中年会社員くん編より(29巻)
男は地味な女性なら、大概の事は許してもらえると思っている。
不美人なら、何をしても許されるものと思っているかも知れないが、堪忍袋は容姿に関係ない。
男女ともに、異性を外見によってランク付けをする。
しかし男は露骨に、わかりやすく女性にそれを伝えてしまう事が多い。
地味な保険外交員の瑠璃は、中年会社員の加茂と不倫をしている。
その加茂に、どうでもいい女扱いをされた時、瑠璃はキッチリ報復する。
容姿によって扱いを変える男たち
独身の瑠璃は、中年会社員の加茂と不倫をしている。
加茂は一流メーカーに勤めてはいるものの、顔もパッとしないし体型も貧弱だ。
しかも、瑠璃に金銭を与えていないどころか、逆に金を借りている。
世話になっているのに加茂は内心、瑠璃の事をブスかわと呼んでいる。
瑠璃が電話に出なかったときなど、
「生意気だ ブスかわのくせに」
とつぶやいている。
こういう男の態度は、瑠璃にも伝わっている。
瑠璃は加茂と一緒にいる時には口数が少ない。
加茂が一方的に言いたいことを話している。
このあたりも瑠璃の経験上、自分の語りなど男は求めていない事を悟っているのだ。
男は大きめの胸を目当てに寄ってきているだけだと。
どの女性も自分に自信を持って生きてきたはずだ。
しかし、10代の後半頃から容姿による扱いの違いを感じる事が増えてくる。
男は内心を隠すのがうまくない。
デリカシーの無い男によって露骨に容姿の差を感じさせられる内に、卑屈になっていく。
こういう扱いの差は、女性の方が敏感に感じ取る。
女性が微細な感情にも敏感なのは、赤ちゃんの異常を早期に気が付くためと言われている。
女性は地味な外見だからと言って、扱いの差に寛容なわけではない。
反発したら、男が離れていってしまうから我慢しているに過ぎない。
ちゃんと不満は抱えている。
加茂は瑠璃と付き合いながらも、キャバ嬢の花蓮に入れ込んでいる。
瑠璃の家に行く約束をしていても、花蓮からメールで食事に誘われると、そっちに行ってしまう。
部屋でカレーのようなものを作っていた瑠璃は、仕事で行けないとウソをついている加茂を労う。
部屋は質素で飾り気がなく、地味な部屋だ。
加茂は花蓮とはレストランに行くのに、瑠璃とは雨天でも公園に行く。
しかも、少し話してすぐに瑠璃に金を借りる。
加茂が帰る時、瑠璃はいつも寝たふりをしている。
こうする事で、帰り際に気を遣う必要がない女だと思わせている。
女は男にここまで気を回せるのに、男はそれに気が付かず増長していく。
地味な女性も怒らせると怖い
瑠璃から金を借りた直後に、加茂はキャバ嬢の花蓮に送るメールを瑠璃に送ってしまう。
それでこの表情。
このリアルさ。怨念の怨の字が浮かぶような、静かで底知れない怒りの表情。
加茂に直接くってかかるような関係でもなく、かといって許すつもりはない。
我慢に我慢を重ねてきたのは、誰かに必要とされる実感が欲しかったからだ。
それが崩れた時に、瑠璃が積み重ねてきた恨みは怨霊になる。
加茂だけでなく、今までの人生で瑠璃が受けた扱いに我慢していた。
瑠璃も一人の女性として、自分に誇りを持って生きていた。
だけど美人と同じように自己主張をすれば、男はすぐに捨てていく。
どんどんと卑屈になっていき、中年の加茂のレベルまで付き合う相手の質を下げた。
その加茂にこの仕打ちを受けたのである。
温和そうに思える人の恨みほど怖いものはない。
お地蔵さんのお供え物のまんじゅうを盗むと、けっこう怖い祟りがあるように・・・