が語る経営論は、ヤレそうな女の見抜き方と同じくらい中身が軽薄で、ビジネスマンの参考にならない。
女遊びが働く理由
吉澤の価値基準は女遊びの影響が大きい。
共同経営者が、ワリと真面目なトーンで吉澤に好きなものを聞くと
「女の匂いかな?
特に風俗嬢のセッケンとうがい薬と
消毒液が混ざった匂いが好きだ。」
「あと 自分自身を見つめなおすのに、
ソープでローションまみれになりながら
自問自答してる時も好き。
なんで!?」
普通、利口な人はバカな部分を隠そうとする。
だが吉澤はストッパーというものがないので、バカも利口も両方が出てくる。
だから失言で顧客の信用を失うことが多い。
行き詰まりを感じる共同経営者に
「ならソープのマットプレイ試せ。
新しいこと始めようぜ!!?」
と本気で言う。
彼のビジネスの意欲は、性欲に他ならない。
彼が生き急ぐように働く姿は、自慰行為を覚えた男子中学生が早く家でやりたいがために、放課後の掃除を頑張ってる姿と同じで素直に賞賛できない。
これがカリスマ経営者と吉澤の違いで、いくら稼いでも人に慕われない。
衰える感性
吉澤の共同経営者が新たな才能の発掘で、デザイン志望の新木に会った。
新木はアメカジを深堀してたらキューバに辿り着いて滞在をしていたという、”物語”を持った男だ。
「学生時代は気に入ったビンテージの服を
海外の古着屋で買い漁って、
片っ端から服をバラバラに分解して
縫製を研究していました。」
新木は服を作るのが好きで、吉澤のように服を儲けのツールとして好きというのとは違う。
新木はアメカジを探求し、無名のデザイナー達のこだわりを感じとって、自分もこんな服を生み出したいと言う。
共同経営者は、新木に好きな服を作らせる気になっていた。
吉澤もトガった感性で成功したはずだが、
「新木の奴いちいちアーチスト気取りでウザくない?」
と言う。
大きくなった自分たちのブランドにトンがったデザイナーは必要なく、優れたパタンナー(デザイン画から、現実的な型を作る)がいればいいと。
「半歩先くらいが丁度いいンだ。
行きすぎるのも取り残されるのもダメッ!!」
保守的になった先にあるのはユニクロとの競争だが、スケールメリットの差があるから勝てないだろう。
新木という才能を吉澤が拒んだのは、彼の感性が衰えたからだ。
完全に力でボスが決まる野生動物と違い、進化した人間は権力を使うようになった。
衰えた権力者は地位を使い、若い才能を抑えつけて保身を図る。
吉澤は他の者が主役になるのを許さず、いつまでも自分が主役でいようとする。
これが老害が発生するメカニズムだ。
吉澤は惰性で消耗品を作って、しばらくは経営者を続けられるだろうが、実質的には終わっている。
転落していく吉澤
吉澤のように衝動が抑えられない男は、女に対しても歯止めがきかない。
特に才能が枯れてくると、穴埋めのために女に承認欲求を求める。
「よっちゃん
私のおしっこ飲まない?」
こんな女にひっかかる吉澤。
六本木近辺では何でもやる女が溢れていて、この女はションベンのビールサーバーみたいな事までする。
ウソかホントか知らないが、六本木を歩く女の乳首にはヒ素が塗ってあって、吸った男は確実に死ぬと言われている。
実際に死ななくても社会的に死ぬくらい、六本木の女は毒性が強い。
暴対法以降、反社は力押しで恐怖を与えるプッシュ型の恐喝より、金持ちを違法行為をさせるプル型の恐喝を好むようになった。
六本木などに犯罪のアンテナショップみたいなバーを作り、網にかかった金持ちからむしり取る手口だ。
客の金持ちに友達のように近づき、女をあてがうのだと半グレは言う。
「裸で抱き合う写真や、
ダメ押しでキメセクしてる動画盗撮して脅せば
いい金になる。」
ちなみに反社にとって女はポ〇モンみたいなもので、シノギに応じて呼び出される。
だから反社の男の何割かは、普段ポ〇モントレーナーみたいな事をしている。
そんな事をしながら反社の男女とも大体、40代くらいで人生が終わっていく。
