洗脳くん編より(26~28巻)
受身の女は文句を言わないし、扱いは楽だ。
しかし表に出さないだけで、しっかりと恨みを溜めている。
受身の女は恨みを溜める 上原まゆみ
土曜日に会社で仕事をしていると、母親から電話がかかってくる。
「あんた今年で28歳でしょ?
妹に先こされて~
早くいい人 見つけなさいよ。」
と電話をする。
こういう電話は、まゆみのためを思ってのものではない。
まゆみのためなら、妹を引き合いに出して比較はしない。
『早くいい人 見つけなさいよ』と言うだけで、別に具体的なアドバイスはしない。
専業主婦で社会とのかかわりが薄い母親は、上段から説教できる相手に飢えている。
電話の中で父親も引き合いに出す母親。
「お父さんも心配してるのよ。」
「お父さんの心配は私じゃなくて世間体でしょ?」
「え?」
「なんでもない。」
なんでもないと言って、意見を引っ込めるまゆみ。
最初の子だから、親が過剰な期待をかけて抑圧したので、受け身になってしまう。
その分、妹の上原みゆきへの圧力がなかったので、こんな風に育つ。
だらしないだけでなく、隠れてガールズバーで働くなど、行動力があって倫理観が乏しい。
だから無自覚にトラブルを起こしては、しっかり者のまゆみに依存をする。
職場の上司である、結婚できない37歳の女性編集長の存在もまゆみを追い込む。
同僚は言う。
「林編集長は年収と学歴にこだわらないで
47歳くらいの男 探さなきゃダメでしょ。
現実見なきゃ。」
生活力のない彼氏ハシくん
まゆみにも彼氏がいるが、付き合う理由も主体性が乏しく、『何となく見た目が良い』という理由に過ぎない。
受身の女は、他人の世話になる事が怖くてできない。
だから無意識の内に、自分を世話してくれないような男を選んでしまう。
つまり、ダメ男だ。
「明日のバイト休みてぇ。つーか辞めてえ。」
まゆみの彼氏は、20代後半でバイトを辞めるかどうか言うような男。
わずか数百円の食事も、まゆみに奢ってとねだる。
「だって俺の倍
稼いでるじゃんかァー」
それでこの表情。何も言わない。
無意識の内にダメ男を選んでしまうが、納得はしていないので葛藤が生まれる。
その葛藤を彼氏に伝えれば、しっかり就職してもらうとか建設的な関係になれる。
だがまゆみは抑圧されて、自分の意見を言えないように育ってしまった。
仕事は雑誌の編集者だが、これも情報を発信しているようで、その実は読者の顔色を窺って形にしている受身の仕事だ。
趣味はスケボーのハシくん
生活力のないハシくんは、いい歳をしてまだスケボーをしている。
まゆみと一緒にいるのに、自分の遊びを優先する。
「俺はもう少し滑ってたいンだけど。」
スケボーをされる側の置いてけぼり感などお構いなしだ。
階段の手すりを滑り下りるハシくん。
この『ズジャーッ』『ザザッ』というのは、スケボーをやらない人にとって何が面白いのかわからない。
それを繰り返し見せられるまゆみさん。
ハシくんにとって、まゆみさんは都合がいい女でしかない。
受身の女の口癖はすみません
受身の女は、身近な人に思い切って相談をする事ができない。
自分よりも相手を優先するので、相談された側の負担を気にして頼る事ができない。
結果、占い師(スピリクチュアル)の先生という、お金が必要な相手に薄暗い部屋から電話で話す。
「自分が選んできたものが
本当に心から望んだものか自信がないんです・・・」
常に周囲の目を意識して、自分の意志より他人の考えを優先した結果、溜まったモヤモヤが顕在化してくる。
まゆみは相談で話す度に
「すみません こんな話…」
とつける。
恐らく人にぶつかられても、まゆみから謝るだろう。
まゆみにはデキの悪い妹、みゆきがいるのだが、そんなダメな妹にも劣等感を抱く。
「妹はこんな私を冷ややかに見てたかも…
ふわふわしてるコだけど決断力は私よりあるし。」
妹みゆきは決断力があるのではなくて、考えられないので行き当たりばったりの行動しかとれないのだが。
劣等感から身の回りの人を避けてしまい、どんどん占い師に傾倒していく。
占い師はすかさず、まゆみに数珠を売りつける。
「これ、新しい数珠。
まゆみさんの為に作ってきたわ。」
占い師たちが扱う商品は、原価がわかりにくくて売値が高額なものばかりだ。
大抵は『売る』とは言わないで、『わける』とか、『作ってきた』と言って商売感をごまかす。
腕に巻く数珠が増えて、満たされた表情のまゆみ。
災難はいつも他人から
常に他人の意思を尊重するまゆみは、我慢をするからトラブルを起こすことなく生きている。
節制して生きているのに、
トラブルがない=気楽に生きている
と思われて、他人が依存してくる。
短絡的な妹のみゆきが電話をかけてくる。
「旦那のカズヤくんが私の知り合いを突き飛ばしちゃったのォ~~!!」
間延びした喋り方がバカっぽいみゆきらしい。
トラブルの原因もみゆきで、結婚しているのに働いているガールズバーの客に、旦那が手を出したのだ。
客の男が警察沙汰にすると言っている面倒な状況を、まゆみに押し付けようとする。
「警察行くのやめるように
おねェーちゃん説得してよ!!」
「無理無理。
私が行ってなんになるのよ?」
「お願い!!
お姉ちゃん頭いいし、法律とかにも詳しそーじゃん!!
助けてよ!!」
勉強して努力をして、自己完結できる人ほど、他人の重荷を背負いこまされる。
妹のみゆきは楽して楽しんで、好き勝手に行動をして発生する問題を、他人に背負わせる。
こんな理不尽な状況が、まゆみを占い師に傾倒させて、奇行に走らせていく。