フリーターくん編より(7~9巻)
詐欺事件が起こる度に、被害者をバカにする風潮があります。
被害者は本当に愚かなのでしょうか?
騙しの手口は定型のフォーマットがあります。
普通の人が不安や不幸で判断力が弱った時に、騙しの手口にひっかかります。
身体が弱った時に風邪をひくのと同じように。。。
お金に困った状態の被害者
あまり働いていない宇津井優一を持つ母親、宇津井美津子の場合。
ウシジマくんに借金の申し込みをする時に、必要な理由を事細かに説明してしまう。
宇津井美津子は株の信用取引をしていた。
信用取引というのは、手元に100万円しかなくても、その数倍の額で取引ができるものです。
しかし、値動きの影響も数倍となり、株を保持している間に手元の100万円を超える損が発生すると、強制的に株を処分されて損が確定します。
強制的に処分されたくなければ、追加で資金を入れる必要があります。
宇津井美津子はこのお金が必要でした。
そんな時間的に切羽つまった内情を、よりによってウシジマくんに説明してしまいます。
超現実主義者で、むしり取る事に躊躇の無いウシジマくんは、詐欺の絵を描きます。
より深く詐欺をするため、宇津井家の事情を聞き出すウシジマくん。
宇津井美津子の夫は、美津子に相談もなく会社の早期退職に応じて無職になっていた。
息子は無気力で働かないから、家計の先行きが『不安』で株の投資を始めてしまった。
だましやすい人を見抜く方法の一つ、困った人ほどだましやすい。
宇津井美津子はお金を増やすつもりで始めた株だから、絶対に負けられない。
色々と追い詰められた人は、ワラをもつかむ。
詐欺師たちは、飢えた魚の前に釣り糸を垂らすだけでいい。
詐欺の役者は複数
ウシジマくんの知り合いで、兜町(株の取引所がある街)界隈で金融屋をやっている樺谷(偽名は樺野)を紹介される。
事務所に向かう際、兜町を通って街中を案内して、それらしい雰囲気を作っていく。
これ、詐欺の導入口でよくある手口です。本格的な雰囲気を醸し出していく。
樺谷は兜町の証券マン相手に金融業をやっているから、アナリストも知り得ない情報を得られるという。
高級そうな腕時計をチラチラと見せつける。
これも詐欺師の手口。
いかにも金持ちを装う事で、被害者に金持ちに成れる希望を抱かせる。
弱っている被害者にとっては、抜群の効果。
上がる株の銘柄を直接教えるのはヤバいなどと言って、会社名が乗った誌面を樺谷がペンで差し、宇津井美津子がそれを覗き見るという構図。
宇津井美津子が樺谷たちに
「絶対、騰(あ)がるんですね!?」
と聞いてきたら、最後の殺し文句を言う。
「判断は宇津井さんご自身でしてください。」
これで逃げを打っている。
株の銘柄を明確に教えているわけでもなく、質問もはぐらかしている。
それでも、ここまで演出されたら切羽詰まった人間は乗っかってしまう。
そんなやり取りの間にも樺谷のケータイに、株で儲かったお礼のニセ電話が入ったりと、演出が施される。
株を購入する証券会社として、樺谷に木都根(きつね)を紹介される。
樺谷の友人だから、宇津井の事も親身に相談にのってくれるのだと。
これが木都根。
一応は証券会社に勤めているが、樺谷たちと組んで詐欺の片棒を担いだりもする。
腰が低そうに挨拶をするが、この時に木都根は宇津井美津子の身なりをチェックする。
安っぽい服に靴だなと。
ウシジマくんがリアルなのは、こういう人物のリアルさ。
木都根は小太りだけど、全然おおらかそうじゃない目つき。
それに口元がカバっぽくて、イヤラシイ。
髪型も短髪で清潔感を出そうとしているが、ゲスな本性がにじみ出ている。
宇津井美津子に上がる事を示唆した会社について、樺谷が知っているのは下がる情報だ。
社長が薬物に手を出していて、週刊誌に出される事を知っているのだ。
その情報を最大限に活かすために、複数で詐欺のチームを組んでパス回しをしている。
ウシジマくんと樺谷が金を貸し、株価が下がる度に宇津井に追加で貸す。
木都根は宇津井に依頼されて株を買ったふうに見せて、実際は買わないで代金を受け取る。
途中で宇津井が株を現金化しようとする度に、不安を煽って先延ばしにさせる。
さぁ、週刊誌が出て株価が暴落したら、詐欺も完成。
被害者はこの時点がスタートだと思っているが、残念ながら終わっている。
どうしようもならない状況になってから対処しようとするが、詐欺のワナは終わっている。
資本主義は奪い合いだから、誰かが親身になって自分のお金の事を考えてくれるわけはない。
親身になって相談に乗ってくれる人がいたら、それは詐欺師。