出会いカフェくん編より(13巻)
女は寄ってくる男の中から条件の良い者を選ぶ選択権を持っている。
男は女に選んでもらうため、地位や金でアピールをする。
だがブスはこの枠組みの中に入れてもらえない。
男⇔女 とは別に【ブス】という独自のカテゴリに隔離される。
ブスは都合よく、男女間の愛憎劇の隙間を埋めさせられる。
ブスは本命にあぶれた男の性欲解消と、女の引き立て役に使われるだけで、決して主役にはしてもらえない。
ブスを囲む世界には優しさがなく、負の感情をあてられる内にブスの性格は悪くなる。
陰気なブスは『疫病神』、強気なブスは『破壊神』と、いずれにしてもブスは負のパワーを増大させる。
そんな破壊力のあるタイプのブス、冬美がバケモノになった理由。
ブスなうえに虚言癖のある冬美
高校時代のグループ4人で会う約束だったのに、2人がドタキャンして美來(みこ)だけがブスの冬美を待つことに。
(あのコ苦手なんだよなァ…… 虚言多いから)
実はドタキャンの2人も冬美が苦手で、来るのを知ってキャンセルしたのだ。
美來も帰ろうと思ったが、一足遅く逃げそびれて冬美から着信が入った。
「あ…‥冬美‥‥‥
今日のコトなんだけど、 え!?もう着いた?
今、ドコら辺?」
『下。』
帰ろうと思ったところで着く冬美の間の悪さも、ぶっきらぼうな言葉もイラッとさせられる。
グループの3人とも冬美を嫌っているなら高校時代につるむのを止めればいいのだが、あからさまな衝突を嫌う女子は惰性で関係を続ける。
待ち合わせ場所に現れた冬美は、高校時代からのずんぐり・むっくりなのは変わらないが、卒業してから髪を染めて露出が高い恰好になった。
『チュース。』
冬美は遠慮しないブス=破壊力のあるタイプのブスだ。
着ぐるみを着ているわけじゃないのに、街を踏みつぶす怪獣みたいだ。
プルプルのリップを強調したいのか、美女がする仕草を真似る冬美だが、男梅にしか見えない。
『可愛くなった!? ん? ん?』
ブスは正直に答えるとケンカになるような質問をしてくる。
美來は焦点の合っていない目をしながら
「うーーーん、まーーーねェーーー…」
とお茶を濁す。
就職したという冬美は1万5千円のネイルやカバン・ヒールと、金回りが良さそうだ。
お金に困っている美來とバイトの話になり、美來がスナックで安い時給のバイトをしていると聞くと
『あんたバカ? 若さはお金になるのよ?』
と言って出会いカフェに誘う。
美來は一度は断るが、後日やっぱりお金が必要になり行く事にする。
待ち合わせ場所に来た冬美。
『チュース。』
ゴブリンみたいで、何度見ても慣れないブスさ加減にビックリする。
ブスは3日で慣れると言うが、それはブスを見て平衡感覚が歪んでくるからだ。
しかしこの世はブス以外の女性もいるので、他を見てすぐに感覚が戻るから、ブスに慣れる事はない。
出会いカフェで美來と冬美が並んで座る。
時空が歪んでいるのか、冬美だけ魚眼レンズから覗いたようにデフォルメされている。
美來はラフな格好で冬美は着飾っているのに、不潔感があるのは冬美の方だ。
美來は何もしなくても男たちの人気が高く、食事やカラオケに行くだけで稼げる。
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冬美はウリをしていないと言うが、実際はウリをしないと声がかからない。
ブスはしょうもないウソで現実の差を穴埋めしようとする。
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嫌われるブス
冬美以外の3人で会う女子。
この絵の方が女子のグループとして、まとまりがある。
美來(みこ)と冬美だけだと、珍道中みたいな絵になる。
美來が冬美を呼んでいないのか聞くと、他の二人は
『だって、あいつ基本的に虚言ばっかじゃん。
話、いつも5割増しにもってくるしさぁーあ。』
『聞いてるうちにハラ立つよねーー』
