ウシジマくん編より(39~46巻)
長生きしたヤクザは惨めだ。
ヤクザの語源は8+9+3を足すと、バクチではゼロを意味するところからきている。
彼らは自らを無用の者という、捨て身で生きている。
だが、長寿の世の中になって早死にできない社会は、ヤクザの生き様さえも揺るがしてしまう。
死ぬこともできず、力の裏付けもなくなったヤクザには死ぬより苦しい地獄が待っている。
長生きするヤクザ
「散髪して髪染めるのやめたら
見た目もすっかりじじだよ。
そろそろ楽させてくれ。」
そんな事を言いながら、マージャンを打っている。
普通の老人と同じような光景だが、こんな風に組事務所にいられるのは、極々一部の組長しかいない。
家出少女やホステスには、やたらと組長に囲われていた話があるので組長が多いように感じる。
だが組長にもいろいろある。
実際は組長と言っても自営工務店レベルの小さな組だったり、ヤクザ特有の“フカシ(虚言)”でヒラが組長をかたってるに過ぎない事が多い。
殆どのヤクザは歳を取ると、誰にも必要とされなくなる。
身体だけが資本のヤクザは、老人になってしぼむとシノギはできない。
掛け合いをするだけの頭が働かず、かといって暴力に訴えようとしても枯れ枝のようでコケ脅しにもならない。
こうなると、単なるキレる老人と変わらない。
この衣笠のようにどこにも居場所がないヤクザは、育児放棄の子供みたいにゲーセンのメダルコーナーで時間を潰している。
ヤクザの私服はダサい
ヤクザにとってファッションは、人を威嚇する意味しかなかったから、自分に似合う私服がわからない。
どんな服を着れば年齢に相応しいかわからず、子供が着るような服を平気で選んでしまう。
金がないヤクザは、紳士ではなく中学生みたいな恰好をする。
彼らはTPOに関係なく、いつも少年のようなキャップを被ってしまう。
全体的に安っぽくて、どこのリサイクルショップで買ったのかと思うような服しか持っていない。
長い間、ヤクザという人格に人生を乗っ取られていたから、普通の人のような生活感がない。
たとえ金があるヤクザでも、冗談みたいな服装しかできない。
特にニットなど軟らかいイメージの服を年配のヤクザが着ると、なぜか『おばあさん感』が出てしまう。
この化学変化は、プリンに醤油をかけるとウニの味になるみたいな不思議な現象だ。
だからヤクザは、よくブランド物のジャージに逃げてしまう。もっと詳しく:『人を見抜く方法』ヤクザの暮らし
ヤクザから、社会に放置された子供になる
老人ヤクザの衣笠は言う。
「行政からの生活の面倒もなしだ。
この国の人権ってなんだよなぁ、おい!」
人に難癖をつけるのが慣習になっているので、口を開けば不平不満しか出てこない。
酒やけした声でグチりながら、酒を空けてしまう。
人の人権を奪ってヤクザ稼業をしていたのに、ヤクザが人権を言うのはスジが通らない。
ヤクザが筋違いを気にしなくなったら、もはやヤクザでもなく単なる駄々っ子だ。
実際、人間は年を取ると前頭葉が衰え、子供の頃の人格に戻ってしまう者が多い。
歳をとるとバグが増えるのは、おばさんも同様だ。
外見同様に中身も子供の衣笠は、滑皮からの小遣い銭で暮らしている。
「猪瀬組で食えなくなった年寄りは
みんな滑皮さんに感謝しております。」
ヤクザの名残で、三文芝居の役者じみた言い回しで感謝する。
薄い封筒には大した額は入っていないが、他に収入がない衣笠には大金だ。
ニカッと、お年玉をもらった子供のようにはしゃぐ衣笠。
「ちょっと行きつけの飲み屋で
引っ掛けてくるわ。」
子供だからお金の使い方を知らず、すぐに散財してしまう。
あるいは酒浸りなのは、肝臓を壊して早く死ねる事を願っているのかもしれない。
ヤクザは困難な状況で弱った人や、後ろ盾のない弱い人を金に換えて生きてきた。
歳をとって弱くなった今、自分が社会に報復を受けて裏路地に追いやられる。
ヤクザもバカでは続かないが、続き過ぎたヤクザも賢いとは言えない。
ヤクザの格言に、どういう者がヤクザに向いているのかという言葉がある。
バカでなれず、利口でなれず
中途半端でなおなれず
バカには掛け合いや力関係の計算はできないし、利口ならリスクの方が多いヤクザは職に選ばない。
中途半端な人間は一番使い物にならない。
つまり、ヤクザに適した人間などいないという事だ。