洗脳くん編より(26~28巻)
ウシジマくんに出てくる債務者たちの中には珍しく、良い大学を出て出版社の編集部に勤めている。
占いが好きなのは、圧倒的に女が多い。
女は自分の感情に寄り添ってしゃべりかけてくれる占いが大好きだ。
だが悪意のある占い師にとって、迷いがあり自分から占い師の元へ飛び込んでくる女ほど騙しやすい相手はいない。
占いに騙される女、上原まゆみ
同じ出版社に勤める友人に、まゆみが手首につけている数珠について聞かれる。
「まゆみん。その数珠みたいの何?」
「たまにみてもらってる先生に強い石を分けてもらったの。」
数珠の事を『石』というあたり、まゆみが普通の人よりもそれ系のモノにのめりこんでいる事をうかがわせる。
それに『先生』というのも、何の先生なのか曖昧だ。
友人も気になって
「え?占い師か何かの先生?」
「占いってゆーか…
まぁ、そんな感じ?」
と、濁した。
上原まゆみは他人がどう考えるに敏感なので、自分の事をさらけ出したりしない。
本当はスピリクチュアルの先生なのだが、友人に説明したら怪訝に思われそうだから、当たり障りのない占い師という事にした。
スピリクチュアルは実際占い師のようなものだが、占いがメジャーになり過ぎて神秘性が失われてきたので、商売のために看板をスピリクチュアルに変えた。
こういった界隈が目新しい横文字を多用するのは、マルチ商法と同じく演出のためだ。
数珠を5万円で買っている事から、上原まゆみの入れ込み具合が伺える。
趣味は『パワースポット巡り』の危うさ
上原まゆみの趣味は、一人でパワースポットを巡ることだ。
「やっぱここ パワースポットだわ~
気を感じる。仕事でたまった悪い気がきれーになる感じ」
雰囲気にのまれて、目に見えない”気”を受けて浄化までされたと思いこむ。
こういう所に流されやすいまゆみの押しの弱さが出ている。
うさん臭い占い師の用語
まゆみが夜中に電話をすると占い師(スピリクチュアルカウンセラー)は
「なんとなく今夜
まゆみさんから連絡がある気がしてたの。
ちょうど今、まゆみさんの事
考えていたところなの。」
と言う。
全部後付けなのだが、占い師はこういうテクニックを使い不思議な力の演出に余念がない。
まゆみのような女は、自分を中心に話をしてくれる占い師に心を開く。
そういう下地を作ってから占い師は
「まゆみさんのインナーチャイルドが泣いてるのが見えるわ。」
と言う。
インナーチャイルドとは元々は心理学の概念だったのが、スピリクチュアルで使いやすいので取り入れられた言葉だ。
まゆみの中に住む子供の人格を意識させる事で、従順な子供の感覚にさせてしまう。
子供の方が洗脳しやすいからだ。
秘密を集める占い師
まゆみの理解者となり相談事を持ちかけられるようになると、占い師は洗脳をより強固にするためにまゆみの不満を引き出していく。
「母は私(まゆみ)を使って自己実現したかったのかも。
すみません こんな話…」
「どんどん話して まゆみさん。
魂と魂の会話よ。」
ここでも魂やインナーチャイルドを意識させて、軽い催眠状態のようにして飯のタネになる秘密を引き出す。
不満を聞き出すのは、後に不満を増幅させて家族から切り離し、まゆみを自分の支配下におくためだ。
その話の締めくくりで
「あなたは本当に意味のある生きる道を模索し始めた旅人よ。
いずれハイヤーセルフに辿り着くわ。」
ここでも目新しい横文字としてハイヤーセルフ(高い次元の魂)というのが出てくる。
ハイヤーセルフというあいまいな概念で包むと、話の中で不自然な部分があっても目立たなくなる。
コンサルタントが「ガバナンス」とか言えばそれっぽく見えるように、占い師はハイヤーセルフなどの言葉を使う。
家族や会社と切り離して洗脳を深めていく
「先生(占い師)と朝まで長電話して寝不足だわ~~」
占い師は何の目的もなく長電話はしない。
洗脳に有効なのは寝不足の状態だから、眠らせないように朝まで電話したのだ。
まゆみが細かい事を考えられないようにすれば、辻褄が合わない事でも信じ込ませられる。
さらに長電話の中で、下手な鉄砲のように数多くの注意を促す。
その中で占い師が言ったのは