吉澤の共同経営者は吉澤が危ない遊びをしないよう、わざわざバーを買って使わせていたのに、それでも反社が囲ってるセクシー女優に嵌められてしまう。
キメセク写真を撮られ、1億円を請求される。
面白そうな事にとりあえず突っ込んで成功してきた吉澤は、
女にも勢いそのままに突っ込んで転げ落ちていく。
守りに弱い吉澤
吉澤を脅している半グレの獅子谷に、1億円の進捗状況を聞かれる。
ジャケットにキャップという崩しの上級ファッションが、人の神経を逆なでする。
吉澤は会社にお金を出してもらうため、共同経営者と相談中なのだと説明する。
ヤクザより寿命の短い半グレは、ルール無用だから吉澤の家族など、ソフトターゲットを狙う事を躊躇しない。
たっぷり脅された後、一人で帰る吉澤。
「ヤバイヤバイ ヤバイヤバイ
どうしよ どうしよ!」
吉澤は普段、普通の人々が自分で抱えられるリスクの範囲で行動するのを
『臆病で何事も成せない』
とバカにしてきた。
こんな風に攻めのみの思考で成功してきた吉澤は、一度問題が起こると守りの行動がとれない。
例えるなら鎧を着ないで剣だけ持つ兵士のようなもので、バランスが悪くて長生きできない。
重傷を恐れて致命傷を負う吉澤
多動の吉澤は追い詰められた小動物みたいに、駆けずり回れば状況が変えられると考える。
それで考えたのが、ヤクザに相談すること。
「で? 相談って何?」
リスク計算の習慣がない吉澤は、ヤクザへの依頼が破滅だとわかっていない。
「輩(やから)に恐喝されてまして…
どうにも困っています。」
突き進む事で成功してきた吉澤は、ヤクザの胸に飛び込んでしまう。
そこでヤクザ特有の茶番劇で主導権を握られ、吉澤が半グレの殺害をヤクザに依頼した形にされてしまう。
「これから長い付き合いになるんだ。
よろしくお願いしますよ。
しかし専務(吉澤)も思い切った人だ。
ヤクザに人殺しを頼むとはねぇ…」
いわゆる、カタにはめられるというやつだ。
分別のある大人の静止を聞かないで突き進んできた吉澤のような男は、この世の行き止まりのヤクザによって、ようやく暴走がストップする。
引き返せないところまできて、ようやく凹んで一人ブランコにたたずむ吉澤。
だが吉澤の多動の脳は、反省をしないスキルが抜群に優れている。
この窮地の中で共同経営者に金を出してもらうため、ネットで服を売るシステムを説明する。
追い詰められたネズミのように、最後に残っていたひらめきにより、当たりをひねり出す事ができた。
ここが単なるバカと吉澤の違いだ。
だが感性というのは、年齢に大きく左右される。
モスキート音という、若者にしか聞くことができない周波数の音があるように、感性にも年齢制限がある。
ベンチャー経営者が落ちぶれる理由
吉澤のアイディアは服をネット販売するまでが最後で、以降はズレたものしか出てこない。
保身に走る吉澤の姿は、アイディアマンとしての寿命の終わりを告げている。
感性が枯れる前に次の人間にバトンタッチをしていれば良かったのに、吉澤は自分が主役になる事に拘って、若者を否定する老害になった。
感覚型の経営者の場合、35歳で転換点を迎えて、上手く働き方をシフトできないと40代で退場する。
ピークが過ぎた吉澤は、資産の目減りにしたがって取り巻きも離れていくだろう。
落ちぶれていく栄枯盛衰の様は、いつの世も人々にうけるコンテンツだ。
吉澤を見て普通に働く人々は、薄給でもコツコツ働く生き方は正しいのだと、平穏な自分の人生を慰める。
人類に吉澤タイプがいる理由
人々は、吉澤のような人間に感謝すべきだ。
太古の食糧難の時代、彼のようなタイプが真っ先に怪しいキノコを食べてくれたおかげで、食べられるキノコの種類が増えていった。
吉澤タイプは当時から死ぬか・先行者利益独占かに興奮するタイプで、結構犠牲者を出していた。
人類が生息域を広げる時も吉澤タイプが真っ先に冒険をして、森に入って肉食獣に喰われていた。
今日もウカツな吉澤がヤクザに喰われてくれるおかげで、我々は六本木が足を踏み入れてはいけない場所だと知る事ができる。
ありがとう吉澤。そしてさようなら。