サラリーマンくん編より(10~12巻)
若者はおじさんの事を汚いと言う。
だが、その若者もやがてはおじさんになっていく。
精神力ではどうにもならない、男の変化のメカニズム。
小堀の上司、志村課長
サラリーマンくん編
会社で男性サラリーマンの小堀に声を掛ける志村課長。
だが、その眼は意識を離れて奥にいるOLの尻を追っている。
小堀に話しかけながらも、ずっとお尻を見ている。
若い頃にはなかった、こういったおじさんの無遠慮なエロさとは何なのだろう。
若い頃の性欲は、発散をしたいという衝動的でインパクトがあるものだ。
そのために行動を起こして行為を達成すれば、潮が引くように収まっていく。
しかし、中年になって行動力が衰えてくると、性そのものへの欲求ではなくなってくる。
性欲がまだあるのだという思いに執着しているのだ。
だから、ネットリとして終わりがない。
子孫を残すという本来の性欲とは離れていて、性欲を失っていない自分を確認したくて気持ち悪くなっていく。
若い頃には、目が合った異性と意識し合うような経験もあっただろう。
中年になるというのは毎日少しずつ進んで老いていくので、若い頃との変化を自覚しにくい。
だからおじさんは、まだまだイケると勘違いしてしまう。
イケる事を確認したいがために若い女性にちょっかいをだして、おじさんは心底嫌われていく。
詳しく:第六章 年代の人間学『なぜ職場のおじさんは、若い女性にイケると思うのか?』
おじさんは仕事の面でもズルくなっていく。
課員の前で朝礼をしている志村課長。
課員の前で朝礼をしている課長。
育児で3時間しか寝ていない小堀が、つい眠そうにしてしまう。
すかさず志村課長が怒る。
「じゃあ私が今なんて言った!?
言ってみたまえ」
課長はドヤしつける気まんまんでいたが、聞いていないと思った小堀が正確に復唱してしまう。
「む? そっ…その前は?」
これも小堀が復唱してしまう。
「はぁ~~あ、同じ言葉を繰り返すのは九官鳥でも出来るンだよ!!
オウム並みの脳ミソしかないのかね、キミは……」
小堀が全て復唱できても、最初から怒ってマウンティングするつもりだったから引っ込みがつかない。
そこから議論に発展してしまい、その議論も課長は感情論しか言えないのに対し、小堀は理のある事を言った。
それを課長は圧で制し、後はネチネチとした説教を続けた。
そんな課長の心理を、課員たちは皆知っていた。
朝礼が長引いたせいで、各自の営業のスケジュールが押してしまう。
『いい加減、課長の性格理解しろよな!!
あんなコト言うから朝礼長びくンだよ!!
課長だって追い詰められてて、能力がないの、バレそーだから、
小堀を非難して、優越感に浸りてーだけなんだからな。』
課長が無能がバレるのを必死で隠していたのは、感度のいい若手たちはとっくに知っていたのだ。
課長の裏の心理まで読まれて、完全に面従腹背の状態。
課長だって若い頃に功績をあげたから出世ができた。
だが営業マンというは行動力や、嫌な事を言われても切り替える『瞬発系の気質』が必要とされる仕事だ。
長年『瞬発系の気質』ばかり使って発達したが、中年になり体力が落ちると営業的な能力も衰えた。
課長はプレイヤーとしての能力はあったが、指導者としての気質が育っていなかったのだ。
だからマウンティングで自分の能力があるようみ見せるしかなかった。
小堀の案件を横取りする志村課長。
「この件は大事な契約になるから……
私、自ら陣頭指揮を摂る!」
猿の時代は腕力でボスの代替わりがあったが、知恵のある人間は権力によって長くボスでいられるようになった。
志村課長はまだまだ、役職にしがみつく。
中年のおじさんは嫌われている
中年会社員くん編より(29巻)
中年のおじさんは、基本的に他人の話を聞かない。
長く生きていると生存できたのは自分の考えが正しかったのだと考え、若者の意見に耳を貸さなくなる。
だから嫌われる。
花丸部長もその一人。
かつて花丸の指導を受けたことがある加茂が、花丸部長を見かけて声をかける。
「お、顔ちょっと焼けてません?
花丸部長ゴルフですか?」
『おお まあな。』
(こいつ、俺のことよく見てるな。)
小ずるい加茂は、こうして見てやっていると花丸部長が喜ぶことを知っている。
加茂が
『最近こっち(酒)はどうですか?、』
と水を向けると、花丸は飲みに誘っても部下らが普通に断る事を嘆く。
花丸部長が断られないかビクビクしながら、加茂を飲みに誘う。
「また飲みに行くか?」ボソ‥
(ま、まさかコイツは断らんだろ…)
加茂は媚びへつらいの男娼みたいなものだから、にっこりとして
『はい!いつでもどこでもお供致します!』
この加茂の笑顔。
本心を悟られないよう目をぎゅっと瞑り、口だけで笑いを表現する作り笑いだ。
ダメ押しで花丸部長の存在を持ち上げるような事を言う。
『私は花丸部長に夜の街で鍛えられた最後の弟子です。』
「ははは、面白いこと言うね。」
自分の影響力を感じたいおじさんには、効果抜群だ。
安い立ち飲み屋に行く花丸部長と加茂。
若い人間からしたら自分でも行けるようなところに連れていかれて、気を使う時間など過ごしたくない。
「私が嫌われてる噂とか耳にしないか?」
鈍感な花丸でも、さすがに部下たちの態度を毎日見ていたら感じるものがあるようだ。
「前の部署では皆とよく飲みに行ったが、
今の部署はあまりにも交流がないから、部下にどう思われているのか気になるよ。」
(いや、前の部署でもあんたは評判悪かったよ。)
こんな風に加茂も、ちゃんと花丸の事が嫌いだった。
とりあえず飲んでおけば嫌われていないと思う、花丸おじさんの鈍感さ。
だがそうして鈍感になっていかないと、人生の折り返しを過ぎて滅びへと向かう事に耐えられない。
中年以降は、男女ともに険しい道が待っている。