『知ってる?あいつの就職先。』
「知らない。」
『ピンサロ。』
「マジ?」
『マジ。だって店入るとこみちゃったもん。
ピンサロを就職ってカテゴリーに入れるなよな!』
就職をしたと言っていたのに、実際はピンサロ勤めだった。
ここでもしょーもないウソをついている。
ブスの世界は辛すぎて、自分の存在をウソで固めないと生きられない。
冬美はこの友人たちも出会いカフェに誘おうとして、毛嫌いされていた。
更に中学時代からエンコーをしていて、
「コンビニ行かね」
くらいの感覚で始めたこともキモがられている。
豚女と呼ばれる
出会いカフェでウリをしている冬美について、買った冴えない男たちにすら掲示板で『豚女』と蔑まれて悪口を書き込まれている。
軽く食事だけでお金を貰える美來とは、価値が違いすぎる。
「チューッス!!」
冬美は毎回ギャルのように挨拶するが、蒸しあがった肉まんがやって来たようにしか見えない。
自分からウリをしている話をする冬美に、美來はなぐさめるつもりか自嘲的に
「私も似たよーなもんだし。」
と言うと、冬美は
『全っ然、違ーだろっ!!!』
と声を荒げる。
確かに冬美と美來とでは、同じ街にいながらパラレルワールドのように世界が違いすぎる。
美來に近づく男は食事以上の関係になろうと、美來をおだてたり優しい言葉をかけたりする。
それが美來の知っている世界だ。
しかし冬美の周りの男は汚い本性だけを見せ、ションベンをひっかけていく。
冬美は客に全てを提供しているのに、客は性欲に負けて冬美を抱いた事に嫌悪感を抱く。
そんな悪意の中で冬美の自尊心は奪われていった。
ブサイクな男性よりブスな女性の方が辛いのは、性別の違いからだ。詳しく:第五章 男女の人間学(容姿に関する侮辱)
ブスが性格悪くなる理由
JPという地元の不良にオナホ扱いを受けた後、CCレモンを買いに行けと命令される。
冬美が
『何で私が?』
と口答えすると、
間髪いれずにJPにグーで殴られた。
殴られた上に説教もくらう。
「精神年齢、人間以下のテメェはブタだ!!
男も女もねェ!!」
JPは美來の事を好きで、美來といい感じのアキトをコンテナに閉じ込める際、ついでに冬美も放り込んだ。
暑さと喉の渇きで、肉だるま入道のようにあえぐ冬美。
座ると尚更ゆるキャラみたいな体型が強調される。
美來に好かれるだけあって、性格のいいアキトは自分が持っている飲みかけのミネラルウォーターを冬美に差し出す。
「ほら‥‥
先に飲めよ冬美。ひとくちだけだぞ。」
それをひったくるように奪い取り、一気飲みする冬美。
「おい!! 全部飲みやがったな!!
俺の分は!?」
冬美は悪びれることなく
『ふーふー。あづいあづい。
もっと水ないの?』
と、こんもりした牛糞な顔で言い放つ。
冬美はふと、漫喫のドリンクバーでこっそりペットボトルに入れたカフェオレを持っていたのを思い出す。
だが、
(私のカフェオレ取られてたまるもんですか……)
と、アキトに教えないで隠した。
冬美は周囲の人間に蔑まれ、自尊心を奪われて心には何も残っていない。
これ以上、誰にも何も奪わせまいとする気持ちが強く、数少ない優しい男も信用しない。
関連:寂しい老後 金子のババア
外見も中身もバケモノ
冬美は水を飲み干すと、閉鎖されたコンテナの中でもオシッコがしたくなった。
コンテナの隅でペットボトルにジョボジョボと小便をする。
すると弾みで”大”もひり出てしまう。
「うっ くさっ!!」
コンビニ袋に出せばいいものを、地べたに直(じか)に出してしまう。
ブスよりも、ゴールデン・レトリバーの方が行儀がいい。
絶対にやってほしくないシチュエーションでやってしまうのがブス。
好きなだけ水を飲んだと思ったら、口と肛門が直結している虫かのようにすぐにフンをする。
まるでイモムシのバケモノにしか見えない。
だがそれは、冬美をバケモノとして扱った世界に責任がある。
世の中の男女間で生まれる軋轢を、ブスにぶつけて具現化したのが冬美という人間だ。