「あなた事故に遭うかもしれないわ。」
というもの。
まゆみが一人ジョギングで足をねん挫した報告をすると、占い師は鬼の首をとったように
「だから言ったでしょ?」
事故ではなくケガなので微妙に違うわけだが、まゆみは占いが当たったと信じる。
その状態にかぶせるように、まゆみが信頼している上司が悪い気を出したせいだと言って、関係を切り離しにかかる。
このテクニックで家族や会社と切り離して、占い師だけを信じるよう洗脳する。
どんどん高いグッズを買わせる
気を込めたグッズとかいう盛り塩や水、それに最近はアロマというように、原価不明のグッズばかりを高額で売りつける。
売るという言葉では値段の高さが目立ちやすいので、良い物を『分ける』という言葉にすり替える。
占いは言葉による印象操作を上手に使う。
商品の名前や使い方にも、演出がなされる。
気を込めた『天明波動水』というのは、霧吹きで部屋中に吹きかけるもので、掛け声は
「天明ハイヤーセルフ」
滑稽な事をさせるのは他人が見たら奇行と思い、まゆみと距離を置くように仕向けるためだ。
まゆみの奇行はエスカレートする
部屋中にグッズを飾った異様な部屋で、占い師に電話をするまゆみ。
占い師はひたすら、まゆみを主人公にした話をする。
「あなたの素顔はとても魅力的で、
誰からも愛されるわ。」
まゆみが聞きたい事だけを言い続けて、洗脳状態を確かめるかのように奇行をエスカレートさせていく。
豚肉を頭に乗せてコッペパンを両手に持たせ、更に卵をくわえさせて鶏のマネをさせる。
我々はいつも、ニュースなどで洗脳された人の最終形態を見せられるのでギョッとするが、奇行はこのように前段階があった上で少しずつエスカレートしていったのだ。
まゆみはちゃんとした大学を出て、出版社に勤める平均より賢い女だが、受身で自己評価が低い隙間を占い師につけこまれてしまったのだ。
ちなみに、路上で書いて売っているあいだみつを風の色紙に、勝手に意味を見出して涙を流すのもまゆみのようなタイプの女だ。
占い師 vs ウシジマくん
ばったりと占い師に出くわしたウシジマくん。
「先生、俺も占ってよ。」
「占いを信じない人は占えません。」
「そーゆー差別する人なんだ。」
ウシジマくんのような人に占いのテクニックは通用しない。
占いの基本テクニックは、誰にでも当てはまるような事を並べ立てて、その中で反応があったものを深堀して信じ込ませていく手法だ。
反応を見る為、占い師は観察眼を持っている。
だが、ウシジマくんの方がストロングスタイルで人間を観察して金をむしり取っているので、『インナーチャイルド』だの下手な演出は通用しない。
ウシジマくんのように人間の裏表を知っていて、かつ合理性が高い人とは勝負にならない。
そこで生み出したのが、信じてない人は占えないという口上だ。
逆に占い師の事を言い当てるウシジマくん
ジッと、いつもの人を見抜く目で占い師を見るウシジマくん。
「その痣 どうしたの? DV?」
「なんでもありません!」
と言って、サッと痣を隠す占い師。
そのリアクションがDVであることを示しているので、ウシジマくんが更に深堀りする。
「その痣 最近できたっぽいね。
先生 男関係大丈夫?」
占いより正確に言い当てられて、焦る占い師。
結局は占い師の女も、それまで何をして生きてきたか不明瞭な日陰者の人生を送ってきたのだ。
占い師には、それまでの素性がわからない者が多い。
結局は弱った人しか騙せない
不満を抱えていたり、弱った人の心を揺さぶって入り込んでいく。
占いを受けにくる段階で、何か迷いを抱えている人だという事だ。
そういう人は、すがる思いで占い師の言葉を自分から信じ込もうという気持ちが強いので、洗脳する意図がある人間にとっては良いカモでしかない。
占いや霊感商法は、あいまいでいかようにも解釈できる話法で、占いが当たったと思わせるテクニックが一つ。
それに反応を読み取るためのコールドリーディングのテクニック。
話の矛盾や粗さを覆い隠すための、カードや単語による神秘性の演出というテクニックを合わせて信じ込ませる。
このテクニックが悪用されて、たまに我々がギョッとするような奇怪なニュースが出てくる。